社会の独房から

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ネタバレ『地球外少年少女』解説と考察。ナサ・ヒューストンについて

すべては変わりゆく
だが恐れるな、友よ
何も失われていない

神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』)

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舞台は、インターネットも、コンビニもある「2045年の宇宙」。
日本の商業ステーション「あんしん」で、少年少女たちは大きな災害に見舞われる。

大人とはぐれ、ネットや酸素供給が途絶した「あんしん」から、自力での脱出を目指す子供たち。
ときに仲間の、ときにAIの力を借り、生きるための行動を採る彼らは、史上最高知能AIが語った恐るべき予言の「真意」にたどり着く。
絶体絶命の状況下で、子どもたちは何に触れ、何に悩み、何を選択するのか――。(公式HPより)


電脳コイル*1磯光雄監督の最新作、『地球外少年少女』を観た。

前編を劇場でみて、そのままの勢いをもって帰宅後にネトフリで後半を一気見してしまった。以下、ネタバレありで感想

 

 

「11次元」的思考と那沙・ヒューストン

人間である主人公相模 登矢が少女心葉を救うため己の知能リミッターを解除して得られたのが、「11次元」思考と呼ばれる、無数にある隣接した自分自身(並行世界的なモノ)と思考を共有する感覚。

分かりやすく言うとパラレルワールドに存在する自身を認識できるようになる力。
それを踏まえてこのインタビューを見てもらいたい。

磯 ほかにもたくさん謎がありますよ。実はね、×××っているでしょう、あのキャラクターはね、×××××××××××××とされる、××××××××××××の一人なんですよ。

 ーーえええええええー…っ!! 

磯 この作品の×××××では死んでいるんですけど、実は×××××××××。それだけじゃなく、×××××××××している××××××なので、×××××××××××××ができる人なんですよ。それから、セブンポエムが×××××××っていうと、そもそも量子って××××××な振る舞いをするわけじゃないですか。ということはつまり、量子コンピュータは×××××××××××××××××××な思考をしているわけです。当然複数の×××××××××がわかるわけですよね。で「ルナティック」とは何か。これはね実は作中でも一瞬説明してますけど、×××××の自分自身と、××××××××××××××を共有しているんです。×××××××××××××××して、11次元的な×××××××××××××××、だからあの人はそこで×××××××××××××××、というわけです。

ーーそんな設定が…。それを知ってから全話、見返さないといけないですよ。

muplus.jp

 

ここで磯監督の核心部分が伏字になってしまっているが、自分なりに考えたので埋めたみた。

磯 ほかにもたくさん謎がありますよ。実はね、「那沙・ヒューストン」っているでしょう、あのキャラクターはね、「月で生まれた15人の子供たち」とされる、「ムーンチャイルド」の一人なんですよ。

ーーえええええええー…っ!!

磯 この作品の「世界線」では死んでいるんですけど、実は「別の世界線では生きてる」。それだけじゃなく、「ルナティック」している「ムーンチャイルド」なので、「「11次元」的思考」ができる人なんですよ。それから、セブンポエムが「人類の未来を予言する天啓」っていうと、そもそも量子って「いろんな状態が重なり合って存在して、観測することで確定されるよう」な振る舞いをするわけじゃないですか。ということはつまり、量子コンピュータは「11次元的な、他次元世界を観測するよう」な思考をしているわけです。当然複数の「未来」がわかるわけですよね。で「ルナティック」とは何か。これはね実は作中でも一瞬説明してますけど、「他次元」の自分自身と、「過去や未来、別の世界の自分の情報」を共有しているんです。「スマートでセブンポエムを確認」して、11次元的な「思考で複数ある未来を一つに確定させていく」、だからあの人はそこで「自分が死に登矢がフィッツを組織する未来を確定させた」、というわけです。

ーーそんな設定が…。それを知ってから全話、見返さないといけないですよ。

 

という感じ。

「死」というのが重要で本作で死んだのって那沙だけだし、過去含めて死んだ説明があるのは彼女以外には登矢と心葉の両親だけ。

また、那沙が「自分にはもう時間がない」的なセリフ言ったり、吐血してた理由って単純にエレベーターで肋骨を折ったからだけだとは考え辛くて、彼女もムーンチャイルドとして体の限界が来ていたのではないかとも思う。

f:id:Shachiku:20220130213749j:plain(C)MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

 

 

無理やりな解釈なのは分かるが、僕は那沙の正体がジョン・ドーのテロリストなのは意外性あったけど、どうしても死ぬのが納得出来なくて。
「決められた未来なんかない、変えられるのは未来だけだ」って言うなら那沙の死まで回避して欲しかったし、それまで世話係として子供たちを守ってきたのに死んだ後のリアクションが薄いのも悲しかったので。

 

あと、アニメスタイルの10号で『地球外少年少女』の初期案がのっているけど、そこでの那沙が心葉と美衣奈を合体したようなキャラクターで、その名残で那沙は別次元で生きている説を押したいなと。  

 

SFとして

幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』『天涯の砦』『あなたの人生の物語』など過去の様々なSFを参考にして作られたのがよく分かる本作。

 

人類を圧倒的に凌駕する存在によって人類は次なる段階に進むというのは古典的でよくあるSFだ。

本作もシンギュラリティに到達したAIの情報の処理は並列的に行うので、人間的時系列的観念を理解出来ず(関心がない?)、過去も未来も同価値とする。

エヴァ死海文書的なオカルトにしかみえないセブンポエムだが、シンギュラリティに到達し並列処理が出来るAIなら因果を分析し、予言的なことすらやってのける。

故にルナティック・セブン事件から始まった全ての事はセブンのシナリオ通りだった。

最後に登矢が「セカンドセブン彗星の質量が人類減らすには少なかった」と言ってるし、彗星のチリで地球の温度が下がり、一時的に時間稼ぎも出来た、その間にフィッツが主導となって人類の一部を地球外に移行することで人類の終わりを終わらせる事が出来る。

彗星で人類抹殺とかは全部セブンの芝居でシナリオ通りだったという話。


恐らく、セブンのシナリオになかったのは心葉生存くらいだったのかなと。

 

この通り、セブンに導かれるままだったこの『地球外少年少女』の2045年という僕から見て未来の世界。

宇宙で生まれた登矢を多額の経済的コストを払って「生かされいる」事に非難の声があったり、AIなどの技術分野にお金をかけない政策の政党が選挙で勝ったり、日本という社会が経済的な余裕がなくなっているのは僕らから見ても「今」の地続きの世界であることがよく分かる。

超高性能AIセブンのもたらした事故をきっかけに、知能リミッターという規制がなされるようになり、技術の進歩に対して希望を失いなっている時代。

そして環境問題や人口問題、フェイクニュース陰謀論、現在の僕たちが直面している様々な問題がどれも解決していない時代でもある。

 

それ故にAIという新しい「神」を求める集団が出てくる。そして超高性能AIであるセブンの予言通りになる『地球外少年少女』の物語。

 

2045年とは「人」と「AI」の関係性が変わる時代ともいえる。どちらが主人でどちらが道具なのかその境が消えていく。

 

そんな中で登矢はAIの予想を超えていく。

「決められた未来なんかない、変えられるのは未来だけだ」と。

地球人の情報をネットからだけ知っていた登矢は最初、地球人を忌み嫌う。

しかし、地球人と共にハプニングを乗り越えて、肩を貸し合い、共に進むことで考え方が変わっていく。

人類とAI、地球人と地球外居住者などの対比の中で
両者の協力や対話、相互理解の末に

 

心葉を救うというAIの予定外のことをやり遂げたのだ。

 

そして、セブンポエム以後の世界であるラストの世界で子供たちは遥かな未来を拓いていく。その世界で人とAIは同じ立場、パートナーの存在になっていくんだろなと。

 

細かな所

  • 「人類と人間は違うのですか?」 劇中では答えが出なかったこの問い。普通に考えれば個が人間で人類は種全体という意味で、種全体を守るためのシャア思考での彗星落としなんだろうけど。わざと答えを出さずに観客に考えを求めた作品。
  • AIの彗星落としを止めさせるためにネット情報のフィルタリングをやめて全部見せてしまうのはどうなんだろうか。登矢自身はネット情報ではなく実際に地球人と対面したからこそ偏見がなくなったのにAIにはネット情報だけなのはテーマ的にもどうなんだと。それならダッキーやブライト、トゥエルブといった実際に人間と関わってきた存在がキーとなった方が自然だった気がする。AIは超頭が良いからセーフ。うーん。

 

 

「正しさ」と「面白さ」

公開のタイミングがプラネテス騒動の直後だったのは何かの縁なのか*2

フィクションの中の正しさが問われる時代。磯監督はこう言う。

 

科学技術を題材にすると「正しさ」と「おもしろさ」かの選択になる。我々の仕事は宇宙に全く興味がない人も、前のめりになってもらえる、そんな作品を作る事。どちらかを選ぶとなった時、おもしろさを優先させた。設定面で嘘くさすぎると急激に見る意欲が薄れるので最低限の礼儀作法的は入れているが、「宇宙としておかしい」となっても「アニメだから、面白ければいいんだ」と返す。

アニメって基本的に与太話なんですよ。

 

僕は正しさとか正解、不正解といったフレームを超える「フィクションの力」を信じたい。

そこに注目するブログでありたい。

 

 

 

*1:僕がこの作品を見たのは子供の頃だったけど、当時は自分が眼鏡しているのにコンプレックスがあったので、当眼鏡型デバイスのカッコよさに救われた。早く、現実でも実現するんだよ

*2:https://togetter.com/li/1836290