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寺門ジモン初監督作品、映画『フード・ラック!食運』感想。土屋太鳳の美味しそうな表情が最高

「肉寿司」ってテレビやネットで定期的に話題になって美味しそうだけど、実際に食べてみると「あ…うん…ハイ」ってなりがちだよね(あいさつ)

 

アンジャッシュ渡部とは違いガチ過ぎる食通で、番組で京都の和菓子屋でよもぎの団子を食べたところ「嘘だ。これはよもぎの葉を使っていない」と言って放送事故を起こすタイプのグルメ芸人だったり、肉のセリに参加できる家畜商の資格まで取得し、松阪肉牛共進会にまで参加するほどのガチの「肉」好きだったり、上島竜兵から未だに絡み方がわからないと言われたりするダチョウ俱楽部、寺門ジモンの初監督作品​『フード・ラック!食運』

今回はそんな作品の感想をネタバレありで書いていきたい。

 

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あらすじ


下町に店を構える人気焼肉店「根岸苑」をひとり切り盛りする母・安江。ひとり息子・良人の毎日の楽しみは、母の手料理を食べることだった。
ある事件がきっかけで店は閉店し、成長した良人は家を飛び出し、うだつがあがらないライターとして自堕落な生活を送っていた。ある日、 グルメ情報サイトの立ち上げを任されることになった良人のもとに、疎遠になっていた母が倒れたとの報せが入り…。

 

焼肉を食うシーンは意外と短い

「もし焼肉が最高の演技をしたらどうなる?」というキャッチコピーなのでドラマの『孤独のグルメ』的に人間ドラマは最低限に食事のシーンがメインだと思っていた。

しかし、実際に観てみると「焼肉」を通じての親子の愛や、受け継がれる意志がテーマであり、人間ドラマがメインなので「あんまり肉食わねーな」ってなる。

いきなりステーキという店舗名が気になってお店に行っても、いきなりステーキは出てこなかった時の違和感と一緒。

後半では「焼肉」より「ぬか漬け」の方が目立ってくるし、「思ってたんとちゃう!」と感じてしまう部分もある。

 

思ってたのとは違ったが、この人間ドラマ部分が意外とちゃんとしていて、エモさと非情さのバランスが良く、感動をいちいち引っ張りすぎないのも寺門ジモン監督の手腕が発揮されている。

ただ、本職はお笑い芸人のハズなのに作中のギャグ演出がダダ滑りして、苦笑してしまう。特に、焼肉のウンチクを語り合うシーンで画面に字幕を入れる演出は実に鬱陶しいし、何回も何回もあってしつこい。

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またNAOTO演じる主人公の佐藤の幼少期のエピソードがいくら寂しいからと言ってもドン引きするような全ての元凶にして悪質な事をするわ、謝らずに母親に逆キレするわ、母親の大切なモノ壊すわ、家出て行って帰ってこないわと親不孝の見本市みたいになっているので、そんな母親が重い病気になったのにグチグチしているの「さっさと謝りにいけ!!」ってなってしまった。

 

寺門ジモン監督、やっぱり「肉」や「クワガタ」には興味はあっても「人間」や「笑い」にあんまり関心はないのだろうなぁと思ってしまう。

 

f:id:Shachiku:20201121110824j:plain©2020 松竹

本作の最大の見どころは焼肉を滅茶苦茶美味しそうに食べる土屋太鳳だろう。

こっちまで笑顔になってしまう幸せそうな顔で、パパ活するおっさんってこういう気持ちなんだなと思ってしまう。

パンフレットにサーロインの野原焼きを13枚食べた上で「おいしい肉はいかに身体に優しいかを実感できた」という「ヘビメタは癌に効かないがそのうち効くようになる」みたいな事まで言い出して凄い。鉄壁の胃袋の持ち主である。

 

f:id:Shachiku:20201121111820j:plain©2020 松竹

作中で焼肉を食う場面が少ないのを気にしてか、場面変換に「焼肉を焼いている」シーンを毎回挟んでくるので陳腐な会話やダサい演出に挟まれて隙あれば焼肉がスクリーンの大画面で映り、「じゅ〜」と焼ける音が五臓六腑に染み渡るのは客を飽きさせない力技を発揮してきて満足度は高い。

特に音は肉の部位、厚さ、大きさ、ロースターか網か、焼き台に乗せた瞬間、火が通った瞬間、それら全てに拘りを感じられて確実にこちらのお腹を攻めてくる。

焼肉って店舗だと照明が暗かったりして意外とちゃんと見ないけど、大画面で鮮明に映ると本当にヨダレが出てきますね。4DかIMAX上映をして欲しい。

 

料理には「美味しくなれ」という想いが何より大事と描きながら、その想いは想いだけではなく、「終わりのない工夫と手間」という労働を伴うという事もきちんど描いていたのは良かったと思う。気持ちだけで何事も上手くいく事なんて早々ないんですよね。

 

あと、冒頭でキャベツの千切りから始まるの「とんかつDJアゲ太郎」の奇跡の被り。

 

最後に

長年、プロの料理人達と交流してきたり、食のライターとしても働いてきた寺門ジモンだから描ける今のグルメ業界への風刺、食べログ信者やエセ食通、熟成肉や赤身ブーム、SNS映えしか気にしない一般客、さらにはSNSや批評家達による記事によって倒産に追い込まれる店の存在。

また、焼肉屋と言っても雌牛を扱う店から去勢牛を調理で美味しくする店。

様々な人がいて、様々な事件があり、様々な店がある。それらに正解不正解はなく、

「あなたの出会う食事が美味しくあるように」と願いが込められたお腹が減る映画になっている。

 

僕も映画終わりに焼肉を食べたくなって、お店に行ってカルビやホルモンを食べたら油で気持ち悪くなり、今このブログを書いている瞬間も気持ちが悪い。完全に歳である。土屋太鳳にはなれない。

あなたも若いうちに上質な肉をたらふく食べて欲しい。

 

最後に一言

 『フード・ラック!食運』ってタイトルなのに食運要素が冒頭5分だけなのが中々タイトル詐欺(後は母親との繋がりの店ばかり)

寺門ジモンのこれを食わずに死ねるか!! (Lightning Books)