社会の独房から

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映画『夏への扉 キミのいる未来へ』感想。原作をいい感じに脱臭して観やすいけども。

子供の頃、家が貧乏だった僕は図書館で本を借りるのが大好きだった。例え本を借りなくても大量に並べられている本を見渡すだけでも楽しいひと時である。

そんな中、シンプルでありながら知的好奇心が刺激され、楚々としたタイトルに心を掴まれたのが『夏への扉』だった。それは僕がSF小説にハマるキッカケとなった思い入れのある一冊でもある。

 

アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインが1956年に発表した古典的SF作品でありながら「タイムトラベル」のジャンルを確立させ、後世の作品に大きく影響を与えた

夏への扉

何度見ても美しく、これだけで完成しているタイトル。

それが映画化するにあたってのタイトルが『夏への扉 キミのいる未来へ』

どういうセンスがあれば「キミのいる未来へ」なんていうダサい副題を付けれるんだ。何なんだ「キミのいる未来へ」って。SDGsに興味津々の学生が付けそうなサブタイトルだ(偏見)

キミの/いる/未来へ

それぞれ区切ってもダサいし、全部繋げてもダサい。

夏への扉』『夏への扉 キミのいる未来へ』

それはWindows XPWindows Vistaぐらい違う。

 

もしもこの映画が大ヒットしてロバート・A・ハインライン作品の実写ブームになったらどうしよう。

月は無慈悲な夜の女王 私たちのアポロ計画

異星の客 もしも火星帰りの僕が神様になったら』

などなど作られるのか。地獄。

そもそも邦画実写でタイムトラベルSFというのが『サマータイムマシン・ブルース』以外信頼できない。『サマータイムマシン・ブルース』観てない人は是非観て欲しい。

 

他にも何で今更『夏への扉』を実写化なの!?という疑問や(『君の名は。』の影響受けて企画が動いてそうだけど、企画自体は『君の名は。』公開前の2015年から動きだしていたらしい)

出演作に恵まれない山崎賢人主演だったり、PV見るとあまりにも原作と違って不安になってしまったり


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誰が見るんだこの映画って印象をどうしても思ってしまう

原作ファンは観ないだろうし、SFって中々敷居が高いし、猫映画がヒットするなら『旅猫リポート』はもっとヒットしただろうし…

 

ただ、僕は面白いかどうか分からない作品を面白いかどうか評価が決まっていない時期に観るのを趣にしている人間なのでこういう映画は初日鑑賞に限る。

 

鑑賞しての一言感想としては…悪くないって感じだ!

オリジナル要素は多いが意外と原作の展開をなぞっているので素直な王道タイムトラベル作品という感じで老若男女問わず楽しめそう。

何よりも原作にある令和では厳しい倫理観も脱臭されており、観やすい。

確かに観やすいが、僕はこの脱臭された現代では厳しい倫理観こそ『夏への扉』で好きだった要素なのだなと思ってしまったのでそこを含んてここからネタバレありで感想を書いていきたい。

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あらすじ

ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。

将来を期待される科学者の高倉宗一郎は、亡き養父である松下の会社で研究に没頭していた。ずっと孤独だった宗一郎は、自分を慕ってくれる松下の娘・璃子と愛猫ピートを、家族のように大切に思っていた。しかし、研究の完成を目前に控えながら、宗一郎は罠にはめられ、冷凍睡眠させられてしまう。

目を覚ますと、そこは30年後の2025年の東京――。宗一郎は、研究もピートも、すべてを失い、璃子が謎の死を遂げていたことを知る。愕然とする宗一郎だったが、人間そっくりなロボットの力を借り、未来を変えるために動き出す。璃子を絶対救うという、信念とともに。

 

猫は可愛いが殆ど犬

原作の『夏への扉』は猫小説と呼ばれるぐらい猫好きならオススメと言われるが、意外と猫の活躍が少ないことでも有名。本筋とは殆ど関係ない。

ただ、映画ではパスタ&ベーコンという名前の2匹の猫がピートを演じていて可愛い。登場時間は短いものの「可愛く撮ろう」としているのがよく分かる。

ただ、あまりに人間のいう事に従順。

長時間鞄の中に大人しく入っていたり、素直に人に抱かれたり。

村上春樹氏が猫を好きな理由で言っていた

お互いに好き勝手なことをして生きている、みたいな所がいいんですね。あまりにもべたべたした関係は好きではありません。

 僕も猫の良さはここだと思うので映画のピートは限りなく犬だよなと思ってしまう。まぁ本当に可愛いのは可愛いのだが。

 

ロリコン要素の削除

夏への扉』で一番叩かれるロリコン要素。

 

原作では主人公は婚約者に裏切られ絶望する。

その時に以前より親しくしていて、自分に好意を寄せていた少女のことを思い出す。
なんやらかんやらあって主人公はタイムリープして彼女と出会う。その時に、彼女から自分を真剣に愛していると告白される。それならばと、「大人になってもまだその意志があるなら、君も20歳になったら冷凍睡眠しなさい。未来で目覚めたら、結婚しよう」と約束する。そして、彼女のとった決断は・・・。本編を読んで。

無垢な幼女が自分への純粋な想いを大人になるまで持ち続けてくれることが前提のオチであり、多くの人から気持ち悪がられている。

それを反映してか、映画では11歳の少女を清原果耶演じる高校生まで年齢が上がっている。

 

パンフレットでプロデューサーはこう言っている。

SF好きの男性の妄想にならないように(笑)、女性の側から見てちゃんと理解できる形の璃子にしたかったんですよね。そこは女性の脚本家である菅野さんに書いてもらって本当に良かったと思っています。

 宗一郎はあくまでもまだ学生である璃子には距離を保つ。勉強したり、社会経験を積むように言って璃子の告白を振ったりする。理性がある。

そしてサブタイトルの「キミのいる未来へ」の本当に意味が分かる終わり方は映画『夏への扉 キミのいる未来へ』としては完璧だったのではないかと思う。

 

ただ、僕は脱臭された映画を観て思った。

原作のあの引っ掛かり、気持ち悪さ、ロリコン要素があったから約20年前に呼んだ小説なのに今でもストーリーをぼんやり覚えているのだなと。

それらの要素がなくなった映画は王道タイムトラベルなんだけど、あまりにも何も残らない流動食のような内容になってしまい、コッテリした味付けと確かな歯応えで口の中が血だらけになってしまう事すらある作品が人気の時代にこの映画はあっさりし過ぎている感覚になってしまう。

原作のあの「うわぁぁぁぁ」感こそが、50年以上経っても未だに愛されて記憶に残り続けているポイントだったなと思う。

 

未来の素晴らしさ

原作『夏への扉』の特異な点、もう一つは未来賛歌だろう。

どうしてもSFが描く未来ってディストピア感が出てしまうが、『夏への扉』は「​過去より未来のほうが素晴らしいに決まってる」と信じている主人公の性格も相まって未来って良いなと思う内容になっている。

映画はそこの要素がだいぶ薄い。

大人になった僕は未来が無条件に素晴らしいなんて決して思えないが、子供の頃に小説を読んだ時はここに感動して未来に憧れ、希望をみた人間なので未来讃歌が薄いのは残念だった。

そもそも主演の山崎賢人が天才科学者に見えない。

「お前…『キングダム』の信と泣き叫ぶ演技、鼻の穴の広がり具合が一緒だぞ」って思ってしまう。

ただ、アンドロイド演じる藤木直人はかなり良かった。

原作にいないキャラなので不安だったけど、マスコットとしてもいい感じだし、未来感あるし、大活躍するものの彼がいなくても何とかなる活躍具合で原作の展開をなぞるのを邪魔しないという塩梅で丁度いい。

「カウボーイのおっさん」ぐらいの知識しかない藤木直人だけど、アンドロイドもいける。あんなアンドロイドがいる未来に早くなって欲しいな。

 

最後に

冒頭で「三億円事件の犯人確保」というニュースで現実とは違う世界だと観客に認識させるのはうまかったし、ブラウン管テレビで映る冷凍睡眠の話もアンバランスで良かったし、口内洗浄機みたいな見た目の電話機など小物含めて頑張っていて好印象。

 

我慢しきれなくてエンドロール前から流れ出すLISAの主題歌も曲自体は良かったし、1995年感を出すために何度も流れるMr.ChildrenCROSS ROADも当時青春を謳歌していた人には堪らないんじゃなかろうか。

 

後何より悪女を演じる夏菜が最高。これだけは覚えて帰ってくれ。

 

邦画のSFに偏見持っている人も原作にそこまで固執しないなら楽しめる出来になっているので是非みんな見て『月は無慈悲な夜の女王 私たちのアポロ計画』が制作決定になるそんな世界になるといいな。