スピリチュアルとリアルの狭間で
東京から少し離れた田舎町に暮らす少年・ロウマ。
周囲と上手く馴染むことができないロウマは、
同じように浮いた存在であったトトと二人だけのチーム"ドン・グリーズ"を結成する。
その関係はトトが東京の高校に進学して、離れ離れになっても変わらないはずだった。「ねえ、世界を見下ろしてみたいと思わない?」
高校1年生の夏休み。それは新たに"ドン・グリーズ"に加わったドロップの何気ない一言から始まった。
ドロップの言葉にのせられた結果、山火事の犯人に仕立て上げられてしまったロウマたちは、
無実の証拠を求めて、空の彼方へと消えていったドローンを探しに行く羽目に。
ひと夏の小さな冒険は、やがて少年たちの“LIFE”生き方を一変させる大冒険へと発展していく。(公式HPより)
『宇宙よりも遠い場所』で日本国内のみならず、ニューヨーク・タイムズが発表した「ベストTV 2018 インターナショナル部門」(The Best International Shows)に選出されたり、世界中で高い評価を受けたいしづかあつこ監督による初のオリジナルアニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』
ここからはネタバレありで書いていくよ。
グッバイ、ドン・グリーズ
ロウマとトト、学校に居場所がなく、常に隅っこにいた2人のたった一つのよりどころになったのが秘密基地ドン・グリーズ。
ドン・グリーズの意味、ロウマはそれを「ドンくさいからドングリ」「ドングリのせいくらべ」と周りにからかわれたのもあって、果実のドングリだと思ってたけど、トトは「don't glee」の意味でつけていた。
教室の隅で暗い顔をして、だんまりで、小さくなって、ドングリってからかわれ、笑うな、喜ぶな。それがお前らにはお似合いだって言われ続けてきた2人には歓喜は無縁だったから、don't glee。
しかし、名詞のgleeにdon'tはつかない。小学生の時に考えた名前だから文法を間違えてしまっている。それでもドロップは言う。「間違いじゃないよ。伝わるよ」と。
ロウマとトトはそんなドロップと出会って、3人で阿保みたいな間違いだらけの冒険をして、そして、ドロップと永遠にお別れする時が来て、ドン・グリーズをさよならをして燃やす。トトが参考書を焚火の中に放り込んで燃やしたように。「一度くらい逃げたって、もう一度戦えるよな」と決心したあの日のように。
それはきっと、don't gleeにお別れしたんだと思う。
間違いだらけ、寄り道だらけのロウマとトトだったが、ドロップと出会い、冒険する事で、彼らは気づく、自分達はもう歓喜とは無縁ではないことに。
生まれ育ったあの町は世界の全てではなく、もっと広く、楽しさに溢れており、何よりもかけがえのない友がいるのだから。
やりたい事は分かるが
ロウマとトトが、アイスランドの滝近くにある電話ボックスに間違って電話をかけてしまった事が全ての始まりだった。それを最後の最後、ドロップのメッセージで分かる。
という展開にしたかったのは大いに分かる。僕も驚いたし、普通に感動した。
しかし、同時にその展開にするために「そうはならんやろ」ポイントが大量にあるのが本作の評価を賛否両論にしている点だと思う。
『宇宙よりも遠い場所』は大好きだけど気になる部分はそれなりにあって、それを出来るだけ気にならないように配慮してた作品だけど、『グッバイ、ドン・グリーズ!』はその配慮する尺がないからか原液のままで「うっ」となる。自分なりに考えて補足してみた。
ラストシーン。
最後電話かけてきたのは誰か問題は、天国のドロップからという大川隆法説でも、間違い電話説でも、これから広い世界で新しい誰かに会うという比喩でも何でも良いし、そこは主題ではないと思うけど、ドロップが電話ボックスから日本の田舎にいるロウマ達を特定した方法が不明過ぎる点は気になる。ドローン探しの比ではないほど難しい。
ノベライズ版読んで電話シーンを何度も読み返したが、特定できる所が「ロウマという名前」「時差、向こうは6時過ぎた」「外国」「日本語での会話」ぐらいしかない。
これだけでアイスランドから日本の田舎に住んでいるロウマまで特定できるのあまりにも怖すぎる。可能性があるとしたら、ロウマが一時期インスタをやっていたらしいのでそこから名前検索で突き止めたぐらいだ。
いしづかあつこ監督からしたら「そんな事はどうでも良いんだよ!」と言いたいのかもしれない。
また、なぜ、ドロップはロウマとトトに雑な地図で黄金の滝と赤い電話ボックスという挑戦を叩きつけたのか。
ドロップが死に、それを知ったロウマとトトが悲しみに打ちひしがれたり、自暴自棄になるにのは目に見えていた。故に目標を与えることでそれを回避させるドロップのプレゼントだったのだと思う。
他にも
- リア充の仕返しが女装でギャフンにはならないだろとか→ドロップが病院で入院してたこと。カツラのアイテムを提示するため
- 火事の犯人だとLINEのグループラインで噂になったことがドローン見つける旅のきっかけになるけど、TVニュースになるとかならともかく学校内LINEでの拡散に意味ねーだろうというツッコミ→ロウマとトトは狭い世界、狭い社会に生きていたので、学校での噂=世界の噂だった。
- そもそも発言の痛さや考え方からいってロウマとトトが高校生いう設定が無理ある。中学生の方があってる。→2人だけでアイスランドまで行くのに中学生は無理。
- クマが整髪料で逃げる訳ないだろ!!→クマが住んでないといわれる山でクマに出会えたことが、間違いだらけの道、自分だけの道を歩みことの大切さを再認識するきっかけになるから
- 何で都合よくドロップはドローン見つけれたの→それを疑問に追うのは野暮。たまたま反射光を見つけたのかもしれないし、人が死の淵に立つと超人的な能力を持つことが出来る世界なのだろう。
- 高校生がアイスランド旅行に行けてしまう経済力はどこから?→一応あの時は高校三年生になっており、トトは親から金を借りて、ロウマはおじさんの手伝いでユクドラシルカレーを作ったのがヒットしてそこそこ稼いだらしい。高校3年生なら受験でトトは海外行ってる場合ではないと思うが、まぁ「一度くらい逃げたって、もう一度戦えるよな」精神の持ち主なので。
- チボリは必要だったか?→いなくても成立したが、狭い価値観で生きているロウマと対比させたかったのかもしれない。いしづかあつこ監督も彼女の物語はまた、別の機会にと言っているので、ブラックパンサーが単独作に出る前に『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に出たノリかもしれない。
- ドロップは女の子で良かったのでは?→男の子だから良いんだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
全体的に最後のシーンが描きたかったのは分かる。
しかし、そこへ繋がる道が歪で、映画という尺では綺麗な1本の作品になっていない印象。また、各キャラの心情も急ぎ足なのも気になるし、あまりにも言葉で説明し過ぎなのも気になる。あとは最後のエモさにどこまで乗り切れるかという話。
正直、映画よりネトフリで6話ぐらいのリミテッドシリーズがあっていたと思う。
まぁ、いしづかあつこ監督の初アニメ映画なので、
思い切って高く飛べば、きっと今まで見えなかった景色が見えてくる。上ばかり見て、手を伸ばしていた宝物だって、気づけば足元に見下ろしているんだ。そうして手に入れた宝物は、今日僕がここに生きていたってことを証明してくれる。
の精神でこれからも挑戦し続けて欲しい。
背景
「青一色に染まった世界の中では、小さな赤こそが主役になれる。これもそんな気づきを与えたくれた一枚。ありがとう」
これはチボリがロウマに送ったメッセージ。
本作は基本的に抑えられた色彩の中で黄色味のある緑や黒が基本調の世界の中で、コカ・コーラやテントウムシ、赤い電話ボックス、焚火など赤色が要所要所で輝く。
染まりきった世界で染まらない存在が主役になる事がある。
舞台に山の中が多い中、観ていて飽きないのは美術監督岡野綾乃さんとマッドハウスの実力だよなと。
最後に一言、
一番の宝物は皆との友情だったとかいうワンピースでやられたらキレる展開もワンピースじゃないから許された。