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映画『AI崩壊』感想。大沢たかおさんの人間味と「邦画魂」を感じる傑作!

公開前のインタビュー記事で大沢たかおさんが「ハリウッドを超える人間味あふれる演技は、僕たち日本の俳優は得意なはずなんです」と言ってインターネットをざわざわさせたり、

 

公開前にノベライズ版を読んだオタクがフセッターも使わず核心的なネタバレツイートをして、それがバズって、ツイッターで『AI崩壊』と検索すると一番上にネタバレが出てくるという軽い地獄になったり、

 

近未来におけるAIというテーマ性が特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』と被っているため、比べられて馬鹿にされたり、

 

大作邦画エンタメ作品ってどうしても隙が大きいので叩かれやすい状況なのも相まって公開前から話題に事欠けなかった『AI崩壊』

 

そんな本作の感想をネタバレありで書いていきたい。

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 監督・脚本:入江悠 音楽:横山克  主題歌:AI『僕らを待つ場所』AI監修:松尾豊(東京大学大学院 工学系研究科 教授)、松原仁公立はこだて未来大学 教授)、大澤博隆(筑波大学 システム情報系 助教

 

 

あらまし

国民のライフラインとも言える存在、医療特化型AI「のぞみ」

医者の仕事の大部分を肩代わりする「のぞみ」は、国内医療機関の90%以上に導入されている。また、自動運転などいわゆる「IOT(Internet of Things)」分野においても『のぞみ』の力は発揮されている。

今や国民の生活の大部分に「のぞみ」が関わっているといっても過言ではない。

 

そんな「のぞみ」は天才科学者の桐生浩介(大沢たかお)(お腹は出ている)と桐生の妻である望( 松嶋菜々子)(出番は少ないが、邦画によくある同じシーンの使いまわしのお陰で存在感はある)の癌を治すために作られた。

しかし、最先端のAI治療に法整備が追いついておらず、新薬製造の認可が下りることはなく、「のぞみは未来の希望である。いつか、のぞみが多くの人を救う時が来る、だから、最初にルールを守ることの大切さを教えよう」という理由から桐生夫妻は法律無視の強行治療を選択はせず、そのまま望は死んだ。

 

そのあと、「のぞみ」が当時厚労省の大臣だった田中英子(余貴美子)の心筋症を治療(序盤ですぐ死んだ総理大臣)(女性で偉い政治家役は余貴美子にしないといけないルールがあるのかな)したことで、「のぞみ」は全面的に許可され、「のぞみ」の共同開発者であり望の弟でもある西村悟は「のぞみ」を開発・管理するAI企業「HOPE」を立ち上げ、世界的企業にまで発展させた。

 

しかし、桐生は娘との時間を大切にするためにシンガポールに移住する。

 

そして舞台は2030年。

「HOPE」千葉データセンターのオープニングセレモニーへの出席と内閣総理大臣賞の受賞、そしてなにより娘の頼みで日本に帰国した桐生。

悟に千葉にあるゲーミングサーバ室のようなサーバ室を見せてもらう。

 

そこで家族写真を忘れた娘と別れ、桐生は首相官邸へ(ここら辺は結構娘にイライラする。子供の勝手な行動がストレスになる『宇宙戦争』的な感じだ

しかしその途中、「のぞみ」は暴走。

自動運転の暴走による交通事故や医療器具の誤作動など、日本中が大パニックになる(一元管理してるの危機管理がガバガバ

そして最終的に「のぞみ」は「命の選抜」をおこない、年齢・年収・家族構成・病歴・犯罪歴などを元に余命価値を選出し、抹殺することになる(沖縄は「のぞみ」の管理が薄いという妙なリアリティがある)(更に余談だが、この映画やたらとテレビ番組のインタビュー映像が「ありえそう」で面白い。特に「エーアイに殺されますよ!父!」と叫ぶ女性の迫真の演技が好き

 

「のぞみ」はマルウェアによる攻撃を受けていた。逆探知から犯人を探るとそこには桐生がいた。

警察庁サイバー課は桐生をテロリストと認定し、追跡する。

桐生も娘が千葉のサーバー室に閉じ込められていると知り、助けるために逃亡劇が始まる。

警察庁サイバー課のトップである桜庭誠 (岩田剛典)は自身が開発した捜査AI百眼(ヒャクメ)」(99.8%とは言っても100%と断言しない日本人的奥ゆかしいやつ)を使って桐生の現在位置を捕捉している。

この「百眼」はわかりやすく言うと『ダークナイト』に出てきたゴッサムの監視ルームのように、ネットに繋がっているすべてのカメラ(例えばスマホドライブレコーダーのような個人の物も)を利用するシステム。

「百眼」は有能だが、追いかける警察官がどいつもこいつも無能なため、どう考えても絶望的展開でも意外と楽に桐生は逃げれる。やはりヒューマンはダメ。

桐生は逃げながらも娘を救うために昔、「のぞみ」を作った大学跡地で合流した悟と共に作業をする(誰でも入れる所に国家機密レベルのAIのプロトタイプを放置する危機管理のなさ

しかし、そこにも警察がやってきて悟は桐生を庇い銃殺される(個人的には悟が真犯人だと思っていたのでビックリした

 

「百眼」をハッキングした桐生(そんな簡単にハッキングされる日本の警察は無能

その隙に千葉センターに戻るが、そこには桜庭が待ち構えていた。

しかし、桐生言う。真犯人は桜庭だと。

動機は

  • 「のぞみ」の持つ全国民8割のデータを百眼に利用することで、完全な監視システムを確立させ、理想とする監視社会を作り上げるため。
  • 「のぞみ」を暴走させることで、今まで悟に断れてきた「のぞみ」のデータの利用することを「犯罪の証明保全のため」に強制的に接収することが出来るから。
  • 監視社会反対派の田中総理を亡き者にし、自分が付いている岸副総理を総理の座につかせることで、どうにもならない日本社会をよくするため。

ここらへんの格差社会などの問題は『カイジファイナルゲーム』にも通じている。


やはり、今の日本では社会が破綻するから弱者を切り捨てようという敵役は作りやすいいのかもしれない。

 

別に証拠がないから黙っていたらいいのに「悪者らしく、お決り的に」動機をしゃべる桜庭。しかし、これもまた「お決り的に」桜庭の動機を喋るシーンは盗撮されており、全国中継されていた。これにより桜庭は逮捕される。この一連のシーンはマジで昭和。

 

最後、サーバー室に閉じ込められた娘を救うため、カメラを物理的に遮断させたAIに対して、プロジェクターでソースコードを投影し、それを娘が鏡に反射させてAIのカメラに直接読み込ませる。(いや、このシーンは映像で見るとなかなか苦笑してしまうところだと思う。中々ないよこんな絵面

 

「のぞみ」自身が多くの人から祝福されて生まれてきたように、人に祝福を与えるという本来の役割で再起動する。

 

そして問題は解決して、望と悟のお墓参りのシーンで映画は終わる。

 

 

ノベライズと映画の違い

公開前のネタばれツイートに

 

AI崩壊はリアリティ重視なSFと言いながら、最後の墓参りのシーンで桐生は「最後は家族写真を見てのぞみは元に戻った。思い出の写真を見て本当の自分を取り戻した」とか言い出して、どこがリアリティ重視なんだ的な奴がバズって、

 

多くのオタクからバカにされたが、映画自体には「最後は家族写真を見てのぞみは元に戻った」というセリフはない。ノベライズだけのセリフだ。一応、映画でもカメラで家族写真は見るシーンがあるが、自分を取り戻したのはソースコードを読み取ったのが主な理由に見える。

 

基本的に尺的余裕がない映画に対してノベライズは余裕があり、またノベライズには映像がないので言葉での説明が増えるが、映画自体にないセリフは映画の評価にはならない。

これでノベライズを叩くのはいいが、映画を叩いていい理由にはならない。

 

ましてや、映画も観てもいない人が作品をバカにしても良い訳はなく、「これだから邦画は〜」ではない。

 

そもそも公開前にネタバレツイートがバズるのがそもそも私は怒りたい。

 

人間は期待値が低い作品に対してネタバレが寛容になりすぎる。

 

最後に

私は昔、テレビで大沢たかおさんが「エビフライはタルタルソースを食べるための棒」と言っているのを聞いてからファンになったのですが、本作でも独特の走りを見せてくれたり、お腹が出ていたり、無敵判定ありそうなタックルしていたり、クローン大沢だったり、魅力抜群でしたね。

大沢たかおさんって声はイケボなのに見た目はただのおっさんにしか見えない時があるそのギャップが良いよね。無理がないというか、人間味を感じられて。

そして、意外と女優業ではパッとしない広瀬アリスさんも今回は三浦友和さんとのバディ刑事モノとして魅力的になっており、これでドラマ作ってほしいと思ってしまいましたよ私は。是非作ってほしい。

 

また、作品自体もAIと人の関わりの話でもっと人情の話になるのかと思いきや、「人と機械の決定的に違うことは、責任を取れること」という現実的話だったり、人工知能は人を幸せにするのかという問いにも「AIは道具、僕らの使い方次第」的なことを言うのかと思わせておいて、「AIを親に、人を子供に例え」てAIと人の関係は共に成長していくモノだという考えがずっと作品にあったりしたのも良い。

 

また、パンフに書いてあったが、作中の100点近いプログラムコードはすべて草場英仁さんという方が務め、実際に動くコードだという細かいリアリティも良い仕事をしている。

 

展開は主人子補正バリバリのご都合主義であったり、ポンコツなところも多いけれど、役者陣の熱演と細かなリアルさ、そしてバーチャル横横断幕など、2030年という今から約10年後なら、現代とそんなに変わらないけど少し未来になってますよという奥ゆかしいSF要素が重なり合って満足度がすごいことになっているのでおすすめだ。

 

邦画って普通にやっていたらハリウッドに勝てないのは当然で、それは予算だったり、経験値だったり色々なんだけど、大作エンタメ邦画にしかない独特の面白さがある。

それは役者陣が舞台経験者が多く、演技がオーバーリアクションが多いのと、真顔な顔からのポンコツな展開によるそのギャップだ。

こういう「邦画魂」を感じられるモノを1年に2,3作品観れる今の環境は最高だ!

藤原竜也主演の『太陽が動かない』も今から楽しみだ。

 

最後に一言

エンディングがAIなの、AI(エーアイ)とかけて上手いこと言ったつもりになってんじゃねーぞ!!!!!!

 

AI崩壊 (講談社文庫)

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太陽は動かない (幻冬舎文庫)

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