放送前の宣伝では海洋学校のゆるゆる日常アニメみたいな微妙な偽装をして、1話の終わりで突然の交戦。反乱容疑をかけられる引きとともに『はいふり』とは実は『ハイスクール・フリート』でしたーっという遊び心がある割に先行上映があったからバレバレだったし、2話からも結構ゆるゆるな所もあったりして視聴者が「作品のテイストを掴む」のに苦労したテレビシリーズから約4年。
OVA化やゲーム化など色々手を伸ばしつつファン待望の映画化が本作『劇場版 ハイスクール・フリート』である。
ネタバレありで感想書いていくよ。
【原案】鈴木貴昭 【キャラクター原案】あっと 【総監督】信田ユウ 【監督】中川淳 【脚本】鈴木貴昭、岡田邦彦 【キャラクターデザイン・総作画監督】中村直人
【主題歌】TrySail「Free Turn」
『はいふり』の魅力
本シリーズはストーリーだけみればシリアスである。
まず世界観がプレートのずれにより、多くの国土を水没によって失った日本が舞台である。そこから国土保全のため次々と築かれた水上都市はいつしか海上都市となり、それらを結ぶ航路の増大に伴い、海の安全を守る職業「ブルーマーメイド」が女生徒たちの憧れとなっていったというのも無理がない設定だ。
ただ、そこから教員艦からの突然の発砲、暴走する他学生艦との戦闘、救難船の救護活動など、数々の困難があるのだが、全体的に無理があると言うか、学生に何やらせてるんだ?大人は無能なのか?男は負けるために出撃しているのか?散々引っ張った「なぜ訓練の途中に教習艦から攻撃を受けたのか?」の原因がそれで本当にいいのかとか色々考えてしまう。ただ、本シリーズの魅力はそこではない。
本シリーズの魅力はやはり晴風の仲間たちによる日常ではないだろうか。
航海中にトイレットペーパーがなく騒いだり、水不足で海水でパンツを洗うとか、休息中に水鉄砲で遊んでるシーンとか、砲撃があったら炊飯器が無事がどうかが重要だったり、そういう命の危険があるかもしれない非日常の中にある日常的な描写がめちゃくちゃ楽しい。
こういう日常の積み重ねがあるからシリアスな戦闘でキャラクターがより輝くのだと思う。
そして「海の仲間は家族」の信念を持ち、艦長である岬明乃が様々な苦難の末、成長し、「船の中のお父さん」になる物語がテレビ版である。そう、晴風の仲間と家族になる、岬明乃の物語だ。
岬明乃
正直、私はテレビシリーズの岬明乃があまり好きではなかった。
幼少期に海難事故で家族を亡くした岬明乃は「海の仲間は家族」という言葉を度々口にして、人命救助のためなら艦長の持ち場を離れてしまうからだ。基本的に敵襲となると自分の仕事に集中する晴風の仲間たちの中で、明乃は異質だった。
海難事故がトラウマになっているため、人命に関わることとなれば真っ先に助けに行こうとするなど、「家族」に対してめちゃくちゃ執着しており、怖っ!と私はなってしまった。
BD1巻のブックレットの人物紹介に書いてあった通り、
「育ちのせいか依存心が強く、仲間や家族を強く求める傾向がある。だが、本当の家族がどんなものかよくわかっていないので自分の理想とするものを求めている。」
の通り、まだ本当の意味で晴風の家族になっていなかった序盤では親友を救うべく、晴風を蔑ろにスキッパーで飛び出し、ましろに「海の仲間は家族じゃないのか!」と激怒されてしまう。
ただ、それでも自分を見つめ直しながら、必死に艦長として頑張っていく。
その中で、航海長の知床鈴に「うちの艦長が岬さんでよかった」と肯定されるのが象徴的なように、明乃は「海の仲間は家族」という信念をもとに晴風の本当の意味で船長になっていく。
明乃が様々なピンチを晴風の仲間と共に乗り越え、晴風の仲間が家族となり、再び家族を失ってしまう恐怖をその仲間と共に克服していく話がテレビシリーズなのだ。
そして本作『劇場版 ハイスクール・フリート』では明乃は立派な「船の中のお父さん」になっていましたね。人間味が薄れて西住みほ的になったとも言えるけども。
そして何よりテレビシリーズではスキッパーで飛び出す係が明乃で、見守るのがましろだったのに本作では逆転。お互いがお互いに影響を受けて成長していっているのがよく分かる名シーンである。ましろが明乃の「マヨネーズ」になった後の関係性の変化が本作の見所だ。
(C)AAS/新海上安全整備局
ミケシロ尊いというか、全体的にストーリーの解像度が低い本作でやたらと明乃とましろの関係性、もえかの正妻感だけがクリアだ。
はいふり界の「モーガン・フリーマン」スーザン・レジェス
(C) AAS/新海上安全整備局
このキャラクターいる?
前半の日常パートでは父親を探しに日本にやってきた不法滞在者って感じなのだがミケシロの話になるとやたらと介入してきて、何だか全てを知っているような雰囲気でモーガン・フリーマン並にアドバイスをしてくれる。何だコイツ。
何だか、素性の知れない怖さというか、明乃のライバルになる雰囲気は前半あったのにただ、テロリストに騙されていただけのキャラだった…このキャラクターいる?
スーザンのお陰でスーザンが子供でミケシロが両親みたいな尊い関係性になったのだが、それよりもっと重要な事があるような気がしてならない。
そしてあんなに「父親父親」言っていたのに結局父親と再会することなく終わるのもビックリする。尺なくてもエンドロールで再開すると思っていたのに、続編でも出番あるのかこいつ。騙されたとは言え、テロリストなんだからさっさと国に強制送還されろよ。
先輩キャラクター達
本作の見どころの1つに大和型4隻(大和、武蔵、信濃、紀伊)が揃い踏みで統制射撃する所にある。現実では不可能な映像なので、ココらへんはやっぱりフィクション、アニメの強みだなと思う。何より、ロマンがある。
ただ、そこの艦長達も出てくるが、先輩というのもあってそこそこ偉そうなのだが、観客的にはこいつら全員「競闘遊戯会」での図上演習で明乃、ましろに負けたシーンの直後なのでイマイチ威厳がないという可愛さ。
最後に
MGS2のようなプラント潜入を丁寧に描きながら、急にただのゴリラが全部ぶっ壊していくストーリーの緩急さと、明石艦長から「明乃なら面白い使い方をするかも」と渡された大型武器が「普通」「真っ当」「誰でもそう使う」な使われ方をしたこと、スーのお父さんは一体どうなったんだの件、敵に奪われる雰囲気あったのに全くそんな事なかったあづまの存在。最後の突撃の時、いつの間にスキッパーに爆弾積んだんだ!という疑問など、色々チグハグでツッコミどころも多い本作。何より後半から明らかに作画は不安になる。
劇場版はいふり、確かに後半は作画が怪しい所多いけど、船の揺れに合わせて顔も揺れてる演出だと思うことにしたら気にならなくなったな
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2020年1月18日
BDでは修正されそうなので、この作画を楽しめるのは今だけだぞ!!!!
追記)というか上映中なのに作画修正されたぞ!!!
私もブラッシュアップ後にもう一度、観ましたが作画崩壊はほぼほぼ修正されていましたね。ただ、超絶作画という訳ではなくて、ようやく一般的なアニメ映画になったって感じでしたが。
【新バージョンの上映について】
— 「ハイスクール・フリート」公式 (@hai_furi) 2020年2月13日
2月14日(金)より、4D版(4DX/MX4D)、通常版ともに本編1/3に及ぶ、
400カット以上をブラッシュアップした新バージョンでの上映となります。
よろしくお願いします✨
→https://t.co/LKbhZLsVDR#はいふり #ハイスクール・フリート
色々はいふりらしい所は多いが(優しい言い方)やはり盛り上がりそうな所でHigh Free Spiritsが流れるとめちゃくちゃ盛り上がるので、細かい所はどうでも良いのかもしれない。
パンフで原案と脚本家の鈴木貴昭さんがビスマルクやアメリカの艦隊も出したかったけどプロデューサーに「次にとっておいてください」と止められた事から、次回作の構想は一応あるらしい。「ドイツ編」もあるかもしれないが、全てはこの映画次第らしいので、是非、みんな何度も映画館に足を運んでくれ。私は一度見れば充分かな。
最後に一言
「私の部屋が〜!」ってなるマッチ可愛い。