因みに知らない人に説明すると猟奇的な作品は“黒乙一”、物悲しさを含んだ作品は“白乙一”とファンから呼ばれていた。
今では中田永一、山白朝子、安達寛高(本名)と多様な名義を使いこなしている。
脳内データでは学生時代に乙一、西尾維新、奈須きのこ、佐藤友哉、舞城王太郎にどっぷりハマった人はロクな社会人になれないと結論付けられていますが、あなたはいかがでしょうか。私は社会人失格の毎日です。
そんな大好きな乙一先生本人が初の長編監督を務めた本作。
観ないわけにはいかない。
久しぶりの黒乙一を堪能出来るホラー映画『シライサン』の感想をネタバレありで書いていく。
あらすじ
親友の突然の死のショックから立ち直れない女子大生・瑞紀(飯豊まりえ)は、弟の変死に直面した青年・春男(稲葉友)と出会う。眼球が破裂し、何かに怯えたように死んでいった彼らの死の真相を探るうちに、二人は理解を超えた戦慄の真実に突き当たる。そして、その名を知ってしまった彼らもまた“シライサン”の呪いに巻き込まれていく。 “シライサン”の正体とは?その名を知ってしまった彼らは、呪いから逃れることはできるのか―?
初見感想
『シライサン』観た。大傑作!「シライさんの名前を知ったら呪われる」「シライさんから目を背けたらならない」というルールの中で、学生時代好きだった黒乙一(懐かしい)による残酷で恐怖の中にあるほんの少しの切なさが愛おしいストーリーは最高
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2020年1月11日
気付くとゾクゾクするあんなエンドロールも知らない pic.twitter.com/tSop0OiofC
祝え!日本の新しいホラーアイコンの誕生
日本のホラーアイコンと言えば、やはり「貞子」「伽椰子」の2人(?)を思いつくのがほとんどではないだろうか。
しかし、貞子はもはやビデオ自体が過去の遺物となり、小学生に「呪いのビデオ」と言っても「昭和?」って聞き返されて終わりだろう。
最近では流石に危機感を持ったのかyoutubeに転生していっているが、貞子自体がネタとして消費されすぎていてギャグキャラとしては一流でも、怖くないというホラーとしての賞味期限の終わりを感じてしまう事が多い。
片や『呪怨』シリーズも、再スタートとなった『呪怨 終わりの始まり』と『呪怨 ザ・ファイナル』の2作がそこそこで終わってしまった。その後、貞子と伽椰子が夢の共演を果たした『貞子VS伽椰子』では、ギャグとしてもホラーとしても濃密で完成度は高かったが、これが「貞子」「伽椰子」の最終作だった気がしてならない。
もはやジャパンホラーは終わったのか、そんな暗雲が垂れ込める中、現れたのは本作、『シライサン』だ。
怖さとは明確なルールから生まれる
本作では「シライさんの名前を知ったら呪われる」「シライさんから目をそらすと死ぬ」という2つのルールが厳守される。
このルールを守った上での攻防戦が楽しい。やはり『貞子』に足りなかったのはルールだと思う。何でもありになってしまうと緊張感がなくなる。
「シライサン」という名前を知った者を次々と襲う謎の女性。
まずそのホラーとしてのビジュアルの良さに目が行く。青鬼系譜の瞳の大きさと貞子のような髪の長さ。不気味だ。
(C)2020松竹株式会社
登場時には光が明滅し、鈴の音が鳴り、突然相手の元へやってきて徐々に近づいてくる。至近距離まで接近されると眼球が破裂し、死んでしまう。
対処方法はある。
「シライサン」から逃れるには、目を逸らさないこと。
2時間近く「シライサン」を見続ければ、彼女はどこかへ消え去っていく。しかし、それは一時しのぎに過ぎない。「シライサン」は3日おきに自分の名前を知る人の元へランダムに現れる。現れる度に2時間以上凝視しなければならない。
それ故に1番の対処法は「シライサン」を拡散させること。
呪いを受けたのが2人になれば出現する可能性は2分の1になるし、更に呪いを広めていけば「シライサン」が自分の前に出現する確率はうんと低くなる。3日に1度、呪われた誰か1人の前にしか出てこないからだ。
「貞子」は相対ではなく絶対なので、一日で何人も殺すことが出来る。
『貞子VS伽椰子』ではyoutubeで流れて拡散され、最終的には全員死ぬバットエンドになったが、『シライサン』では人生で「シライサン」が来る確率を呪いを拡散することで相対的に減らして助かる可能性を上げるという「貞子」とは対照的な方法がある。
そして「目をそらさない」は簡単に言うと「だるまさんが転んだ」の要領なのだが、同じものを2時間見つめるなんてことはまぁ無理だし、何よりあんなネットのコラ画像でよくありそうな不気味な顔を2時間も見つめてられない。
また、「シライサン」も、幻覚なのか分からないが相手に関係する死者を一時的に召喚する魔法を使ってきて、目を背けさせようと必死だ。
ここら辺の攻防戦が本作の目玉である。
最後、ヒロインである瑞紀が呪いのルールからの脱出できたのだが、その理由は事故で恋人になりかけた春男の存在もろとも「シライサン」の存在を忘れることだった(忘れると助かるというのは劇中で伏線がある。そこらへんの抜け目のなさは流石乙一)
春男は自分のことより瑞紀を想って、無理に記憶を思い出させようとせず、立ち去るという切なく、ほろ苦い自己犠牲の終わりである。
ここは乙一先生の醍醐味が凝縮されており、とてもとても良かった。次回作があれば冒頭死にそうだけど(笑)
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↑この二人の関係性と距離感が本当に良い。
承認欲求の塊
「いいね」の時代。
「他者から認められたい。自分を価値ある存在として認めさしたい」という欲求は大なり小なりあるが誰しもが持っているモノだと思う。
今の時代はSNSの発達により気軽に「いいね」が貰え、承認欲求を満たすことが出来るが、人が強欲。更なる「いいね」を欲したり、一度貰った大量の「いいね」を忘れられず、人生が破綻する人までいる。
私も渾身のツイートがスルーされて悲しくて枕を濡らす経験は一度や二度ではない。
そんな承認欲求の時代の化け物が「シライサン」なのである。
「シライサン」は生まれた背景に不幸な死を遂げた少女の強烈な寂しさや恨みがある事から、「シライサン」から目を背けると呪いを受けてしまうのは、そんな他者から愛されたい、認められたいという自己願望の強烈な裏返しであると考えられる。
名前を知るという行為はフォローであり、目を見るという事はツイートにいいねをするという事なのではないだろうか。
「自分を見てほしい」
これはこれからの時代、多くの人が求めるモノだと思う。
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↑染谷将太さんのねっちょりした喋る方もホラーと抜群に合う。
エンドロールを見逃すな
エンドロールに脚本の名前で間宮冬美があったのをあなたは気づいただろうか。
これは夫の間宮幸太(忍成修吾)が呪いで死に、自分も呪いにかかった間宮冬美という劇中の人物である。
劇中では夫の死後、安否が不明だったが、全てが終わった後、エンドロールで彼女の名前が出てくる。
もうお気づきであろうか。そう、彼女は映画を観た人に呪いをかけたのだ。
彼女は何とか死ぬことなく『シライサン』の脚本を書き、映画を作り、感染者を広げたのだ。自分が助かる可能性を上げるため。
そして私も今、こうやってブログを書き、感染者を広げている。
「次はお前だ!」と
【ホラー映画レビュー】『シライサン』感想と解説。エンドロールを見逃すな