コロナ禍のお盆休み。
不要不急かを自己判断した結果、帰省もせず家でダラダラしているだけ。
仕事の緊張感が解け、頭痛に襲われながら天上のシミを眺めるだけで何もしない。
そんな圧倒的勝者である自分へのご褒美としてスーパーでそこそこ高級のステーキ肉を購入し、独りで肉会をする事にした。ステーキは、正しい。ステーキだけは、揺るぎのない正義の証拠である。間違っているのは常に人だ。
僕は野菜狂信者ではないので、ステーキに野菜は添えない。ピーマンとか人参を付け合せる人とは友達になれない。肉を喰え肉を。ステーキこそが正義なのだから。
ただ、ここで問題が発生した。
肉の脂が僕の五臓六腑を通るたびに、胃の悲鳴が聞こえてくるのだ。
気持ち悪い、もう無理と。
今までそんな事はなかった。ステーキは正義であり、どれだけ食べても食べれば食べるほど幸福を嚙み締めることが出来た。それなのに今、心底気持ち悪い。脂を食べ切ることが出来ない。
ステーキに裏切られてしまったのだ。
胃袋の中でアーサー王を裏切って王国を滅ぼした騎士・モードレッドと対峙したような気持ちになってしまう。私はたまらず、冷蔵庫を開け、キャベツを取り出し、素早く千切りにして口に放り込んだ。シャキシャキと口の中から聞こえて勝利を確信した。キャベツこそが約束された勝利の剣だった。
人は老いる。
誰もがそこからは逃れられない。
僕はもう美味しい脂を腹いっぱい食べる事すらできなくなってしまった。これから先、脂以外にも重い奴はドンドン食べれなくなっていくだろう。それに伴って食に関する関心も薄れていくのかも知れない。
ただ、自分が出来なくなってしまった事を他の誰かが行う。それを眺めているだけでも嬉しいものだ。それまるで願いを託すように。野球部OBが現役選手の練習を見て懐かしむように。ご老人が孫の食事をしている姿を見るのが好きなように。
僕も誰かが幸せそうに食べている姿を見たい。
しかし、ここでも問題が発生する。
僕には一緒に食事をしてくれる人がいない。
子供や嫁さんどころか彼女もいないし。そもそも友人もない。食卓を囲めるメンバーは母親ぐらいである(母親はなんか違う)それでなくてもコロナ禍だと誰もが難しいと思う。
飯を美味しそうに食べてる姿を見たい。
欲を言うなら可愛い子か美味しそうに食べてる姿を見たい。
前置きが非常に長くなってしまったが、そんな願望を叶えてくれる漫画がある。
漫画『メイドさんは食べるだけ』を紹介していく。
内容
可愛いメイドさんが食べ物を美味しそうに食べるだけ。本当にそれだけである。
それに対して内容がないと文句を言う人もいるかもしれないが、拳銃を頭に押し付けてそのまま殺してしまっていい。ヘアカット専門店に行ったのにお腹が膨れないと文句を言うぐらいの見当違いな意見だ。タイトルに「食べるだけ」って書いてあるんだから食べるだけの内容でいいのだ。
イギリスにある屋敷が倒壊したとかで、日本で一人暮らしをするはめになったメイドのスズメさんが主人公。
なんでスズメさんは1人で日本にいたの?とか
なんで常にメイド服着ているの?とか
疑問は色々出てくるが、可愛さで押し通すその根性、僕は好きだね。
かの英国紳士、キャプテンアメリカもこう言っている。
「群衆や新聞や、あるいは世界中から"なんでメイドさんなんや"と言われたならば、真実の川の岸辺に生えた木の如くに立ち、世界に向けてこう言ってやれ"可愛いければ何でもいい"。と」
このメイドさん、ただひたすら日本の食べ物を食べる。
たい焼き、たこ焼き、コンビニおにぎり、信玄餅等々。本当に美味しそうに食べる。
所謂グルメ漫画と呼ばれるジャンルである。
このジャンルは美味しそうな食べ物描写と美味しそうに食べる表情が全てである。
そのシンプルさ故に、一歩間違えると読んでいて気持ちの悪さMAXになりがちだ。
個人的には
「コレ美味しい」←わかる
「うまあああああ!!」←まだわかる
「うっま…」涎たらー ←気持ち悪っ!!!
ってなる。基本的に食い方に色気を出されるとキツイ。
恐らく僕の中では食欲と性欲は相容れない。
女体盛りやノーパンしゃぶしゃぶが文化として長続きしなかったのもよく分かる。
しかし、この『メイドさんは食べるだけ 』の食事シーンは「色気」ではない「可愛い」のだ。
例えばこれ。
『メイドさんは食べるだけ』1巻より
一話でこの表情。こ……これでいいんだよ!!!が詰まっている。思わず愛でたくなる。
『メイドさんは食べるだけ』3巻より
そりゃおじさんもこんな顔するわ。僕も漫画読んでいる時、ずっとこんな表情である。
更にここからリコッタさんという可愛い女の子も参戦してくるので無敵。
可愛い女の子の可愛い表情の多様さを楽しめるし、指先が綺麗だったり、オノマトペの発想も面白い。そして女の子が可愛い。
僕はもう美味しい脂を腹いっぱい食べる事すらできなくなってしまったおっさんだが、可愛いメイドさんが美味しそうに食べるのを見てるだけ。それだけで人生は意外と楽しい。