「過去にしがみついて前進するのは、鉄球のついた鎖をひきずって歩くようなものだ。」
これは20世紀米国の小説家ヘンリー・ミラーの名言である。
「過去に固執してはいけない。そこから離れて、何か新しい事を始めてみよう」という意味合いだが、そんなことは無理。過去という鎖を外す事は出来ない、束縛する中指の鎖である。
時間の流れは不可逆的であり、歳を取ってしまうと手に入れられないモノ。
それは青春
それは制服デート
それは学校からの帰路、夕焼け色に輝くきみの笑顔
何一つ手に入れる事が出来ず、何もかも経験する事が出来ず、土手下にあるプランターをどかしたらワシャワシャ動き出す蟲のような存在だった学生時代。
今では灰色の社畜生活を送り、心身ともに疲れた時に「THE・青春」を謳歌している学生さんを観た時は無性に泣きたくなってしまう。
「あれは、僕がどう足掻いても手に入らないもの」
その現実をまじまじと実感してしまう。
今まで14回は泣いたことがある。
手に入れる事が出来なかった青春から目を背けるように人生を生き、漫画や映画で現実逃避をしながらかろうじて生きているが、ここに来てあまりにも眩しすぎる漫画が生まれてしまった。
しかも、僕の灰色の社畜生活を支える柱でもある週刊少年ジャンプで生まれてしまったのだ。
それは4/12発売の週刊少年ジャンプにて連載スタートした三浦糀先生による『アオのハコ』
2020年の夏ぐらいに読み切りが週刊少年ジャンプに載っていたので読んだのだがその時の感想は
僕も凍らせたポカリの溶け始めの味を知りたいだけの人生だった。
と2、3日気分が沈んでしまった。
読み切りで終わると思っていた本作がまさかの連載化である。
だが、『アオのハコ』が過去のジャンプラブコメ(あるいはラブコメと呼ばれるモノ全般)と比べて異質なのは大きく分けて3つ理由がある。
1つ目はファンタジー要素が少ない
2つ目は競馬要素がない
3つ目はエロが謙虚
それぞれ説明していく。
ファンタジー要素が少ない
週刊少年ジャンプのラブコメの多くはファンタジーやSF要素のお陰でリアリティがないので、学園生活モノであってもある意味異世界モノとして、自分の青春時代とは切り離して気軽に読む事が出来ていた。
例えば『りりみキッズ』
男子学生が小さな瓶のペンダントトップがついているペンダントが空から落ちてきたので、それを拾い、家に持ち帰って瓶の栓を抜くと、突然目の前に力なく横たわる夢魔・りりむが現れたというストーリー。
ペンダントが落ちてないか探し回る事はあっても、これを読んで自分の青春時代を振り返る事は中々ない。
例えば『てんで性悪キューピッド』
主人公は、極道一家の跡取り候補。極道の世界を毛嫌いし家出を図る中、正体が悪魔である聖まりあに出会うところから物語は始まる。
週刊少年ジャンプのラブコメ、恋愛対象が幽霊だったり、悪魔だったり、宇宙人だったり、生存しているホモサピエンス以外のパターンも多い。
また、『ニセコイ』みたいにホモサピエンス同士のラブコメでも、ヤクザとマフィアの子供で、幼少期の「再会したら結婚する」という約束を覚え続けるという限りなくファンタジーに使い要素がある漫画も多い。
『アオのハコ』では1話時点ではファンタジー要素がほとんどない。恐らくこれからもないと思われる。
まだ読んでない人に向けてあらすじを公式HPから引用する。
中高一貫スポーツ強豪校、栄明学園。
男子バドミントン部・猪俣大喜は、朝練の体育館で毎朝二人になる、一つ上の女バスの先輩・鹿野千夏に恋をする。
そんなある日、進級を迎える春に二人の距離が一変しーー
青さが胸を衝く、青春部活ラブストーリー、開幕!!
宇宙人も幽霊も悪魔も出てこない。
残念ながら僕には関係ないが、『アオのハコ』を読んで「これ私たちの事みたいね」と笑い合うカップルがいるかもしれない。そんなリアル感。
競馬要素がない
ラブコメにおける競馬要素。それは何人かいるヒロインの中で、誰が主人公と結ばれるか(ゴールするか)を予想するというもの。
それは自分の推しだから勝つと予想してもいいし
女の子のステータスを念入りに確認し、今までの自分の経験から鑑みて誰が勝つか予想してもいい。
例えば『いちご100%』
誰か勝つのか予想し、妄想し馬券を握りしめながら読んでいた。
例えば『ニセコイ』
ほとんどの人は柿崎千棘が勝つと思っていただろうが、小野寺小咲が万馬券になると思っていた人もいただろう。
例えば『ぼくたちは勉強ができない』』
まさかのマルチエンドになるとは思わなかったが。
週刊少年ジャンプ以外にも『五等分の花嫁』などもそうだが、この競馬要素は本物と同様に漫画でも荒れる要素ではあるが、色々な意味で燃える要素でもある。流行かもしれない。
しかし、『アオのハコ』は違う。第一話の扉絵を見てもらうと分かりやすい。
© 三浦糀/SHUEISHA Inc. All rights reserved.
主人公猪俣大喜とヒロイン鹿野千夏の1体1である。
決まりでは!?
一応、主人公の同級生である蝶野雛という女の子も出てくるのは出てくるが、負けヒロイン一直線である。
エロが謙虚
ジャンプ漫画のラブコメに出てくる女の子はラッキースケベや積極的エロ描写があるのが多い。
例えば『I"s<アイズ>』『To LOVEる -とらぶる-』『ゆらぎ荘の幽奈さん』『初恋限定。』『恋染紅葉』『プリティフェイス』『クロスアカウント』『i・ショウジョ』etc。
まだ精通もしてないような読者の性癖を歪めるのが週刊少年ジャンプの役目である(違う)
少なくとも『アオのハコ』1話ではエロらしいエロがない。
読み切りでもブラちらが一ヵ所あっただけである。
これは週刊少年ジャンプでは結構珍しいと思う。
以上、3点である。
他にも
- 絵柄が爽快で儚い。
- ポカリスエットのCMが似合いそうな雰囲気
一番似ているのは『クロス・マネジ』かもしれない。
でも、『アオのハコ』では主人公とヒロインがやってるスポーツが違うんだよな…どう話を展開していくのか分からない。
これは完全な偏見だけどジャンプラブコメって陰キャによる陰キャの為の気持ち悪い妄想の具現化みたいなイメージあるけど、『アオのハコ』はそれをうまいこと脱臭していると思う。 でも僕はその臭いが好きだったんだ!!!!
ファンタジー要素がなく、競馬要素がなく、エロ要素が謙虚。
心がキュンキュンする以前に僕はこれ、何を楽しみに読めばいいんだ!?
圧倒的リアル感と青春の輝きだけで読むには僕には眩しすぎる。
でも、諦めるにはまだ早い。
「過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望をもつ。大切なことは、何も疑問を持たない状態に陥らないことである」というアインシュタインの名言もある。
三浦糀先生の過去作を知る事で、先生の手癖を知り、未来に希望を持てるかもしれない。
三浦糀先生は週刊少年ジャンプの連載前は週刊少年マガジンに連載を持っていたという珍しい経歴を持つ。
『先生、好きです。』
これ読んで驚いた事が、2つある
1つはエロ要素が結構あるということ。
主人公は女子高の先生で、生徒2人から告白される事から始まるラブコメなのだが、
風が吹いてパンツが見えるという古典的な事があったり、ヒロインたちが積極的に主人公にキスしたり、絡んでいこうとしたり、ラッキースケベがあったり、1話に1回はノルマのようにエロ要素がある。
特に終盤、主人公が夢だと勘違いしてヒロインに対して足の匂いを嗅がせて下さいと土下座したり、胸を揉んだり、口移ししたり。やりたい放題である。
2つ目は1巻の表紙になり1話目の扉絵を独占した女の子がヒロイン競争で負けるということ。
(C)Kouji Miura/講談社
これは僕は勝手に『アオのハコ』1話の扉絵を見て鹿野千夏圧勝だと勘違いしてしまったが、こんな変化球投げることが出来る作者なら話は別である。
もう一作、三浦糀先生の最初の作品でもある『青空ラバー』
これは兄弟が卓球もやりながら幼馴染の女の子を取り合うというストーリー。
途中で噛ませにしか見えない女の子も出てきたが、こちらは結構王道ストーリーだった。嚙ませの女の子がエロ要因でもあった。
過去作は過去作。『アオのハコ』がそうなる訳ではない。
でも、それでも僕は希望が見えた。
『アオのハコ』の連載版が読み切りと違う最大の要素が主人公猪俣大喜とヒロイン鹿野千夏が親の都合で同じ屋根の下に住むことになること。
ヒロインの親が海外に行くから娘を預けるということらしいが、どんな理由があろうとも同世代の性欲モリモリの男子学生がいる家に娘を預けなくない!?と思ってしまう。
ジャンプ連載にするにあたって、リアル感が薄れてファンタジー要素が出てきたのだ。
そして同じ屋根の下、過去作のようにエロ展開が来る可能性も十分考えられる。というか先輩でもあるヒロインが童貞の主人公に対して可愛いイタズラする展開も多そう(それを読んで悶える読者)
そして三角関係。
猪俣大喜
鹿野千夏
蝶野雛
3人の苗字の頭を取って「猪鹿蝶」
やはりこの3人の三角関係が本作のメインになるのかもしれない。
となれば、鹿野千夏と蝶野雛どちらが勝つのか。
僕は蝶野雛の馬券を買う。
タイトルの『アオのハコ』は読み切りの時点だと基本的に「体育館でしか会わない」という関係性。故に体育館=『アオのハコ』の意味合いだと思われるが、連載版だと同じ屋根の下に住むことになるので、それが薄まる。
では『アオのハコ』とは何か。
アオとは「アオハルかよ」で有名な青春を意味する。ハコは場所。
青春の場所とは学校。つまり『アオのハコ』=学校だと推測して、ここで重要なのは年上である鹿野千夏が先に「アオのハコ」を去ってしまうことである。
猪俣大喜と鹿野千夏は付き合うが、鹿野千夏は学校を卒業。2人はすれ違いに。
最初は些細なすれ違いだったが、その歪は段々増していき、修復不可能になってしまう。そして2人は分かれて、それぞれ別の人と付き合うことになる(猪俣大喜は蝶野雛と。鹿野千夏はバイト先の先輩と)
それぞれ別の道に分かれるが、2人は決して忘れない。
人生において何よりも彩があったあの学園生活(アオのハコ)を…
これだ!!!!!!
こういう妄想含めてリアルタイム感というお祭りを楽しむことが出来るのが連載している今だけなので是非、『アオのハコ』を読んでみて欲しい。まだ1話なのですぐ追いつくことが出来るよ。