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実写映画『地獄少女』感想。白石晃士監督による見事な百合映画

実写映画『地獄少女』は百合映画である。

こういう事を書くとま〜た百合オタクが軽率に百合認定しているよと叩かれるかもしれないが、本当に百合映画なんですよと叫びたくなる。因みに先日公開した『ターミネーター:ニュー・フェイト』も百合映画です。本当です!

そんな百合映画であり、白石晃士映画でもあり、『コワすぎ』シリーズお馴染み工藤仁がある意味主役である本作の感想を純度100、ネタバレありで書いていきたい。

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(C)映画『地獄少女』公式HP

白石監督

 まずはやはり、白石晃士監督について書かなければならない。

白石監督を語る上で『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』というホラービデオシリーズは避けては通れないだろう。映像製作会社の暴力ディレクターとアシスタント、カメラマンの3人のチームが、視聴者から送られてきた口裂け女や幽霊といった怪奇現象を元に取材を行い、そのままスタッフも怪奇現象に巻き込まれるという壮大な物語。

予測不能な展開と特徴的なキャラクターが魅力で、今でも根強い人気があるシリーズである。

白石監督は他にも『ノロイ』、『オカルト』、『カルト』などの信仰や宗教に関連するホラー作品を手掛けており、しかもそのどれもが高く評価されている。ジャパニーズホラー映画界隈では今最も勢いがある監督と言っても過言ではないだろう。

 

また白石監督はゴジラシリーズ以外でタイトルに『VS』が入る奴は駄作が多いというジンクスがある中、『貞子VS伽椰子』という出オチのような作品すらも、白石テイストは残したまま見事なまでに一流ホラー作品に仕上げてしまった。

 

そんな順風満帆な白石監督だが、今年の始めに不幸な出来事が起きた。

そう、公開間近の映画『善悪の屑』が、主演俳優新井浩文の事件により公開中止となったのである。被害者もいるので致し方ない判断だが、やはり白石監督ファンとしてとても悲しい事件であった。

 

そんな悲しさを抱きながらようやく鑑賞することができた白石監督の最新作『地獄少女

人気アニメの実写化という事で叩かれやすい作品だし、パンフで元々アニメの『地獄少女』を見てなかったとバカ正直に書いており、これ原作ファンから叩かれるヤツ!と心配にもなったが、実際に観てみると『地獄少女』の味を白石監督が良い感じに調理しており、観たいモノが観れたという満足度が高い事になっている。

 

概要

「人を苦しめたらあなたの悲しみは消えるの?」

午前0時にのみ繋がる「地獄通信」というサイトに恨んでいる相手の名前を書き込むと、地獄少女が現れ相手を地獄に流してくれる。その設定は基本的に原作そのままで、地獄少女が三藁を従えている点や地獄少女の謎を追うフリーライターが登場する点はアニメ1期と同様となっている。

アニメでは、地獄少女と繋がっている少女つぐみと、その父である一が、恨んだ相手を地獄に流そうとする人々に接触し、説得を試みていくというのが大筋であった。

しかし説得の結果は失敗で、どれだけ一とつぐみが訴えようとも契約者は結局、呪いの藁人形の糸を解いてしまう。

今回の映画にはつぐのような少女は存在せず、原作で執拗なまでに描かれた「地獄流しはしてよいのか」という視点は最低限に抑えられている。

 

この映画で強調されているのは「地獄」。地獄少女との契約は、糸を解けば相手は即座に地獄に流されるが、自分も死後に地獄に行くことになるというもの。つまり、「自分の地獄行きを決定づけてまで相手を流したいか」という点が強調されてる。

地獄通信に相手の名前を書き込むと、書いた人はその場でいきなり画面に引きずり込まれ、地獄がどんなものかを味わうことになる。首から下が幼虫のようになったり、串刺しにされた後に炎で焼かれたり様々だ。

そこから湖へと瞬間移動し、地獄少女が現れてシステムの説明を始める。この「依頼者が1度地獄を体験する」という演出は映画独自のものである。しかし、これにより地獄流しの覚悟が相当なものであることが観客にも伝わり、より重いモノになっている。

そしてそれが、終盤、自分のためではなく、友達の為に地獄流しを決断する少女の覚悟に確かな「百合」を感じてしまうのだ。

 

アニメでは大概の場合、人形の糸は解かれ、それが救いになることもあれば、実は恨んだ側の勘違いだったというオチもあった。映画では暴力は暴力を生み、復讐は復讐を生みという事をより強調された作品になっている。

 

また本作では、閻魔あい達のキャラクター性を排した。閻魔あいと三藁の奇妙な絆が地獄少女における重要な要素であることは間違いないが、ホラー映画として成り立たせるためには白石監督は彼らのそのキャラクター性を極力排している。そのため、あいや三藁の背景はほとんど描かれず、セリフも少ない。この映画に登場するのは人間を地獄に流すだけの存在なのだ。

 

なので、主演の玉城ティナさん目的でこの映画を観ても物足りなさはあるかもしれない。玉城ティナさんより波岡一喜さんの方が間違いなく出番が多い。

 

玉城ティナさんの代わりに物語を動かしていく人物は平凡な女子高生の市川美保(森七菜)引っ込み思案でクラスメイトにうだつの上がらない彼女が、好きなヴィジュアルバンドのボーカル魔鬼(藤田富)のライブで、自分を痴漢から救ってくれた南條遥(仁村紗和)と友だちになるが、遥に目を付けた魔鬼という間男は彼女を洗脳してという物語。

 

因みに波岡一喜さん演じる工藤仁と森七菜さん演じる市川美保というのは、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』のメインキャラクターと同じ名前。それだけで白石監督のファンなら名前だけで笑ってしまう。昨今実質〇〇を使うオタクは嫌われガチであるが、本作では完全な実質工藤仁である。

 

工藤と市川が共に戦うというこの構図はニヤニヤが止まらない。また、魔鬼を演じる藤田富は『仮面ライダーアマゾンズ』で主人公の遥を演じており、彼のライバルが仁という名前だった。こういったネーミングが意図的なら白石監督天才では。

あらまし

物語前半は美保と遥の出会いと共に、魔鬼に最初にバックコーラスとして見初められたアイドルの早苗(SKE48大場美奈)のエピソードが描かれる。

ライブ中にデブニート男に突然顔をメッタ刺しにされた彼女は、アイドルとして再起不能なほどの傷を負ってしまい、地獄少女と契約する。

地獄少女をスクープしたい工藤仁に藁人形のことを話すと必死に止められ、一時は考えを保留にするが、デブニート男の謝罪文の本文が「ざまぁああああああwお前の人生を台無しにしてやった。もうお前は俺を忘れられない。呪いだ」という怨嗟の言葉にショックを受ける。

希望を失くした早苗は工藤仁を呼び出し、人形の糸を解き、デブニート男は地獄に流される。

後日、デブニート男の母親に早苗がそのことを話すと、今度は母親が地獄少女と契約し、早苗はライブ配信の途中で地獄に流されてしまう。この救いのない胸糞悪さこそが地獄少女の醍醐味なのだ。

 

一方、早苗に代わって魔鬼のバンドのコーラスオーディションに合格した遥は、薬漬けにされて魔鬼に洗脳されてしまう。

美保は遥に二度と関わらないようにと告げられるが、初めてできた友だちを救うため、彼女は以前に出会った工藤仁に連絡し、魔鬼から遥を救ってくれるように依頼する。

工藤と美保は遥を車で誘拐し(これも『コワすぎ!』で観た誘拐と同じやり方)真実を告げる。魔鬼は部下と、遥をライブ中に殺害することで神を降臨させる計画を立てていたのだった。

遥の持ち物に盗聴器を仕掛け、これで魔鬼を倒せると思ったが、実は遥は既にこの計画を知っていた。

魔鬼は工藤仁を監禁して殺害。翌朝、美保はニュースで工藤の死を知る。部屋で一人、魔鬼が許せない彼女は遂に地獄少女と契約。藁人形を持って、遥の死が予定されているライブ会場へ足を運ぶ。

 

ライブの途中に藁人形の糸を解き、魔鬼は地獄へ流される。遥を殺す計画も美保によって崩され、事件は魔鬼の失踪という形で終結を迎える。

ラストは前にも二人が心を通わせた公園で、美保が地獄流しされた悪夢にうなされた所を、洗脳が解けた遥が心配して手をつなぐシーンで本作は終わる。これから先も美保は悪夢にうなされ、最後は地獄に行ってしまう。ただ、将来はの事なんて関係ない。自分がどうなっても構わない。相手を救いたい。遥を救いたい。そこにあるのは見事なまでの百合である。

 

最後に

本作の魅力の一つが輪入道演じる麿赤兒さんである。

完全にただの純度100パーの麿赤兒さんでしかなく、そんな麿赤兒さんが魔鬼のオーディションに合格して、周りが若い人だらけなのに、独りだけハゲた爺が混ざっている絵面がもうズルい。

そんな麿赤兒さんを見るだけでも1800円の価値ありまっせ。この映画を見るとあなたの純度が高まるだろう。