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アニメ映画『フラグタイム』感想。巨大百合感情大爆発映画

「孤独になりたい反面、そこに入ってきてくれる人を求めていた」 

昨今、百合オタクによる安易な百合認定により燃え上がりがちな映画界隈において正真正銘の「百合」がやってきた。

想いがビックバンする巨大百合感情大爆発映画であるアニメ映画『フラグタイム』感想を書いていきたい。

AM11:00

 概要

あらすじ

「人には誰しも、誰にも見せない顔があって。でも見て欲しいのはその顔で」

自分という存在に悩む少女達の物語。

1日1回だけ、3分間だけ、時間を止める能力を持つ主人公森谷美鈴(以下、森谷さん)は内気な女子高生。

その性格ゆえ煩わしい人間関係から逃げるためにその力を使っていた。

 

時を止め、煩わしい事態から逃れた森谷さんがするのは他人の秘密を覗き見ること。

ある日森谷さんは時を止めている最中に、クラスメイトである優等生村上遥(以下、村上さん)のスカートの中を見る。

 

しかし何故か村上さんは止まった時のなかでも動くことが出来た(別に同じタイプのスタンド使いではない)

村上さんに秘密を知られた森谷さんは、彼女に振り回される。

時間を止められる少女森谷さんと、その秘密をただ一人知っている村上さん、その二人の女子高生が時間停止という能力を通じて、段々と仲良くなっていく、といった内容の映画だ。

f:id:Shachiku:20191122221252j:image(C)『フラグタイム』第一巻

 原作は、さと先生による同名漫画。『もっと!』(秋田書店)にて、2013年Vol.2より連載開始し、その後『Champion タップ!』(同社)に移籍して同年7月18日更新分から2014年9月25日更新分まで連載された。単行本は全2巻。

本作はそれを監督・脚本の佐藤卓哉や音楽のrionosを中心に、OVAあさがおと加瀬さん。」を制作したメインスタッフが集結した60分という非常にコンパクトにまとめた映画となっている。

 

他人との関わり合い

他人とのコミュニケーションから逃げる意識が昂じて時間を止める能力を身に着けた主人公森谷さん。「憧れの少女」村上さんは最初、パンツを覗かれたという事を逆に弱みとして森谷さんに色々要求していく。森谷さんに対して「童貞みたい」「私に欲情しちゃったんだね」等と、性的な感情を想像させる単語を余裕の笑みで語るシーンもある。

この作品が、童貞のようなウブさを持つ森谷さんを、クールな小悪魔の村上さんが上手く利用して、様々な事をさせる背徳感、みたいなものを中心に描かれる作品だと思ってしまう。

しかし、話が進むにつれ、段々と村上さんは、森谷さんに、心を許していく。
村上さんは、森谷さんの時間停止能力を、目的があって利用する場面も確かにあるが、段々と、目的より、時間を止めて森谷さんと一緒に居る3分間を楽しむようになっていくのだ。
森谷さんの方も、美人な村上さんにドキドキしながらも、段々と村上さんの事を好きという感情を誤魔化せられなくなっていく。
つまり、森谷さんと村上さんだけが居られる3分間という時間という空間が、手段から段々と目的に変わっていく。
能力だけではなく相手自体の事をますます好きになっていく、その過程が描かれる。

 

村上さん

原作も映画も後半、単なるSっ娘に見えていた村上さんは主人公と同じく「何がしたいのか」を見失った生活を歩んでおり、行動理由を他者の要望・願望に委ねていたことがわかる。『より多くの人に必要とされなければ生きている意味が無い気がする』という思考回路を持っているのがわかる。

 

森谷さんは相手が何を考えているんだろう。とか、辛いんじゃない?とか相手の思考を考えては嫌われないように必死で、村上さんは人の期待に応え続けて育ったため、自分が分からなくなってしまった。

序盤、森谷さんと村上さんが初デートする時、村上さんがその美貌で注目を集めシーン、それに森谷さんが
「村上さんこうして並んでると目立つよね。今日も何で私なんかと一緒に遊んでくれるのかと不思議だなーって」
というセリフがある。これに村上さんは
「私なんてふつーの人間だよ」
と、返す。

しかし最後の二人に掛け合いにて、村上さんは「本当の自分」の事を、
「相手の顔色を伺う事しかできない空っぽのつまらない人間」
と表現し、偽っている自分自身を嫌ってる事が分かる。
「私なんてふつーの人間だよ」という台詞の「ふつー」は、
「人気者」とは対照的な、本当の自分の性格を指しているのではないでだろうか。
つまりこの返しは、最後まで中々明らかにならない彼女の本当の願い、
彼女が「普通の人間」であると認めてもらいたいという願いを一瞬だけ森谷さんに漏らしているシーンである

と私は思う。

 

完璧に見えて本当の自分を見て欲しい村上さん。

他人に依存してしまう村上さんは、独りなのが平気で「自分には出来ない事」を「自らの意志で」やってのけてしまうそんな森谷さんと一緒に過ごしたいと思うようになり、だからこそ村上さんは森谷さんの時間の中に入る事が出来た。

 

人間関係から逃げ出した少女。

優等生の仮面を背負った少女。

 

誰にも見られない時の中で、二人きりの時間にあっても尚、相手に見せられない顔があって、けれどもそれこそが見て欲しい本当の自分で。

物語構造がくるりと引っくり返る後半の展開が綺麗に決まっている。美しい。

 

他者と関わりあう生活のなかで、傷ついたり悩んだりすることは避けられないこと。森谷さんと村上さんが作中で感じている悩みは、多くの人が共感できるのではないだろうか。

しかしぶつかり合った分だけ、相手を深く理解できるということも感じることが出来る。他者を想う「好き」という感情を、素敵なものだと感じることも出来る。人との関わりに悩んでいる人にとっては、一歩踏み出す勇気をもらえる作品となる素晴らしい作品だ。

 

 

最後に

映画はアニメ的心象風景を多様しており、そこが好きになる人もいれば冗長に感じる人もいるだろう。ただ、うまい具合に原作をアレンジして60分の物語にしているのは素晴らしい。ただ、やはり、原作も全2巻と短いので出来ればアニメだけでなく原作漫画を読むのを個人的にオススメしたい。

最後に一言。

映画館、観客が男しか居なかったんだが、パンツ覗く予告にホイホイ釣られすぎでは!?