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アニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』感想。DUNEよりブレイブストーリー寄り。

映像化不可能と言われてきた作品の映像化、大体失敗説。

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あらすじと概要

かつてツオル帝国は圧倒的な力でアカファ王国に侵攻したが、
突如発生した謎の病・黒狼熱(ミッツァル)によって帝国軍は撤退を余儀なくされた。
以降、二国は緩やかな併合関係を保っていたが、アカファ王国はウィルスを身体に宿す山犬を使って
ミッツァルを再び大量発生させることで反乱を企てていた。
ミッツァルが国中で猛威を振るう中、山犬の襲撃を生き延びたヴァンは身寄りのない少女ユナと旅に出るが、
その身に病への抗体を持つ者として、治療薬開発を阻止したいアカファ王国が放った暗殺者サエから命を狙われることになる。
一方、治療薬を作るためヴァンの血を求める医師のホッサルも懸命にヴァンを探していた―― 。
様々な思惑と陰謀が交錯した時、運命が動き始める。(公式HPより)

 

精霊の守り人』で知られる上橋菜穂子による、2015年度の本屋大賞と日本医療小説大賞をダブル受賞を受賞したファンタジー小説を『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『君の名は。』で有名なアニメーター安藤雅司の監督デビューで映画化。

 

当初は20年9月18日公開予定だったが、コロナ禍の影響で公開を1年延期になり21年9月10日公開予定になったものの、コロナ禍の影響で更に2度目の公開延期となり、このたび22年2月4日に公開された。2回の延期したのに関わらず結局はオミクロン株の脅威真っ最中に公開というのが何とも悲しい。

ここからはネタバレありで感想を書いていきたい。

 

原作と映画

原作の『鹿の王』は1,000ページ以上の大作であり、ハードカバーで上下巻。文庫版で4巻というボリュームある内容を2時間の尺にするのがそもそも難しい。

 

ボリュームのある原作を映画化にするにあたって解決策は3つ考えられる

1,原作の一部分を採取しながらオリジナルの物語を作り上げる。

2,一作だけで終わらず、2、3部作前提として作る。

3,布団圧縮袋のようにとにかく無理を承知で詰め込んで 1作にする。

同じく映像化不可能と言われてきた『DUNE』をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は2の手法、即ち一本の映画で終わらない方法で解決した。恐らくファンが一番満足できるのがこの方法だと思うが、同時に興行収入的に失敗すれば容赦なく途中で打ち切られてしまうリスクがある。アレとかアレなど。

 

みんな大好き映画『ブレイブストーリー』は肝心の冒険の様子が主題歌の「決意の朝に」をバックに 3分程度のダイジェスト映像で処理したり、重い要素をカットして2時間ほどに抑えた。

それでは『鹿の王 ユナと約束の旅』はどうだろうか。

本作で安藤監督は

 

ただ原作をなぞるのではなく、その精神的な部分を抽出しながら描けたらなと

 

と言っている通り原作の一部分を採取しながらほぼオリジナルの物語を作り上げている。

まず登場人物は大幅カットしているし、原作であった良いセリフだけそのまま借用しているだけで展開も最初と最後以外ほぼ別物である。

具体的に言っていくと原作ではヴァンとホッサルという2人の主人公の視点から「生命」に対する賛歌をテーマに上橋菜穂子先生による日常生活の圧倒的な描出力と、病気と医療、宗教と医学、植民地主義と征服された民など様々なドラマが動いていくが、映画では「ヴァンとユナ」疑似親子の物語に軸を置いている。

 

映画でオキの郷でユナが黒犬に攫われ、追いかける為にヴァンとサエとホッサルの3人旅が始まる展開になる。

原作知っている人だと「なんだその展開!?」ってなるし、原作知らない人だと「ええ!?原作にないの!?」ってなると思う。

 

本作の中盤から終盤まで映画オリジナル展開である。

原作ではヴァンとホッサルが出会うのは終盤なのだが、映画では割と序盤で出会う。

それはただ悪いことだけではなくて、ホッサルというキャラクターがアルフィノ化するなど見どころも多い。

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使える薪が分からないポンコツホッサルとか、野生動物の肉を喰うのにぶつぶつ言うホッサルとか、泥だらけになるホッサルとか、可愛さ売りにしていて別物である(あとCV竹内涼真が良かったというかエンドロールで初めて竹内涼真だと知ったぐらい俳優の顔が出てこない程キャラクターに馴染んでいたと思う

ミラルやリムエッルといったホッサルで重要なキャラクターがことごとくカットされているので、ウィルスの正体やその感染ルートを突き止めていく医療ミステリーとしての要素がほぼなくなっている。

 

確かに原作では派手なバトルも、国同士の大規模な戦争も起こっておらず、メインに据えられているのは人間性や伝染病という地味なテーマなので映像化が難しいのだが(大事な所はほぼ会話劇である)、少なくとも僕はその地味なテーマの扱い方が原作では好きだったので、申し訳ない程度に触れた後は直線的でありきたりな少女奪還のためのファンタジー冒険旅の作品になってしまったのは寂しい。

 

あと、背景一つ一つは良かったし、オキの郷での生活とか皆生き生きとしていて良かったけど、クライマックスの「玉眼訪来」の襲来シーンとか横視点多くて退屈というかレイアウントは平凡だったなと。ピュイカのアクロバットな動きとか見たかった。あと、あんなに兵いるのに王を守るために動く兵少な過ぎて笑えるし

ヴァンにあんまり役にたたなかった謎パワー追加されたのも面白い。

 

最後に

原作ではヴァン達の最後は読者の想像に任せる終わり方をして、「えー--みんな再会できたのか!???幸せになって欲しいよー-----!!!」と思った人も多いが、映画ではほぼ同じ展開ながら一歩踏み込んだ内容になっており、ヴァンの最後に心囚われた人ほど中々泣けることになっていると思う。そういう意味では原作ファン向け映画かもしれない。

個人的にはNHKでテレビアニメシリーズになって欲しかったかな。