映画を観ていると異常なまでの熱量を感じる事がある。
その熱量とは天元突破するような熱い展開という意味でもなく
涙が出てくるような滾る物語という意味でもない。
それは
狂気を感じる程の壮大で作りこまれたディテールだったり、
撮影に途方も無い手間が感じられる狂気さだったりする。
その熱量は僕らに「こんなん、どうやって撮影してるんだろう…?」という無限の好奇心を与える。
今回取り上げるストップモーションアニメ映画『JUNK HEAD(ジャンクヘッド)』がまさしくそうだ。
あらすじ
環境破壊が止まらず、もはや地上は住めないほど汚染された。人類は地下開発を目指し、その労働力として人工生命体マリガンを創造する。ところが、自我に目覚めたマリガンが人類に反乱、地下を乗っ取ってしまう。それから1600年──遺伝子操作により永遠と言える命を得た人類は、その代償として生殖能力を失った。そんな人類に新種のウイルスが襲いかかり、人口の30%が失われる。絶滅の危機に瀕した人類は、独自に進化していたマリガンの調査を開始。政府が募集した地下調査員に、生徒が激減したダンス講師の“主人公”が名乗りを上げる。地下へと潜入し、〈死〉と隣り合わせになることで命を実感した主人公は、マリガンたちと協力して人類再生の道を探る。今、広大な地下世界の迷宮で、クセ者ぞろいのマリガンとの奇想天外な冒険が始まる!
プロジェクトX
ストップモーションアニメとは、人形やぬいぐるみ、ミニチュアセットなどを用いて、肢体や姿勢を少しづつ変化させながら1コマ1コマカメラで撮影することによって動き・芝居をつけていく映像技法。パラパラ漫画の要領で連続させることでアニメーションさせるという手法だ。
海外では『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』『KUBO 2本の弦の秘密』が有名だし、日本でも最近大ブームとなった見里朝希監督の『PUI PUI モルカー』もストップモーションアニメだ。
『PUI PUI モルカー』は全話観ても普通のアニメ1本分ぐらいしかない尺であり、観ている側にはお手軽なショートアニメでも、1話につき3分に満たない短編ながらも12話を制作するのに要した期間は約1年半。
マゾしかできない職種である。
そして、本作『JUNK HEAD』の製作期間は、なんと7年にもなる。
本職が内装業だった堀貴秀監督はそれまで映像制作の経験がなかったのだが、
ほとんど一人で『ほしのこえ』を自主制作したという新海誠監督の存在に感銘を受けた。
「映画は好きでずっと観ていたんですが、一人で作れるわけないな、と思っていた。でもそんなときに新海さんが作ったと聞いて。それまで人形は作っていたので、コマ撮りなら一人でできそうだなと思ったんです」
確かにアニメや映画製作って大人数というイメージがずっとあってそれをぶち壊してくれたのが新海誠監督かもしれないが、たった1人で製作を開始し、原案、脚本、絵コンテ、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形、セット、衣装、映像効果や音響、1人18役での声優までをも担当している。しかも、独学でだ。
機材も撮影に出資を受けるまでは、CanonのEOS Kiss X4という一眼レフの中でお手心価格の初心者カメラを使ってたり、レンズはタムロンの17-50mm F/2.8とシグマの8-16mm F/4.4-5.6の2本である。編集用のPCも決してプロ仕様ではない。それで製作出来るのが夢がある。
映画製作への道のりも平坦ではなく、1人で2009年から4年をかけてようやく完成した『JUNK HEAD1(ジャンクヘッド)』は30分ほどの短編であり、その続編製作費をクラウドファンディングで募集したものの、失敗。
その後、短編が海外で賞を取った事もあり、作品への出資が決まり、平均3~4人のスタッフと共に2015年長編作品『JUNK HEAD(ジャンクヘッド)』の制作がスタートし、2017年に完成。そして2021年3月26日に劇場公開となった。2017年から2021年の空白も気になるし、製作に集中出来れば2年ぐらいで出来そうなので次回作にも期待できる。
取り敢えず製作の過程のドキュメント番組作って欲しい。
モルカーとジャンクヘッド
同じストップモーションアニメだがモルカーとジャンクヘッドではアプローチの仕方が逆に見える。
『PUI PUI モルカー』ではモルカー達の、毛の一本一本まで実在感のあるボディが伝える圧倒的可愛らしさは、アニメやCGには成し得なかったことだろう。
(c)見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ
「確かにここに存在する」から来る温かさや、安心感。
そんな可愛らしさを前面に出しながら、スパイスとしてある毒や技巧。
「人間は愚か」で象徴されるブラックさや、先行作品への愛情に溢れたオマージュやパロディの数々。
温かさがあるからこそ、ブラック展開やオマージュがより映える。
かわいいモルカーと、どこかブラックなストーリーのギャップが面白いからだ。
そして『JUNK HEAD(ジャンクヘッド)』
本作はモルカーと違って全く可愛くない。
全体的に不気味である。ギレルモ・デル・トロ監督が絶賛するのも納得のクリーチャー達だ。
(C)2021 MAGNET/YAMIKEN
特に異形生物が名前負けしていない異形さを誇り、怖い。
そもそも物語自体も『メイドインアビス』や『BLAME!』をどこかしら感じる不気味さがある。
しかも、お尻も顔になっており、そこからウ〇チを垂れ流すというムカデ人間みたいな奴がいたり、容赦なく登場人物達を食い殺す奴がいたり、温かさや安心感から無縁である。グロテスクなシーンも多い。観れば観るほど住みたくない世界観である。
しかし、ここがストップモーションアニメの凄いところかもしれないが、動きを見ている内に段々と可愛く見えてくるのだ。
滅茶苦茶不気味なのだが、不気味の中にある2DアニメやCGでは表現出来ない質感にどうしようもなく心を揺さぶられる。
見た目は無機質で嫌悪感を抱いてしまうのにどことなくコミカルな動きに段々惹かれてくる。「くやしい…!でも…かわいい」みたいな気持ちになる。
(C)2021 MAGNET/YAMIKEN
特に本作のヒロインであるニコ(赤い服着てる方)とか滅茶苦茶可愛い。
(C)2021 MAGNET/YAMIKEN
本作のMVPである地獄の3鬼神とか最初は何とも思わなかったが、鑑賞後はガチャガチャフィギュアが欲しくなる。早く発売して!!!
見た目は可愛くないが、性格が良い奴が多く嫌いになれないし、一部にいるクズキャラはちゃんとクズなりの落とし所があるのも作品に対する好感度が高い。
グロテスクで悪趣味で不気味で怖いからこそ、コメディが映え、キャラが愛おしく見える。
絶望感があり、終末漂う展開があるからこそ、優しい人柄に癒される、明るく前向きな気持ちになる物語が映える。
温かさがあるからこそ、ブラック展開やオマージュがより映えた『PUI PUI モルカー』とは違ったでも、ストップモーションアニメだからこその作品になっていると思う。
最後に
一区切りはついたものの、「ここで終わるの!?」と驚くところで圧巻の堀貴秀だらけの超高速エンドロールが流れる。一応3部作構成の中の本作が2作目なので仕方ないのかもしれないが、是非とも完結編まで観たい!堀貴秀監督宜しくお願い致します!!!!
あと、パンフレットが過去にない程読み応えあるので1500円と少し高いが、超絶オススメ。