人生で1度ぐらい「透明人間になったら」と薄っすらボンヤリとした妄想をした事があると思う。
私はある。
やはりまずは覗きだ。
女湯、更衣室、女性の部屋などなど。
多感な中学生時代に1度は妄想してしまった人は多いだろう。
次に侵入。
覗きと似ているが、こちらはエロ目的以外にも深夜の学校など普段立ち入れない場所も含まれている。
基本的には公権力の監視から逃れた犯罪行為への願望。
人には、悪い事はしてはいけないから、しない人と、
悪いことをすると罰を与えられるから、しない人がいる。
私は恐らく後者なのだろう。
だからこそ、透明人間になれば、悪いことをしてもバレず、
罰を与えられないからこそ、悪いことが出来るのだ。
それは映画『透明人間』でも同じだ。
H・G・ウェルズによって1897年に著された小説『透明人間』を現代風に大胆にアレンジした本作ではDV男が透明人間になり、女性に襲い掛かる。
そこにあるのは男性社会において権利の侵害や見えない圧力、そしてセクハラやパワハラ、虐待といった恐怖に苦しめられてきた女性である。
間違いなくMeToo運動後の物語になっており、「ただのヒステリー」「完全な妄想」と言われ続けてきた女性が、「違う、そうじゃない。お前が間違っている」と突きつける痛快なリベンジ劇でありながら、メッセージ性だけが強いだけでストーリーや演出、完成度が損なわれている頭でっかちな作品でもない。
ホラー映画とは「社会的なテーマや人間ドラマを描くためにホラー映画のテクニックを利用している」と感じさせる作品よりも、まず「怖がらせるための映画」であって、その中に怖がらせる要素として「社会的なテーマや人間ドラマを盛り込んでいる」作品
これは荒木飛呂彦先生のホラー映画論だが、まさしくそのようなホラー映画として傑作となっているのが映画『透明人間』であり、非常にオススメだ。
ただ、私は途中から本編に集中できなかった。
ある事を思い出したからだ。
誰だって透明人間になったら悪いことをする。悪いことをするために透明人間になる。それが当たり前だ。
でも私はそんな中、透明人間になりながらも正義を貫く人物を知っている。
あなたも知っているハズだ。
その人物の名前はー
香取慎吾。
『透明人間』は1996年に日本テレビ系列の「土曜グランド劇場」枠で放送されたドラマである。
今なら主題歌であるサザンオールスターズ「愛の言霊 〜Spiritual Message〜」の方が有名かもしれない。
21時というゴールデンタイムで放送された。
そんな時間帯でありながら香取慎吾はお尻を丸出しにする。
何のために。
透明人間になるために。
本作はDVD化されておらず、現状今から見るのはほぼ絶望的である。
一応VHS化はされているが、今どきVHSを見れる環境がどれだけあるのか。
私は子供の頃、このドラマが好きで親に頼んで録画していたのを映画『透明人間』を観ていて思い出し、映画を観終わった後、その足で実家に戻り、ビデオテープを探した。
幸運な事に実家はまだビデオデッキが存命なので、雑音だらけ、飛び飛び状態の『透明人間』を見る事が出来た。
やはりこのドラマ、滅茶苦茶傑作である。
あらすじは
小笠原から渋谷に渡ってきた報道カメラマン志望の青年・長谷川半蔵(香取慎吾)は、偶然出会った大手新聞社「メトロタイムズ」の記者・笹森飛鳥(深津絵里)とともにひき逃げ事件を目撃する。謎の露天商の男から手に入れた薬で1時間だけ体が透明になることに気づいた半蔵は、透明人間となってスクープ写真を撮影し、ひき逃げ事件を解決する。
その功績を認められ、メトロタイムズでアルバイトカメラマンとして働くことになった半蔵は、飛鳥とコンビを組んで事件を追いつつ、裏では透明人間としての能力を生かし、事件の黒幕である大企業グループにして犯罪組織「ゼウスグループ」の悪事を次々と暴いてゆく。
というお話。
まず香取慎吾が20歳の役なので滅茶苦茶若い。
『透明人間』といえば香取慎吾なんだけど、でっかい脳みそが喋ってて子供の頃のトラウマだったし、後になってこのドラマの為に香取慎吾がお尻に2億円の保険をかけたって聞いて笑ってしまった pic.twitter.com/PJRF5v4Pll
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2019年8月16日
逆に深津絵里さんは今と変わらない。それはそれで凄い。
序盤は1話完結のコミカルなストーリーで薬を飲むと透明人間になる半蔵がその力を使って潜入したり、尾行したり、女装したり、掘られそうになったり、隠し撮りをしたりする。
見どころは香取慎吾の裸である。
1時間程度で透明人間化が切れ、元に戻るのだがその時は全裸である。
そのせいで少なくとも1話に1回は全裸になったり、お尻が見える。
こんなに裸になるドラマは『ウォーターボーイズ』か『透明人間』ぐらいである。そりゃ当時、人気出るのも納得。
決め台詞は「正義の使途!透明人間」
透明人間、いくらでも悪用できそうなのに正義のためにしか使わない。放送時間と製作陣は違えど、特撮系のヒーローの系譜である。
半蔵は「伝説のモグラ」という真実の愛を求めてアスファルトの地面を切り開いていく御伽話に憧れており、それが彼のルーツになっている。
ただ、このドラマは第9回以降は「DEAD ZONE IN ZEUS」の副題がつきゼウスグループとの戦いを中心にシリアスな展開になる。
信頼している人からは裏切られ、守りたかった者は守ることが出来ずに死んでしまう。
そしてその中で半蔵は自身の出生の秘密を知ることになる。
自分の親の事を知ったり、裏切られたりしながらも自分の中にある「伝説のモグラ」という軸はブレることはなく、「正義の使途!透明人間」としての道を進む半蔵。
ヒーローを真摯に描いているドラマだと思う。
そしてやはり後半のメインは敵である「ゼウスグループ」だろう。
「ゼウス」の名はギリシア神話の主神ゼウスに由来し、関連企業にもギリシア神話の神々や人物にちなんだ名称がつけられている(「ヘスティア貿易」「レストラン・アポロン」「ミノス建設」など)。グループの総本部はオリンポスビル(「スマイル」とか「夢」がつく企業並みに怪しい企業名である)
ゼウスグループの目的は「ピグマリオン計画」を実行に移すことである。
この計画はギリシア神話において理想の女性ガラテアの像を彫り、人間になったその像と結婚したピグマリオンの話になぞらえ、神経に作用する特殊なガスを用いて人間をゼウスグループの信奉者に作りかえることを目的とする。話のスケールがとにかくすごい。
透明人間になる薬も実はゼウスグループ西東京研究所から研究員の小峰によって持ち出されたピグマリオン計画の副産物である。後半では透明人間になっても可視化する装置なども作られ、『透明人間』というドラマだがあんまり透明人間は活躍しない。
『帝都物語』で有名な嶋田久作演じるドクターXや黒木瞳が演じ、実は半蔵の母親である西村 信子が幹部であり、キレのない銃撃戦やアクションを繰り広げる。
そしてボスは印象的なので覚えている人も多いかもしれないが、事故によって使えなくなった肉体を捨てており、脳髄のみが機械に繋がれているクロノスである。
子供は初めて見た脳みそキャラを父親だと思って懐く傾向にあるらしい。私は未だにクロノスだけはハッキリ覚えている。
クロノスは半蔵の父親というダースベイダー的オチもあるのだが、登場して速攻で半蔵にパンドラの箱を投げられ破壊し、死亡するため感動も何もない(まぁもともとダースベイダーと違い人の感情も失っているが)
最後の決戦もほとんど透明人間化していないが、これに限らず透明人間化していると香取慎吾の顔が映せないので重要な場面では透明人間化していない事が多い。こういう製作陣の葛藤を想像するのも楽しい。
最後に
草彅剛の『フードファイター』も大好きだったのであっちもDVD化して欲しいが、マネした人が死亡事故起こしたとか色々あったので仕方ない面があるのは知っている。
それに対して『透明人間』はなぜDVD化にならないのか。誰も透明人間のマネをして死んでいない。草彅剛が裸でしんごーしんごー叫んでニュースになった事はあったが。
一説には香取慎吾のお尻1つに1億。2つあるので2億の保険がかかっているのがDVD化出来ない原因みたいな都市伝説を見るが、このままでは完全に見れなくなってしまう。それは本当に勿体ない。作品は後世に残していくべきだ。
版権の問題などで難しいならリブートブームの今、もう一度香取慎吾主役で『透明人間』をドラマ化するのはどうだろう。再び香取慎吾のお尻を私は見たい。