社会の独房から

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『映画大好きポンポさん』感想。誰かの物語が自分の物語になる瞬間

「リアルが充実している人は映画を観ない」

という偏見を持っている。

Twitter空間にいると勘違いしてしまいそうになるが、現実では映画の話が出来る人なんて色違いポケモンぐらいの希少価値がある。

20代も後半になると会社の同期で集まっても、生まれたばかりの赤ちゃんの話や結婚の苦労話ばかり。

映画の話をする人なんていない。

みんな当たり前のように社会に適応して、自分より大事な人を見つけ、子孫を残す。

スタートラインは同じだったハズなのに、20年以上も生きていると、もうどうしようもない程の差を感じ、凄く置いてけぼりを食らった気持ちになってしまう。

 

そうやって人生に落ち込んだ時こそ、僕は映画を観る。

観る映画はくだらなければくだらないほど良いし、

そこには感動の押し売りも派手なアクションもいらない。

「なんだったんだこの映画」って思いながらお布団の中に入ってそのまま辛い現実を忘れて寝るのが好きだ。死ぬときもそうやって死にたい。

しかしながら、たまにくだらなそうと思って観た映画の中でも感動してしまう事がある。涙を流す事がある。

2019年に公開された『映画 賭ケグルイ』を観てポロポロ泣いてしまった事がある。映画自体は若手俳優の顔芸が売りで泣くような映画ではない。それでも僕は泣いた。

学校という一つの社会で負け組だった生徒たちが自分達を奮い立たせて行動するシーンでヤバい程泣いてしまった。

自分で自分がなぜここまで感動したのか理由が分からなった。

それが今、わかった。

他の「誰か」の物語ではなく、「自分」の物語として感受したからに他ならない。

負け組だった生徒に「自分」を見出し、奮い立つシーンで「自分も変われるかもしれない」と勇気をもらったのだ。

その気づきをくれたのが『映画大好きポンポさん』

今回は『映画大好きポンポさん』の感想をネタバレありで書いていきたい。

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概要

原作は杉谷庄吾 の『映画大好きポンポさん』

2017年4月にpixiv上投稿された今作は80万ビューを超え、「このマンガがすごい!」、「マンガ大賞」に入賞。

 監督と脚本を務めるのは『劇場版「空の境界」第五章 矛盾螺旋』、『GOD EATER』などを手がけてきた 平尾隆之 。キャラクターデザインは『ソードアート・オンライン』シリーズ、『WORKING!!』の 足立慎吾 。アニメーションは『この世界の片隅に』チームが立ち上げた新進気鋭の制作会社 CLAP が担当する。

 主人公のジーンを演じるのは、映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』ほか数々の映画やドラマで注目を集めている若手注目株の俳優 清水尋也 (真っ当に声の演技がうまくて驚く)。 新人女優のナタリー役には、本人もモデル、女優として今後の活躍が期待されており、劇場アニメーション声優初挑戦になる 大谷凜香(癖があるけど役にはあってると思う。小見川千明的)

 

90分

ブログだと90分をオマージュ出来ないのが何より悲しい。

「2時間以上の集中を観客に求めるのは現代の娯楽としてやさしくないわ」「製作者はシーンとセリフをしっかり取捨選択して出来る限り簡潔に作品を通して伝えたいメッセージを表現すべきよ」

というポンポさんのセリフがあり、何よりポンポさんは長い映画が嫌いなので、「八方美人な作品より一番見てもらいたい誰かにフォーカスを絞って作品は作った方が良い」というアドバイスを受けたジーンくんが制作する劇中作品が90分というのは大事な意味を持つ。

映画では更に原作の「90分」というテーマ性から膨らませて「何かを残すということはそれ以外を犠牲にすること」がテーマになったのは映画作品らしくて良かった。

 

主人公のジーンくんは、目には光がなく、学生時代の友達はゼロ。一般的な社会には適応できず映画がなかったら社会不適合者間違いなしの彼が映画を監督兼編集者として編集する時に悩む。

剣を握らなければ おまえを守れない
剣を握ったままでは おまえを抱き締められない

何を選択し、何を捨てるのか。

「編集する」とは「自分の物語」にすること。

映画に関わった人達の意志とそれぞれの考えが満ちたフィルムを「自分」が切り貼りし、または切り捨てて、「自分の物語」にしていく。

皆でアイディアを言いながら撮った思い入れのあるシーンを切り捨て、「自分が考えるその映画を一番見てもらいたい人」のために物語を作り上げていく。

会話を切れ、友情を切れ、家族を、生活を、切れ、切れ
たった一つ、残ったものを手放さないために、諦めないために

 「映画を撮るか死ぬか、どっちかしかないんだ」と思い詰めるほど、映画以外のモノを無自覚的にも切り捨ててきたジーンくんの人生が、陰キャと言われ続けてきたジーンくんの生き方が肯定される瞬間。

幸福は創造の敵。

社会不適合者は社会不適合者として肯定される。

そしてそんな「自分」の物語として作り上げたモノを観た観客の「誰か」にとっても「自分」の映画として受け止められる事がある。

それは今まで無数の映画を観てきたジーンくん自身も他の「誰か」の物語を「自分」の物語として観てきた事に気づく。

この気づきと肯定が素晴らしい。

 

今作は映画自体も多彩に編集されている。

あるシーンから次のシーンへと移り変わりの部分が多様なエフェクトが用いられていたり、、早送りで演出があったり、『木更津キャッツアイ』みたいな演出があったり、物語として「編集」にスポットを当てるだけではなく、作品としても「編集」の面白さを味わうことができるのは本作の魅力の1つだと思う。

 

映画オリジナル要素

原作にないオリジナル要素といえば追加撮影のシーン。

ジーンくんがどうしても撮りたいと脚本家でもあるポンポさんに土下座する。

これ、メタ的に言うと『原作にないシーンや人を追加したい』と原作の杉谷庄吾に土下座する平尾隆之監督にも見える。

そしてオリジナル要素のアランくん。

f:id:Shachiku:20210606112059j:plain(C)2020 杉谷庄吾人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

最初は陰キャジーンくんが陽キャで性格の悪いアランくんにスカッとジャパンするんだなと思っていたのだが、そんな事はなかった。誠にごめんなさい。

 

正直、融資をするかどうかの社内会議を全国ネットで生中継するのは、コンプラ的にもダメだしあまりにもファンタジー過ぎて引っかかってしまったところではある。この一連のシーンはなくても良かった。クラウドファンディングで解決で良かった気もする。

と冷静に思う自分がいるのと同時に映画を観ていて1番泣いたのがこのシーンだという事実もある。

狂気のクリエイターたちを観るのも面白いが、クリエイターではない一般人の頑張りを観て感動してしまうのはそこに「自分」があるからだろう。

『映画 賭ケグルイ』でもそうだったが、人生挫折気味の人が頑張るだけで僕は泣いてしまう体質なのかもしれない。チョロいな。

 

最後に

恥ずかしながら今回初めて知ったカンザキイオリさんが好きな映画3本に『呪怨』『来る』『パッセンジャーズ』を挙げていて好きってなってしまった(チョロいな)

 

劇中作通り、映画の尺も90分なのは素晴らしいが、エンドロールを加えると94分になってしまうのが惜しい。ただ、これ以上は切れないから仕方ないかもしれない。

また、映画特典が前編、後編に分かれていているのも厭らしい。

ただ、個人的には『映画大好きポンポさん』は2が一番好きなので、この映画が大ヒットして2も制作して欲しい。

 この映画は映画制作に興味がある人、映画を観るのが好きな人、クリエイターの人、みんながみんな、何かしら「自分」を重ねる部分がある作品だと思っているの、是非一度映画を観て、胸を熱くしてほしい。

コロナや緊急事態宣言で大変な映画館、映画業界において、「映画とは何か」を見つめ直す大事な作品になったのは間違いない。