その日の僕は疲れていた。
下がるボーナス、怒る上司、ブラック企業出来ないプラス思考。
そんな時は仕事帰りに映画を観るに限る。金曜日は最新映画が公開される曜日でもあり、作品を決めて観るのではなく上映時間が丁度合う作品を観て、その出来不出来に関わらず楽しむのが個人的ストレス発散法になっている。その日は映画館に向かう電車の中で『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』のチケットを予約した。
僕は正直、ジャニーズにそんなに興味がある訳ではなく、Mステを見ている時に「こういうグループがいるんだぁ」と初めて認識し、次の日には忘れて、またMステを見て「こういうグループがいるんだぁ」と再認識するループにはまっている。助けて。
出演するSnow Manも失礼ながらグループ名を知っているだけ個人は誰も知らない。
チケットの値段が3000円と普通の映画の倍ぐらいの価格にビックリしたが、「舞台でも映画でもない」というキャッチコピーは心を惹かれて予約した。何よりも上映時間がピッタリだった。
映画館に着いて、違和感を感じる。
圧倒的女子の数である。
普段、 レイトショーともなるとくたびれたおっさんしかいないその映画館が女性に占領されていた。しかも、何だかオシャレな人が多い。
『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』目的なのがすぐ分かった。
『プリキュア』映画を観に行った時も、大半は児童とその親御さんだが、1、2人ぐらい「同士」を見つけることが出来た。「孤独」ではなかった。
ただ、今回は違う。完全なアウェーである。
「一人焼肉」「一人回転寿司」などは問題なく出来るが「一人パンケーキ」が出来ない感覚に似ている。
おっさんが1人で「幸せのパンケーキ」とか「FLIPPER'S」などのオシャレで可愛らしいお店に入って厚くてフワフワで甘いパンケーキを食べたいが、入り辛い。
「おっさんだってパンケーキ食べたいの!!!」
という内心を隠しつつ、店の前を通り過ぎることは何度もあった。
同じような感覚に襲われ、あまりにも居づらく、このまま180度回転して家に帰ろうと思ったが、3000円という普段映画を観るよりも高い金を払って、このままおめおめと何もせず帰るのか?
「最高のエンタメを楽しみたい」という想いに対して男や女といった区別はどれだけ意味がある?いや、そこには隔たりはないはず。「僕は女性を見に来たのではない。Snow Manを観に来たのだ」
その決意と共に、よそ見せず一直線にスクリーンに向かい、スクリーンだけを凝視し続けた。
そして観た『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』
感想として「ヤバヤバのヤバ」の一言に限る。
これで終わらしても良いのだが、「Twitterでやれ」と正論を叩きつけられそうなので頑張って言語化を試みようと思う。
そもそも、『滝沢歌舞伎ZERO』とはなにか。
公式HPではこう書いてある。
ジャニー喜多川が企画・構成・総合演出を務め2006年より上演されてきた『滝沢歌舞伎』は、2019年に演出・滝沢秀明、主演・Snow Manで『滝沢歌舞伎 ZERO』となり、多くのお客様に愛され続けてきた和のスーパーエンターテインメント
ここで重要なのは「和のスーパーエンタテイメント」の「和」は歌舞伎や時代劇などといった日本の伝統文化だけには留まらないという事だ。それだけだと思ってこの映画を見ると冒頭で困惑して、「なんじゃこりゃ」っなる。
しかし、「和」とは伝統文化だけではなく、「日本」を意味する文化的概念を意味する。
そこには今の日本を代表すると言って過言ではない「ジャニーズ」というエンタテイメント文化を思う存分堪能出来る本作品こそ「和のスーパーエンタテイメント」と言って間違いはないのだろう。
そして本作を通じて「ジャニーズとは何なのか」その片鱗を知ることが出来た気がする。
ここからは演目ごとに細かく感想を書いていく。
ネタバレありなので、そこは気を付けて読んで欲しい。
(C)2020「滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie」製作委員会
1オープニング
暗い部屋に独り、子供が絵本を投げ捨てていた。その表情はどこか寂しそう。
そこに突如現れる不気味な人形、スケキヨ、謎の欧米人女性。
そして欧米人女性に誘われるままに光る滝沢歌舞伎 と書かれた絵本を開くと異世界転生。
一面海面の中、軍艦の上に降り立ち、「未来都市」へ向かうーー
??????????
何も分からない。
自分であらすじを書いていて更に分からなくなる。
過去の滝沢歌舞伎経験者なら知っているのかなって聞いてみたら
「あの冒頭の未来都市ってなに?」
「未来都市?」
「あの欧米女性は誰?」
「欧米人女性?」
「あのスケキヨは?」
「スケ?キヨ?」
何も分からなくてダメだった。
コロナで笑顔を失くした子供が『滝沢歌舞伎』で再び笑顔を取り戻す旅という事なのか。そう自分の中で落とし込み、次が始まる。
2ひらりと桜
初めて聞いたけど、凄い名曲というか舞台映えする曲よね。ここで完全に心を鷲掴みにされた。帰って曲聞こうと思ってもCD化も配信もしていないことに驚く。
Snow Manの踊りの振り付けって揃っているけど、ロボットみたいに完璧に揃っているわけではなく、個々の個性がちゃんと表現されていて味わいが出ているなと。そのために9人全員が横並びで踊りだすと、全員分堪能しようとしたら
「目が…目が足りない」
状況に陥ってしまう。兎に角目が足りない。人類やめるしかない。
あと、加減を知らない桜の量が凄い。全然ひらりってレベルじゃない
3九剣士
Snow Manのメンバーを1人1人紹介しながらの殺陣のコーナー。
初めて見る顔ばかりだから自己紹介コーナーあるの助かる。
この殺陣も二刀流の人がいたり、舌打ちする人がいたり、兎に角顔が良い男たちのキレキレで個性豊かで圧倒的なフィジカルを堪能できるコーナーで満足度が高い(突然カットが変わって大きい木箱に乗っているなと思ったら突然木箱が崩れて床に着陸して何事もなかったように殺陣が続く演出とか????な所もあるけど、何だか「凄い」で圧倒されるから凄い)2020年12月7日追記)この木箱のくだり、沢山の方からご指摘がありましたが「戸板崩し」という歌舞伎の伝統演出らしいですね。勉強になります。
4変面
仮面を付けながら踊るコーナー。
ここでこの『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』は別に一連のストーリーとして続いてる訳ではない事に気づく。一つ一つの演目が独立しているのだ。
Eテレのピタゴラスイッチ的ということだ(例えがおかしいかもしれない)
意外と女性が踊っているシーンも長くて、この映画のメイン層はSnow Man目的の女性だろうから、ジャニーズでもない人達によるクラシックバレエとかシンクロををそこそこ長い時間見せるのは悪手じゃなかろうかと勝手に心配していたけれど、どうですか?
それにしてもこの変面はジャニーズの最大の武器でもある「顔」を隠しているの大胆な演出だな~って思う。プロのファンは足や肉体だけでも名前を当てる事が出来たりするのかな。
5Maybe
深澤辰哉さんと阿部亮平さんが歌い、真ん中でラウールさんがダンスするコーナー。
僕の母親が「SMAP」の歌唱力のことを音楽番組で見ていると失敗しないかいっつもハラハラするレベルと言っていたが、今どきのジャニーズってそういう次元ではないなと感じてしまう(SMAPはSMAPで味があるのだが)
真ん中で踊るラウールさんの表現力がすごい。滅茶苦茶全力で踊っていて、カッコつけるとかそういうレベルではない「全力」
僕がやったらただの海の中でもがいている人である。
6My Friend
渡辺翔太さんが歌い、後ろで宮舘涼太さんがフライングするコーナー。どういう世界観なのかは一切分からないが、凄いのだけは分かる。僕の中でジャニーズ=フライングみたいな図式あったけれど、宮舘涼太さんのフライング技術凄い。宮舘涼太さんの夢が大河ドラマの主演らしい。頑張ってほしい(唐突)
7組曲
揃いに揃った雨の中のダンスはめちゃくちゃカッコ良かったけど、めちゃくちゃしんどそう…と思ってパンフ読んだらほとんどの人がこの「組曲」が一番しんどかったって言っててその辛さがよく分かる。
メンバー全員が雨でベチョベチョになる。ベチョベチョSnow Manが1人ずつ顔面アップしながら「ハァッ……!ハァッ……!!!!」と吐息が映画館に響き渡る時間がある。
イケメンには取り合えず雨を浴びさせる。古事記にもそう書いてある。
8五条大橋
源義経VS弁慶の戦いの再現。
タッキー、源義経に対して思い入れが強過ぎない!!??
偶には『こどもつかい』思い出してくれていいのよ。
9腹筋太鼓
最初の「うりゃああああ」の言い合い合戦から始まる漢の演武。
個人的にはSnow ManってMステとか見る限りでは流行のダンスを踊るクール系男子の集まりだと思っていたので、ここまで「漢」のグループとは思わなかった。
叫びながら、腹筋しながら、太鼓をたたく、浸る汗、チラリズム脇。
そして中央では人が装置の上で回されながら太鼓をたたいており、正気の沙汰ではない。
文字だけだと滅茶苦茶頭おかしい演出だけど、滅茶苦茶頭おかしい、そして凄い。
「よく分からんけど、10000点!!!」って言いたくなる。
10Make it Hot 11Crazy F-R-E-S-H Beat 12Black Gold
MVコーナー。さっきの腹筋太鼓とはあまりにも違うSnow Manの魅力で殴ってくる。
ただ、演目の順番が情緒不安定過ぎる。
13五右衞門ZERO
歌舞伎メイクで誰が誰だか分からなくなる所を、「岩本〜」「宮舘〜」とか言ってくれたから助かる。ただ、途中からグループ魂の「中村屋」が頭から離れなくて笑ってしまいそうになっていたからだめ。応援上映あったら楽しそうである。
14男と女の舞、15総踊り・花鳥風月
女装姿の色気がすご!!!!
本番だと男と女だけど稽古の時はすっぴん男同士だったと思うと更にクルものがある。
16鼠小僧次郎吉
まず物語に入る前の冒頭に出てきた少年とのやり取りなに!?
それぞれのメンバーがうちわの中から喋ってんのキャラ選択画面みがある。
あの少年の周りだけ全然分からん。
日光江戸村で行われたというガチの時代劇。
死んだねずみ小僧の後を新吉さんなどが継いでいくという物語。
チラッと写真とかで映るねずみ小僧ってタッキーじゃね!?
そのねずみ小僧のことを「イケメンでモテモテ」って表現しちゃうのタッキーだから許す!!!
裏方に回ったタッキーの後を継ぐSnow Manという物語と現実の二重構造になっているのはうまい。
コミカル演出と真面目演出の落差が凄い。風邪をひく。
そして始まる舞台を縦横無尽に駆け巡る最後の戦い。今までドラマだったのに急に「最初から舞台でしたよ」って顔で舞台に切り替わるのが凄い。
しかも時代劇なのに殺陣だけでなく、やたらと放水攻撃がある。
「水の無いところでこのレベルの水遁を発動出来るなんて!信じられん!」状態である。
イケメンには取り合えず水を浴びさせる。古事記にもそう書いてある。
そして戦いの佳境、謎の舞台装置の上に梯子が乗っており、その先で以蔵(ラウール)がやり切った表情しながらイナバウアー、水がドバァァァァァ
??????????
よくわからない。
しかし、よくわからないなりに、なにかとんでもないことが行われていることだけは分かる。
最後の最後、敵の官兵衛半兵衛2人がかりで新吉さんは追い詰められてしまう。
絶体絶命のピンチ!その時、突然のタッキーによる「領域展開」
無観客の客席に大量に降ってくる小判そしてTheEND!!!
??????????
何だかよく分からないけど解決だよ!小判が降って来たからねぇ!!!!
思想の違いから敵対していたが、ねずみ小僧の理想とする「江戸」に希望を見て、感化されて戦いが終わったと個人的には思っている。
17WITH LOVE
浄化の歌。
最後の歌詞に泣かされた。やっぱり世間がコロナにより、しんどく辛く、寂しく殺伐としている時にこそ「アイドルの力」を「エンタメの力」を求めているのだと思う。
ラストはドーンと2021年も滝沢歌舞伎やるよ〜というお知らせで幕を閉じる。
最後に
『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』は極めて独創性の高い演目が常に行われている。
もはや独創性があり過ぎて、ところどころ意味不明ですらある。
ただ、本作を通じてタッキーが僕らに伝えたいことは分かる。
希望である。
2021年も変わらず滝沢歌舞伎をやるからその時は実際に舞台で会いましょうというメッセージはアイドルにしか出来ないエンタメという名の希望を感じた。
そしてここまでの真面目な顔をしてトンチキでズレていてカッコよく笑えるエンタメを創造出来るのがジャニーズの強さなのだろう。
映画と言うよりSnow Manたちによるパフォーマンスに近いので、Snow Manファンじゃない人がこれを観て楽しめるかは微妙。ただ、同時にこの作品を楽しめたあなたはSnow Manファンになる適正値が凄いのでこれからの人生で活かして欲しい。
僕も来年は舞台を見に行きたいなとそう思ったので、その時はよろしくお願いします。
最後に一言。
未来都市って何だったんだ。