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『ITイットTHE ENDそれが見えたら終わり』感想。ペニーワイズは梅沢富美男を目指せ。

ペニーワイズと言えば、下水道に住んでいるよく分からないモノをオススメしてくるおっさんだと思われたり、この前の大型台風が来たときは下水道が氾濫したので、流されていないかと犬や猫と同じような感覚で日本国民から心配されたりして、本来のホラーアイコンからただの変なおじさんに変わりつつあるキャラである。

ただ、これは貞子や『学校の怪談』のテケテケのように、そのインパクトのある見た目と恐怖や緊張感からくるほんの僅かな笑いの拡大解釈の要素が大きく、それだけキャラとしての魅力が詰まっている証だとも言える。

そんなペニーワイズが前作『IT/イットそれが見えたら終わり』の大ヒットを受け予算も大幅アップしたのか、怖がらせの規模が大きくなり、風船の数も多くなったり、漫☆画太郎のババァに変身したり、某5ch掲示板でのレスバトルが滅茶苦茶弱そうというどうでも良い事実が判明する本作『ITイットTHE ENDそれが見えたら終わり』の感想をネタバレありで書いていきたい。

 

ポスター/スチール写真 A4 アクリルフォトスタンド入り パターン19 IT/イット THE END ”それが見えたら、終わり”光沢プリント

 

 

恐怖という痛みと共に大人になる

大人になった今、昔のことを思い出すといじめっ子に遊戯王カードを奪われた思い出や、友達の家で鬼ごっこをしているとガラスに直撃してしまい、3針縫う事になり、その友達とも疎遠になってしまった思い出など、どうしても楽しい思い出より辛い思い出が先行してしまう。

身体的痛みは忘れるけど、精神的痛みは消える事なく常に心の中で根っこを生やしている感覚に囚われる。所謂「トラウマ」というモノなのかもしれない。私達はそれを常に抱いて生きていくにはあまりにも巨大な感情なので、忘れようとする事で日々の安定を保っている状態だと思う。

なので人は過去を振り返るときに、良い記憶ばかりを思い出そうとして、そういったトラウマからは目を背けようとする。

 

そして本作の主人公たちであるルーザーズクラブのメンバーも子供の頃は、名前の通りスクールカーストの最下位である負け犬集団で、いじめられたり、家庭内で問題があったりして一般的に輝かしい学生生活とは言えない暮らし方をしてきた。そして何よりも「ペニーワイズ」という共通のトラウマを抱える。

27年後、勝ち組過ぎるのでは!?と嫉妬するぐらい立派に成長し、子供時代に植え付けられた恐怖やトラウマを克服したように思えた7人のルーザーズ

しかし、彼らは当時の記憶を殆ど忘れていた。

つまりそれぞれの怯えを克服したのではなく、忘れることで克服したのだと自らを言い聞かせていた状態であり、街から逃げて恐怖を見て見ぬフリをしながら大人になったしまった主人公たちの再起と奮起が描かれている物語になっていると言える。

 

本作では主人公たちは再び自分たちの恐怖と過去に向き合う。

ただ、それは辛いだけのモノではなくて、自分の過去と向き合う事で、忘れてはならなかった大切な思い出や、かけがいのない想い。何よりも大切だった思い出もそこにはあり、どうしても恐怖ばかりが目立つ中、忘れやすく、溢れやすい友達との何気ない日常の一瞬が本当の宝モノだった事に気づく。

 

だから、怖いからと言って忘れるのではなく、良い記憶も悪い記憶も含めて自分自身なのだと想い、その恐怖という痛みと共に大切なモノを抱いて生きていく事を主人公たちは決心して新しい生活を歩んでいく。

 

ペニーワイズさん

冒頭、同性愛カップルが不良にボコボコにされるシーン。

やたら長く胸糞悪いのに、その後何も回収されないの一体なに。

しかもペニーワイズさん、ボコボコにした不良を狙わず、ボコボコにされた同性愛カップルの方を狙うという狡猾さ。普通、ホラー映画って『スカッとジャパン』じゃないけど、人の理を超えた存在の化け物が性格の悪い人間も天誅を下すのがお決まりじゃないのか。あの不良は一体何なんだ。ちゃんと殺せよ。

その後も顔に傷がある少女を狙ったり、狙う相手を間違えている感が凄い。もっと性格の悪い成金とか坂上忍を狙って欲しい。

中盤、ペニーワイズさんの恐怖ネタにビルが「だんだん慣れてきたぞ。」というセリフを口にするシーンがあっだが、あんな観客もウンウン頷く自虐ネタも珍しい。緊張感が常にいるホラー映画で169分はやはり長い。

 

そんな小狡くネタ切れ感漂うペニーワイズさんだが、レスバトルに滅茶苦茶弱い事が判明する。

あんな小学生みたいな悪口で弱体化するなら、罵詈雑言飛び交う今のネット時代では生きていけなさそうである。ただの変なおじさんというイメージが定着されつつある日本のネット界だとペニーワイズさんの居場所はなさそうで可哀想である。取り敢えずペニーワイズさんは梅沢富美男の無駄な自信過剰さと炎上になっても気にしない図太さと、悪口言われたら顔真っ赤にして反論する心意気を見習ったほうが良い。

 

多分、ツイッターとかやると最初は調子乗るけど直ぐ論破されて涙目で垢削除するタイプでますますネットの愛すべきキャラとして好感度上がる。

また、クリーチャーの造形も良かった。特に漫☆画太郎先生のババァみたいなヤツとか動きもババァで良かった。漫☆画太郎コラボしているのかと思った。

 

原作と映画の違い

執拗なまでにビルがしきりに「君の小説は結末が酷い」と言われていた。

これは原作を書いているスティーヴン・キングの小説は中盤まで盛り上がるけれども尻すぼみ感が凄いと言われる事が多い事を皮肉っている。アメリカ版浦沢直樹のような存在である。

そして原作と映画で一番違うのは終わり方。

原作はモヤモヤが残るバットエンドで終わるが、映画ではハッピーエンドだ。「多くの人がハッピーエンドを望むが、必ずしもそうなるとは限らない。」というビルのセリフ通り、スティーヴン・キングの小説は基本的に不幸な結末、悲惨な最後、後技の悪さが持ち味である。映画ではカットされたが原作ではビルの妻が彼を追っている所に、ペニーワイズの死の光を見てしまい、意識が戻らなくなってしまうという展開がある。そのような暗い展開を全てカットしており、「ルーザーズ」メンバーの再起に集中させた作りになっている。

スティーヴン・キング本人はこの改変にどう思うのだろう。過去に映画版『シャイニング』の終わり方に怒った過去がある。

ただ本作ではリサイクルショップの店長にスティーヴン・キングカメオ出演しており、彼自身の口から「結末が酷い」と言わせているのだ。凄い。

やはりスティーヴン・キング自身も歳を取り、角が取れて丸くなり、絶望よりも希望を望むようになったのだなとしみじみ思う。

 

小ネタ

ペニーワイズさんはミーハーなので名作映画からのオマージュも結構ありましたね。

スタンリーの生首蜘蛛。あれは1982年の『遊星からの物体X

またべバリーがトイレに閉じ込められ大量の血液が流れ込んで来て、ドアが少し開いて顔が出てくるシーンはみんなお馴染み『シャイニング』 

またラストで映画館が『エルム街の悪夢』の文字看板が付いてたりする。

 

最後に

スティーヴン・キングの名作の映画化であり、スタンバイミーのような味付けで大ヒットした前作。

本作は大人になった主人公たちの心の中にある「ルーザーズ」という思い出がメインにある。

それはただ辛いだけだと思っていたが、大人になるとそんな辛さの中にほんのささやかな幸せがあった事に気づく。

私も決して順風満帆な学生生活とは言えなかったが、それでもいま思い返すと辛い辛い思い出の中に、ほんの少し輝く思い出がある事に気づく。それは本当に小さなモノだけど、見逃すのではなく、一つ一つ拾って、人生への糧にしていきたい。そう思える映画だった事は間違いない。

IT(1) (文春文庫)

IT(1) (文春文庫)