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ホラー映画『カルト』感想

『コワすぎ』や『貞子vs伽椰子』で有名な白石晃士監督の代表作ともいえる『カルト』の感想をネタバレありで書いていきたい。

カルト

 【監督】 白石晃士 【出演者】 あびる優 三浦涼介 岩佐真悠子 入来茉里 岡本夏美

 

物語

「心霊現象が起きている家に霊能者連れて除霊に行く」というドキュメント番組の企画が立ち上がり、そこに3人の女性タレントが起用される、というシーンで幕が開く。

そんな除霊ドキュメンタリーに参加することになったあびる優さん、岩佐真悠子さん、入来茉里さん。この人選が妙にリアル。怪にビビる人に対して「でもこれ仕事だよ」という魔法の言葉で相手を強要しようとしてくるのも妙にリアルがある。

「これ仕事だよ」と言っておけばどんな無理難題でも押し付けれると思っている邪悪な人種がこの世には残念ながらいる。なるべく不幸せになって欲しい。

 

今回の番組を企画するにあたり、除霊のために呼び出された霊能者「雲水」

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これがもう「ザ・霊能者」という格好の胡散臭いおっさん。しかし、霊能者という肩書きの人にありがちなパチモンではなく、その霊能力は本物。

取り憑いた霊を祓うために行う動作(「スーッ」と息を吸い、印を切って「セイッ」)が妙に癖になる除霊方法でその家に起きる怪奇現象の原因特定や家族に降りかかる厄災の撃退に奔走する。

 

しかし、そんな本物の霊能者である雲水の必死の「スゥーーーーーーーッ……セイッ」も虚しく、ついには家族の娘が何かに取り憑かれてしまう。

 

そして、憑かれた女の子は飼っていた犬を食い殺すという恐ろしい事態に。

もう自分の手には負えないと判断した雲水は、自分の師匠である2人目の霊能者に時代を感じるガラゲーで連絡を取る事にする。

前代未聞の「電話越し除霊」の開催である。

 

「セイッ セイッ セイーーーーーーーッ」と電話越しから師匠「龍玄」の声。

あっ、やっぱ師匠も「スゥーーーーーーーッ……セイッ」するんだ。 

「セイッ セイッ セイーーーーーーーッ」

「セイッ セイッ セイーーーーーーーッ」

雲水共に怒涛の「セイッ」ラッシュ。


そんな必死の「セイッ」もあって、正気を取り戻す女の子。

 

後日、連絡を受けて現れた2人目の霊能者、龍玄も現場に入る。

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彼もまた「よっ!これぞインチキ霊能者」という格好をした胡散臭いおっさんなのだが、弟子の雲水と力を合わせてお祓いを実施、自身の相当な実力を遺憾なく発揮し、無事に家に住まう怪異を退治し、幕を閉じたかに思えた。

 

しかし後日、そんな霊能者である龍玄から連絡が入り、自分の除霊は失敗に終わったことを告げられてしまう。弟子の雲水は死亡し、龍玄自身の身ももう長くはない、と。彼は、あの家に巣食う存在は人間が関わってはいけないこと、自分たち人間の手には負えないことを呟き、最後に「自分はもう死ぬだろうが、除霊はちゃんと後任者に引き継ぐ」と言い残し、命を落としてしまった。

 

そして、ここからこの映画は変調する。

今作の顔である救世主、黒いスーツに金髪で、パッと見はチンピラかホストにしか見えない「霊能者」のイメージとは程遠い胡散臭さ全開の兄ちゃん、NEOの登場である。

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今までが雲水や龍玄など「ザ・霊能者」という格好はこの為の前振りだったのだ。最初の2人をあえてコテコテなイメージの霊能者として描くことで、NEOの存在がより際立っている。と同時に最初の2人の霊媒師も決して使い捨ての雑魚ではなく、それぞれ優秀な霊媒師としてきちんと描写してくれているのも素晴らしい。

 

NEOは登場した瞬間からそのチート能力を解放し、あれよあれよと事態を解決していく。

共演者に取り付いているという霊を瞬時に除霊し、あの龍玄先生を「龍ちゃん」呼ばわりし、映像を確認するなり「こりゃ龍ちゃんじゃダメだわ」と断言。怪異の家へ下見に行った時点で呪いの正体を即特定し、原因を断ち切るどころか真の敵に対して攻撃も行う。

 

「俺は俺を信仰してるよ」と言い、「神とか仏とか……馬鹿馬鹿しいよな……馬鹿馬鹿しくない?」とまさに唯我独尊。

 

「人間の手には負えない」と評された凶悪な存在と対等以上に渡り合うなどもうやりたい放題。彼の登場以降はそれまでの絶望的だった雰囲気がガラリと変わり、まさに一転攻勢のヒーローショーの幕が開く。

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そしてNEO最大の名台詞……
「俺たちの戦いは……これからだ」

でこの映画は終わり。

 

あびる優さん

この映画は「すごい強い霊能者が凄い怪異と戦う」という単純なストーリーで終わらせない。

怪異の原因は単なる霊の仕業ではなく、カルト教団の存在がいる事にNEOが気付くことでサスペンス的楽しさがあるのも素晴らしい。

終始、現実調のドキュメンタリーという体裁を崩すことがないのも良い。NEOが登場してからはホスト風の救世主VSヤバい怪異の対決、というハチャメチャな事になるものの、ドキュメントタッチで描くという現実離れした組み合わせは唯一無二の空気である。

また、万引きカミングアウトの人くらいの認識だったあびる優さんが、未来透視の能力者としてNEOと共に戦った女として好感度上がった。仕事増えて欲しい。

 

タカヤ好きとしては「よっしゃあああツッ!THE ENDォォ!!」的エンドは打ち切りのヒーロー漫画みたいで好きな終わり方だった。あらゆるエンタメがこうやって終わって欲しい。

凄く面白い、好みの映画でした。ああ、NEOにまた会いたいな。