スラスラ読める漫画ってどういう漫画だろうか。
セリフ量が適切であったり、絵の見やすさ分かり易さだったり、物語の展開に違和感を覚えるかどうかだったりするが、個人的には「コマ割り」が重要な要素だと考えている。
この「コマ割り」こそが漫画にしか出来ない、映像では表現不可能の技術であり、描写、視点誘導、間など読んでいて気持ちよくなる「コマ割り」は「面白い漫画」において重要だなという気持ちにさせてくれる。
そして『チェンソーマン』
この漫画は、漫画としての静止画の中でまるで映画のような映像のノリを再現してる演出が上手い。
例えば『チェンソーマン』1話、
(C)チェンソーマン第一巻
主人公であるデンジの意思に鼓動するように平坦だったコマ割りは踊り出し、コマからコマへ視線を移していくテンポを支配し、読者を気持ちよく誘導してくれ、最後の決める所は大胆に1つの大ゴマになり強烈なインパクトを与えてくれる。
このように『チェンソーマン』には思わず唸ってしまう「コマ割り」が多様されており、単行本一冊読んでもページをめくるのが止まらない。気づいたら最後まで読み切ってしまっているのだ。
当たり前のように感じる人もいるだろうが、平均200ページ前後の本を一気に読むのって意外と体力使う。しかも『チェンソーマン』は確かな読み応え、感情の揺さぶりも同時にある。
つまり、スラスラ読めて、読み応えもあるそんな気持ちの良い読破感を与えてくれる個人的に今一番週刊少年ジャンプで推している『チェンソーマン』について書いていきたい。
デンジは阿呆である。
主人公であるデンジは阿呆である。間違いない。
テンションは100か0かしかないし、「食パンにジャムを塗って食べたい」「死ぬ前に女を抱きたい」というのささやかな夢を死ぬ直前まで持っているほど、頭の中には女か食い物しかない。
それでも『チェンソーマン』の魅力の8割はこのデンジにあると言っても過言ではない。
とにかく貧乏だったデンジは、自分の腎臓や右目など、臓器を売って生計を立てていた。義務教育すら受けていないので、読み書きもまともに出来ない。大人にいいように使われる人生は悲惨そのもので、チェンソーの悪魔と契約した後も公安の犬になってしまう。
ここまで書くと物凄く不幸せに見えてしまうが、当のデンジがあまりにも阿呆過ぎて悲惨に見えない。ただただ応援し、幸せになって欲しいと願うだけだ。ココらへんのバランス感覚が凄い。
そして、様々な悪魔と戦う事になるのだが、そんな阿呆で狂っているからこそ思いつく撃破法と、セリフ回しがとにかく魅力的だ。それぞれ書いていく。
セリフ回し
例えば、大層な夢を語る悪魔が出てくるのだが、それに対してデンジは「みんな偉い夢持ってていいなぁ!じゃ夢バトルしようぜ!夢バトル!俺がてめぇ〜をぶっ殺したらよ!てめぇの夢、胸揉む事以下な〜!?」
まるで、ジャンプの主人公が発するセリフとは思えない言葉だ。
是非ともデンジくんには「ジャンプオールスターゲーム」に出て、戦闘前のセリフで、火影になる!や海賊王になる!そういう夢を語る主人公に夢バトルを吹っかけて欲しい。
「俺は俺の事を好きにな人が好きだ」という共感できる台詞から、「ノーベル賞は俺んモノだぜ〜!」というキレッキレの台詞まで読者は次にデンジが何を言い、どう行動するのか釘付けになってしまう。ここまではパワーのある主人公は久しぶりな気がする。
普段から阿呆だが、バトルも佳境になり、普通の主人公なら「何だか良い事」言いそうな場面でも、阿呆さを維持し、笑えて、そして熱くなる。そんなデンジ節が炸裂し、読んでいて痛快なのだ。
撃破法
こんな敵どうやって倒すんだ!?と思ってしまう悪魔が次々に出てくるのが『チェンソーマン』だ。
そんな敵をデンジの超絶バカ論法で解決していくのが本作の魅力である。
例えば、チェンソーマンはチェンソーだけでなく、チェーンを使えるようになるのだが、普通ならスパイダーマンみたいにチェーンで移動すると思いきや、デンジは違う。
スパイダーマンではなく、サメを操る手綱となりB映画のシャークネードになってしまう。
チェンソーマンにサメの魔人に台風の悪魔
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2019年10月7日
ジャンプ版『シャークネード』になる舞台が整ったな
#wj45 pic.twitter.com/1eQOtL1Kfi
阿呆だか馬鹿ではないデンジがこのように良い意味で読者の予想を裏切ってくれる。
阿呆なのに決める所は阿呆なりに決めてくれる頼りがいがある男なのだ。
デンジには夢がないだけでなく「強い奴と戦うことが好き」みたいな、悟空的過程を楽しむキャラでもない。
仲間が死んでもたいして悲しまず、敵への復讐心もあまりない。
「人と悪魔のどっちの味方だ?」と聞かれたときには、「俺の面倒みてくれるほう」と言っちゃう。
これが、この『チェンソーマン』を特異なものにしている点であり、デンジのIQのなさ、狂った考え、独特な言い回し、それらが圧倒的強さを持つ悪魔たちを倒すための希望となっている。
ここまでだとただのアンチヒーローのように思えるが、一般人が巻き込まれそうになったら男女関係なしに守るし、命を救う(男女で扱いの差はあるが)
好きな先輩が殺されたら、芽生える感情もあるし、嫌いにな奴に借りを作りたくない。アンチヒーローと王道のヒーロー像がタツキ節で調理されているのがデンジという主人公なのだ。
そしてそんなデンジが狂っている描写がアレばあるほど、早川アキの普通性が際立つ。
(C)チェンソーマン第一巻
復讐心もあり、善良で、狂っていない早川アキ。
およそデビルハンターに向いていない彼が、自分の寿命を文字通り削りながら、どのような顛末になるのか、最後まで見届けたい。
テンポの良いストーリー
藤本タツキ先生の前作『ファイアパンチ』でもそうだったが、この漫画非常にテンポが良い
まるで ジェットコースターに乗せられて振り回されてしまう。まだ5巻だとは思えない。
そして一つの事件が終わると閑話休題し、IQ134を自慢に思っている伏さんと飲んだり、先輩からゲロキスされたりする長さで言えば非常に短いそういう「日常」が悪魔との戦いという「非日常」で際立つ。
そして敵を倒したら、魅力的な女性陣からご褒美タイムが基本的にあるのだが、偽巨乳だったり、ゲロだったりしてデンジが可哀想!!となった後にマキマさん(ヒロイン?)(ラスボス?)から本当のご褒美をもらえるのが心の底からデンジを祝福出来る。幸せになって欲しい。
そしてそれらを通してデンジが少しずつ成長し、学んでいく姿を読者はまじまじ見守る姿はまるでお母さん。
『チェンソーマン』のもう一つの魅力が先の読めなさ。
特に容赦なく登場人物が死んでいくので、推しキャラを作るのはオススメ出来ない(パワーとコベニ、早川アキ、主人公であるデンジは終盤まで死にそうにないが)
結構強そうな悪魔を惜しげもなく投入しているので後半どうなるのか心配だが楽しみだ。
最後に
元々私は『ファイアパンチ』の時から藤本タツキ先生のファンだったので、『チェンソーマン』第一話の時からチェックしていたが、まさかここまで面白いモノを書いてくれうとは思わなかった。ジャンプ的ではないという批難もあるが、『進撃の巨人』以来、ジャンプって面白ければ何でもありという感覚が強まったと思う(あくまで思うだけ)
そして『チェンソーマン』は間違いなく面白い。
デンジが大好きなのでいつまでも活躍を見れるよう長く連載して欲しい気持ちとスバっと終わって欲しい気持ち、半々ではある。今の所、打ち切りはなさそうなのが救いだ。
戦いのスケールはどんどんアップしているし、シャークネードなので、後半は宇宙に行ってしまいそうな気もするが、宇宙に行ったデンジの反応をみたいのでそこまで連載が続いてくれると嬉しい。まだ、読んでない君!『チェンソーマン』はまだまだすぐ追いつける長さなので是非読んでみてくれ!個人的2019年一番オススメする漫画だ。