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『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』感想。作品内容が不意に現実の情勢とリンクしてしまった時の居た堪れなさ

街中を戦車が走ってるのを見て楽しめるのはそれが虚構だから。

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あらすじ

夏休みのある日、のび太が拾った小さなロケットから宇宙人・パピが現れる。宇宙のかなた“ピリカ星”の大統領だという彼は、反乱軍から逃れてきたという。ドラえもんのび太らは半信半疑だったが、“スモールライト”で小さくなってパピと遊び仲を深めていく。

 

水田わさび版「ドラえもん」劇場版第十六作であり、シリーズ通算41作目。
1985年に公開された『のび太の宇宙小戦争』のリメイク作品。

元々は2021年3月に公開予定だった作品だけど、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2022年3月へと公開が1年延期した。

前作の『映画ドラえもん のび太の新恐竜』も同じくコロナの影響で3月から同年の8月に延期で、延期するとしても同じぐらいだと思っていたのでまさかの1年延期は結構驚いたし、タイトルが『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』なのに2022年公開は40年後とかにひっかけクイズ問題として猛威をふるいそうである。

 

そして、何よりもその1年の延期の間に世界情勢は大きく変わり、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して今はまさにキエフで首都攻防戦が行われているという状況。

ニュースを見れば、空爆で民間人が死に、街中に戦車が走り、原発が制圧されたという「そんなことあるの!?」の連続。


厳密に言うと『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は軍事クーデターとそれに対するレジスタンスの話なので、ロシア、ウクライナといった国家間同士の戦争の話とは違うけど、非道な独裁者とそれに反抗する市民達という構図には「去年の3月に観ていてもこんな気持ちにはならなかっただろうな」という要素が多すぎる。冒頭で戦車が街中を走り砲撃するシーンなんてさっきまでyoutubeでリアルに見てた所なので、乾いた笑いが出てきてしまう。原作の時点で、当時まだ冷戦状態だったことは分かるが、偶然にもこんな形で再び時代に沿った内容となるとは皮肉である。

脚本家の佐藤大さんはパンフレットでこう言っている。

 

原作からは映画のテーマを示すセリフを見つける事が出来ました。「そりゃあわたしだって怖いわよ!でも、このまま独裁者に負けちゃんなんてあんまり惨めじゃない!やれるだけのことをやるしかないわ…!!!」というしずかちゃんのセリフです。F先生の描く、こうしたいつまでも変わらない普遍的な価値観こそ、どんな時代でも、むしろ今の時代だからこそ響くメッセージになると思いました。

 

いや、まさかここまで響くメッセージになるとは佐藤大さんも思ってなかっただろうなって。

しずかちゃんのセリフなんて、ウクライナの人がインタビューで答えてそうである。

これが戦争を見越して製作陣がアニメを作っているならメッセージなども素直に受け止める覚悟も出来るが、恐らく完全な事故なのが悲しい。不謹慎な言い方をすれば今だから味わえる映画ともいえる。

 

 

そして、仲間の為とは言えあまりにも好戦的なジャイアン達。

冒険や探検目的で別世界にいってそこで色々巻き込まれて結果的に騒動の中心になっていくのではなく、わざわざ自分達の意志で戦争に参加しにピリカ星に向かっていくのが本作の独特さだろう*1

それがこのご時世と事故のようにバッテングしてしまったのが悲劇だなと。*2

 

野蛮な地球人の血が騒ぐのか好戦的なジャイアン*3とは対照的に戦う事に否定的なスネ夫
「僕は兵士でもヒーローでもないし、迷惑なんだよ」

「向こうの問題であって、僕らには関係ない」

本当にそうである。

なんで小学5年生が命かけて戦うんだよ……。ドラえもんも少しは止めろよ……。
スネ夫が普通だよ……戦争なんて大人に任せて逃げていいよ……。
子供の頃に1985年版を見た時は僕も「スネ夫は弱虫だなぁ」と思ったし、それが間違いだとは思わないけど、おっさん目線だとどうしてもね。お逃げなさいって気持ちになってしまうよね。だって、小学5年生だぞ!?

 

細かな所

1985年版同様、最強の敵であるドラコルル。
ピリカ星は10歳の少年が大統領になれる星。故に敵も相手が子どもだからといって全然侮ってくれない。
宇宙小戦争はドラえもん映画の中でも屈指のドラえもんひみつ道具)が役に立たない映画なんだけど、これドラえもんが弱いというより、相手が悪い。

ドラえもんが機転を利かせて隕石に偽装してピリカ星へ降下しても、速攻で見破られるし、

潜入中に道具の効果時間に気づかず、時間切れになって敵に存在がバレるし、

スモールライトを餌に、ドラえもん達が姿を隠してくるのを見越して、センサーでその位置を把握して一網打尽にするし。原作からドラえもんのび太は終始、ドラコルルの引き立て役みたいな存在だったけど、リメイク版でもそれは健在。

流石声が跡部様なだけある。そしてその絶望があるからこそ、最後の逆転劇が面白い作品でもある。

 


本作の一番のオリジナル要素はパピの姉であるピイナの存在。

恐らくパピが大統領という肩書だけでなく、のび太たちと同じ10歳、普通の少年としての側面を描くためのキャラクターなのは分かるし、悪くはないけど、必要性も薄く、いてもいなくてもそこまで変わらないキャラクターだったなと。

 

また、宇宙小戦争といえば冒頭の「ミニチュアによる特撮シーン」

1985年版から小学生でそんな規模の特撮出来るの!?というスネ夫の家の太さをマジマジと分かるシーンでもあるが、リメイク版も出来が凄い。調べるとこの「ミニチュアによる特撮シーン」は『STAND BY ME ドラえもん』でも有名な白組とのコラボで実際にミニチュアを作っていて、それをアニメーションに上手く合成させる手法を取っていて力の入れようが凄い。

あと、しずかちゃんがずっと可愛い。しずかちゃんが巨大化する所のスタッフの力の入れようがおかしい。

 

最後に

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』ではパピは国を恐怖で支配する独裁者に

「こんな無法が許される日も長くはないぞ。私を処刑しても、やがては国民の怒りがピリカの空に燃え上がり、独裁者を焼き尽くす事になるだろう」と高らかに言うように最後は独裁者を倒すため民衆が立ち上がり、無事に大統領が戦争に勝ち、独裁者は捕まり、空に花火が上がる完全なハッピーエンド。

 

しかし、現実は恐らく違う。

ウクライナ側から見れば、『NHKスペシャル』で小泉悠先生がこう言っていた。

 

「ロシアに武力侵攻を許した時点で、バッドエンドは決まってしまった。あとはどのバッドエンドがよりマシか、支援を続けて膨大な犠牲が出してそれでも戦い続けてもらうか、降伏を呼び掛けて暴力による主権侵害を許すか、より筋が通ったバッドエンドを選ぶしかない。」

 

 

我々はエンタメに夢をみつつ、うまくいかない現実と折り合いをつけていく。そういう人生を歩んでいくことになるのかもしれない。

 

因みに来年は創生日記とか色々噂出てるけど、本当にリメイクならもっと分かりやすいヒントを出すと思うので、恐らくオリジナル作品だと僕は思う。

 



*1:敵に奪われたスモールライト奪還が一番の目的かもしれないが、待機していてもスモールライトの効果時間切れて元に戻れただろう。それにしたってドラえもんは管理不足で上から滅茶苦茶怒られるかもしれもしれないが、怒られた方がいいだろあの青狸

*2:流石にのび太達に人殺しはさせれないので、事あるごとに敵が無人機である事を強調するの仕方ないかもしれないが、うーんとなる。

*3:処刑される間際でも「ぶん殴ってやりたかったぜ」と言っちゃうジャイアン、ヤバい