まず、この映画を語る前に共通認識として確認したいのが、『デジモンアドベンチャー tri.』は酷い出来だったなということなんですね。
- 6章もの長いスパンで繰り広げられる圧倒的「無」
- 進化バンクがただの尺稼ぎになっている
- 物語のキーマンだと思っていた姫川のフェードアウト(死んだらしい)
- 02組の扱い
- メイクーモンを助ける、助けないで永遠続くグダグダ
- デジタルワールドリブート、あんなに大騒ぎしたのに結局、全く同じ関係性になり、たいした積み重ねもなく究極進化し、リブートが無かったかのようになるのは物語的に意味があったのか
- 不安定な作画
- 人を殺したり、やりたい放題のゲンナイさん(ニセモノ)の後処理の仕方
- いくら名曲だからって、追いButter-fryはやめろ
- 急にシン・ゴジラになる第六章
- 高校生という子供と大人の狭間の年齢での迷いや、成長を描きたかったんだろうけど情緒不安定のまま何も得られず何も成長せず終わった印象しかない
そして何よりも純粋に「ただ面白くない」という内容で辛かった。
私は1999年に始まった『デジモンアドベンチャー』がちょうど世代で、デジモンの他にも『ポケモン』『メダロット』『ロボットポンコッツ』『真・女神転生 デビルチルドレン』などをゲームにアニメに漫画に、様々な形で子供時代を捧げた人間なので、それらの作品は思い入れが強く、最新作であればどれだけ「駄臭」がする作品でも見たい気持ちが抑えきれない。
ただ、『デジモンアドベンチャー tri.』は本当に辛く、そしてこの『デジモンアドベンチャー LAST EVOLITION 絆』も「ラスト」に「エボリューション」に「絆」である。いや、どんなセンスだよ。
しかも、しかも、なんと『デジモンアドベンチャー』がリブートし、再び少年時代の太一達の冒険が始まると言うのだ。
そんなんポケモンやん!サトシやん!
成長し、変化していくのが『デジモンアドベンチャー』ではないのか。
大人たちによる金の匂いがあまりにも辛くて、きつくて。
正直、潮時かなと思った。
私も大人になり、いつまでも子供向けアニメを見るのではなく、ある意味卒業式としてこの『デジモンアドベンチャー LAST EVOLITION 絆』を観たのだが、
滅茶苦茶面白いやんけ!
という訳で前置きが長くなったが『デジモンアドベンチャー LAST EVOLITION 絆』の感想をネタバレありで書いていきます。
因みに本作は『デジモンアドベンチャー tri.』を見ていない、途中で脱落した人でも問題なく楽しめる作品になっているので、そこはご安心ください。
無限大の夢の後の何もない世の中
「デジモンは子供たちの無限の可能性」をパワーにする。
それ故に、選ばれし子どもが大人になった時、パートナーデジモンはその姿を消してしまう。
大学四年生になり、就活もせずパチンコ屋でバイトする太一という妙なリアル感(そもそもデジモンで世界守ってるんだから、待遇良くてもよさそうなモノだが、本人たちが断っているのかもしれない)
しかし、ここで問題なのが「子供たちの無限の可能性」が曖昧ということだ。
本作のボスであるメノアは14歳にして有名大学に入学し、「無限の可能性」がなくなり、パートナーデジモンは消えた。
ということはここでいう「大人」とは年齢ではない。そもそも年齢が原因なら太一たちより年上の丈からパートナーデジモンは消えるハズだ。
では、ここで言う「大人」とは何か。
「自分で選択することで、他の選択肢が消える」ことの先にあるモノなのだろう。
無限大の夢の後ということだ。
例えば、大学に行く選択肢一つでも、「文系」「理系」「大学のランク」などがあり、どれを選ぶかで、その後の選択肢が変わり、減っていく。そうやって選んでいくと、段々と自分の進むべきルートが見えてくる。あとはもう進んでいくだけになってしまう。これが将来が決まることなのだと思う。
では本題の選ばれし子供たちの話をしよう。
本編を見ただけではなかなか分かりつらいが、実は一番最初にパートナーを失ったのは空である。
ここら辺は公式があげているショートストーリーを見てほしいが
「空へ」(デジモンアドベンチャー20th メモリアルストーリー)
時系列には
1ラスエボOP(映画パロのパロットモン戦)
2空のショートストーリーにあるスマホの返事のシーン
3ラスエボ本編でよく見ると空のデジヴァイスが石化しているシーン
4本編ラスト太一、ヤマトのパートナーデジモンお別れのシーン
なので、ここから空が一番最初にパートナーを失ったと推測できる。
ショートストーリーにあるように空は選ばれし子供ではなく、「一人の女性」を選んだ。
ではなぜ次に選ばれし子供たちの中で太一とヤマトから「無限大の可能性」がなくなったのか。
一番考えられるのがこの2人が1番戦闘を行い、進化させていたので早めにタイムリミットが来たということ。
ただ、私は他にも理由があると思っている。
この2人は他のメンバーと違い、自分の将来を決めていない。
皆が未来を選択していく中で取り残された2人のような気がしていた。
ではなぜそんな2人の「無限の可能性」がなくなったのか。
子供の頃に「何者でもない」というのは可能性が無限大を意味するが、20歳超えても進路すら曖昧で、「何者でもない」状態なのは可能性があるのではなく、未来が閉ざされていると言えるのではないだろうか。
それ故に望んだ未来に向けて走っているメンバーよりタイムリミットが早かったのではないだろうか。
後ろ向きな「無限の可能性」のなくなり方だが、それは現実的で、今多くの若者が抱えている問題そのものなのではないだろうか。
未来の不安、決まらない就職先、見通しが立たない将来設計。
どうしようもない袋小路に迷い込んでいるのだ。
だからこそ、誰よりも早く選択肢が減っていく。
まぁ、エンディングで6人全員別れているようだったので誤差みたいなものだが。
太一たちは「子供」の象徴だったパートナーデジモンを失うが、それでも失ったモノも未来も、両方とも諦めず、前に進んでいく。
そして太一は現実世界とデジタルワールドの架け橋になるべく外交官に、ヤマトは宇宙パイロットになり、他の仲間も夢を果たす。パートナーデジモンと共に…
そう「子供」の象徴を切り捨てるのではなく、それを抱いて大人になる。昔はそれが恥ずかしいこととして扱われてきたが、そうじゃない。そうじゃないんだよと僕たちに教えてくれる。
無限大の夢の後の何もない世の中も意外と悪くはないなと感じる、そんな作品になっている。
tri.からの圧倒的成長
冒頭、ボレロが流れ、まるで『デジモンアドベンチャー (1999年の映画)』のようにパロットモンが暴れだし、そこに駆け付けた太一もグレイモンで対抗する。
もうね、この時点で10000点ですからね。
また、洗脳された味方をヒカリのホイッスルを吹いて目覚めさせるシーンなど過去作のアイテムや設定の再利用も多い。
こういう過去作オマージュを「あざとい」と感じる人も多いことは知っている。
だが、何度も言って申し訳ないが、デジモンは tri.での「無」があったからこそ、こういう「あざとく」ても感情が揺れ動く展開はより響く。
映画の時は太一はまだ子供で、アグモンを見上げる立場だったのに、大人になりアグモンが太一を見上げる。
これが本作のテーマだと思う。
「成長」
その後も『ぼくらのウォーゲーム』っぽい電脳世界でのバトルなど、細田守の影響を感じつつも、そこから逃げずに、また、ただの劣化ではなく、映像的にもリッチになり観客を楽しませようとするアニメーターの方々の気持ちが伝わる映画だったなと思う。
そして「02組」
tri.での扱いの悪さを反省したのか、まずちゃんと登場するし、冒頭いきなり負けるとかそういうこともない。主役はどうしても初代組、特に太一とヤマトなので、脇役ではあるが、再びブイモンの戦うところを観れたのでそれで満足だ。ありがとうございます。
成長するということと、リブートする現実
メノアは「成長せず、永遠の子供時代を生きる」というエンタメ作品で親の顔より見た目的のため、行動する。
そんな中、太一とヤマトは子供時代に戻ってデジモン達とMUGENの時を過ごす事を否定して、未来を踏み出す。これは初代ばかり注目してしまうデジモンという作品への自己批判ともとれる。
そしてそんなMUGENの世界を破るのがアグモン勇気の絆、ガブモン友情の絆という新たなる進化なのが、未来の可能性を感じられてよい(見た目が少しアレだが)
このように『デジモンアドベンチャー LAST EVOLITION 絆』だけで見れば本当に良い作品なのだが、残念なことに『デジモンアドベンチャー』はリブートが決まっている。
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』観た。完結編にしてtriで見たかった奴が全部詰まっている大傑作
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2020年2月21日
太一たちの物語の終わりを見届ける事が出来て本当に良かったんだけど、それ故に永遠性を否定するこの作品の後にリブートして太一たちの新しい物語が始まるこの現実における落語的オチも完璧 pic.twitter.com/MMuvcrU3vo
子供のままでいることを否定した太一達が、まさかまた子供に戻って新シリーズ始めるとはこの映画観た人みんなビックリするわ。
デジモン制作陣で連携がうまく取れていなのかもしれない。
まぁ少し外野は雑音だが、作品自体はとても良い。
確かにありきたりなテーマ性で、既視感を覚える物語とボスとの会話劇なのだがこれこそが「王道」である。今まで下手くそな変化球ばかりだったので、こういう質の良いド直球は「これだよ!!!」って気持ちになる。私はなった。
『デジモンアドベンチャー』が好きな人、好きだった人、tri.で絶望した人、すべての人におすすめ出来るそんな作品だ。
デジモンと人間の関係性って本当に好きで、最初は選ばれし数人の子供しかいなかったパートナーデジモンが時代を進むごと、多くの人とパートナーを結ぶ。
最初は偏見や、攻撃をされた事もあったけれど、人々の生活になくてならないモノになっていく。
これってインターネットなどの、新しい文化の受け入れ方そのものだと思う。
偏見の嵐の中、諦めない人々が輪を世界に広めていく。
そしてそれらを受け入れるのは無限大の選択肢、可能性がある子供からなんだよね。
最後に一言。
謎のオーロラ一体何だったの!?
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