社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

映画『サマーゴースト』感想。

脳内データでは学生時代に乙一西尾維新奈須きのこ佐藤友哉舞城王太郎にどっぷりハマった人はロクな社会人になれないと結論付けられていますが、あなたはいかがでしょうか。

私は社会人失格の毎日です。

 

その中でも乙一は黒乙一、白乙一の呼び方があり、個人的には黒乙一の作品が大好きだった。

因みに知らない人に説明すると猟奇的な作品は“黒乙一”、物悲しさを含んだ作品は“白乙一”とファンから呼ばれていたが、今では乙一だけではなく、中田永一、山白朝子、安達寛高(本名)と多様な名義を使いこなしている。

 

今回はそんな乙一安達寛高)が脚本をし、原案・監督をイラストレーターloundraw(26歳って若すぎない?)

そしてアニメーション制作はそんな若いloundrawが設立した FLAT STUDIO。

 

上映時間40分の短編アニメーション映画、『サマーゴースト』の感想をネタバレありで書いていきたい。

f:id:Shachiku:20211112233815j:plain

【音楽】    小瀬村晶 当真伊都子 Guiano HIDEYA KOJIMA

あらすじ


「サマーゴーストって知ってる?」

ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。都市伝説として囁かれる“通称:サマーゴースト”は、若い女性の幽霊で、花火をすると姿を現すという。自身が望む人生へ踏み出せない"友也"。居場所を見つけられない"あおい"。輝く未来が突然閉ざされた"涼"。彼等にはそれぞれ、サマーゴーストに会わなくてはならない理由があった。サマーゴーストの死体探しをしながら、生と死が交錯する夏の夜、各々の想いが向かう先はー。(公式HPより)

 

『夏と花火と私の死体』ではない

我々のような人種はどうしても「乙一脚本」で「夏」で「花火」で「死体」というと『夏と花火と私の死体』が浮かび上がってしまう。

そうなると『サマーゴースト』もシュブナイル映画と見せかけたホラー映画、

好青年と思わせて、サイコパス野郎が主人公と想像してしまうし、余白が多い映画なので実際に終盤までは主人公が実はサイコパス野郎の可能性を捨てきることが僕にはできなかった。

 

サマーゴーストに会うのは「死」に触れた経験をしないといけないらしいが、自殺をしようとしたあおいや、病気で寿命が短い涼と違って主人公の友也はなぜ「死」が近いのか、その理由が語られなかったこと、クローゼットの中に大事なモノを隠している描写があること(『夏と花火と私の死体』は押入れの中に死体を隠したりしていた)

それらの理由から、名探偵であり、映画マスターである僕はピピーンと来た。これは主人公の友也が人を殺している殺人鬼であり(故に「死」に触れている)、死体を見ると安心するサイコパスなのだと。これなら全てに説明がつく。

 

サマーゴーストの死体を探すのも真の目的は死体をゲットすることだった…それを序盤から看破した僕は勝者の余裕からニヤニヤしながら映画を観ていたのだが……

 

 

思ってたのと全然違う展開!!!!

ホラー映画ではなく、主人公がサイコパスクソ野郎でもなかった。

ひと夏を通して成長する少年少女たちの物語だった。まごうことなきシュブナイル映画だったのだ。

そもそも小説を読むと、

友也・あおい・涼の3人とも自殺を考えているメンバーというのが序盤から判明して、ホラー映画とかそういうのを疑う映画ですらなかった。

絵が好きだった友也だが、母の命令で絵を描くのを止め、優等生を演じ続けた。

自分で自分の道を選べない。それは自分の人生と呼べるのか。だったら自分で自分の死を選ぶことが出来たら少なくとも僕の人生は自分のモノだったと言える。だからこそ友也は自殺を考えていたのだ。

 

そんな彼らは実際に死んだサマーゴーストこと絢音と接している内に、「もう少し生きてみようか」と一歩前進する、そんな物語。

最後の冒頭にも繋がる一捻り展開も決して黒乙一ではなかったけど、心温かくなるやつで良かった。

上映時間40分と短い中で、登場人物の心象の変化に付いていけない部分もあるが、最終的に満足度のあるスピード感と展開だったと思う。

 

映画を観た人は小説版も是非、読んで欲しい。余白が多く映像で語る映画版と、心象などを細かく文字で語る小説版では、同じ物語なのにここまで作品の味が変わるんだなと驚く。特に映画版ではもう一人の友也との戦いのシーンがあったが、小説版ではそんなシーンなかったり。両方楽しめる。

 

その他

  • 映像面ではloundrawの魅力が存分に発揮されていた。アニメーションというよりイラストが動く感覚。灰色のような白を元とした風景や、その白さとの対比している青空や夜空。絶妙な色彩が、まるで生と死の境のようだ。ただ、作画が結構な頻度でカクカクしてたり、セリフと口の動きが合ってなかったり、雰囲気は良いけど、絶妙に足りないのがインディーズっぽい。よくよく考えると独特な色彩もインディーズゲームあるある。
  • パンフレットが1800円と劇場料金より高い。中身はloundrawのイラストが多くて画集みたい。乙一のインタビューがなかったり、読み物としては物足りないかも。
  • 入場特典のファイルが貰った時は「ふーん」程度だったけど、観終わると「これは良い特典!」ってなるやつだったのでオススメ。
  • 『天気の子』よろしく空を飛ぶシーンで、歌が流れないのは最近のアニメ映画っぽくなくて好き。最近のアニメ映画はエモいシーンでエモい歌流れ過ぎ問題があるので……それはそれとして、絢音が空に飛ぶシーンでスカートの中見ようとした人、素直に手を挙げなさい。

 

最後に

新海誠の『ほしのこえ』のように、あの有名監督の処女作を劇場で観たんだぜ!と20年後に『サマーゴースト』を観れたことを自慢できるかもしれない。そんな予感のある作品だった。

 

最後に一言。

主演声優の小林千晃と監督のloundraw、滅茶苦茶雰囲気似てない!?

 

マシュマロカットなだけ!?