社会の独房から

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藤本タツキ読み切り漫画『さよなら絵梨』感想。『ルックバック』を踏まえて

文句は沢山あったけど、中々見ない尖り方をしていて驚きの方が大きかった。

確かに幼い作品だとは思うけど、……でも200Pあったのに飽きずに読めたし

どこまで事実か創作かわからない所も僕には良い混乱だった

 

そんな漫画はなにか。

 

 

それは藤本タツキ先生読み切り漫画『さよなら絵梨』である。

shonenjumpplus.com

日曜の夜にこんな漫画読んで寝れなくなったのでネタバレありで感想を書く。

こういう気持ちになったのは同じく藤本タツキ先生読み切り漫画『ルックバック』以来だが、あの時は凄い大傑作を読んだ高揚と感動、自分の中で処理しきないモヤモヤと哀しさ、それでも前向きになる心の躍動があった訳だが

www.shachikudayo.com

 

『さよなら絵梨』は違う。

 

ラストのぶち上るようなオチで笑ってしまった余韻で寝れなくなってしまった。

 

 

物語は母親の闘病生活を撮影することになった主人公の話だが、美しい感動漫画になるのかと思いきや、そうはならない。

 

なんだかよくわからないままドンドンページを進んでいって途中途中に読んでて辛くなるシーンや感動的シーンも盛り込まれ、一体この漫画どうなるんだ……?からの

爆発ドーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!である。

 

所謂、爆破オチ。「爆発オチなんてサイテー!」って奴である。

藤本タツキ先生といえば映画好きと知られているが

realsound.jp

監督の遊び心&悪ふざけ満載の『サイコ・ゴアマン』を「2020年一番面白かった映画でした! 最高最悪のラストでした!」と絶賛するほどなので爆破オチも好きそうである。

 

あと、ラストに全て持っていかれる漫画ではあるし、作中のどこまでが映画のシーンでどこまでが現実かなどは人によって解釈が分かれる所だとは思うけど、「この作品を通して何を言おうとしているか」は凄い明瞭だと思う。

それはフィクションの力。

タツキ先生といえば初長編の『ファイアパンチ』からこのフィクションの力をずっと描いてる漫画家でもある。

 

本作ではフィクションの力と同時に前作の『ルックバック』を踏まえて描かれてると感じた。

 

主人公である少年が受け止めきれるはずもない「母の死」に対してどんな想いで爆破オチファンタジー にしたかを考えなずに頭ごなしに批難する先生や生徒たち。

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「倫理感疑うわ」「気持ち考えなよ」「なんで映画にしちゃったの」「糞映画」

そういう批判はどうしても以前の読切漫画『ルックバック』の修正騒動を思い出す。

『ルックバック』犯人描写に修正 ジャンプ+編集部「偏見や差別の助長避けたい」(1/2 ページ) - ねとらぼ

 

漫画を読んで傷ついた、差別を助長したという炎上。

藤本タツキという漫画家は以前の対談でこう言っている。

僕は読み切りを描く時は大体怒りで…。例えば、今ネット上で怒っている人が多いじゃないですか。そういう人たちって、Twitterとかで発散できていると思うんですけど、僕は自分の怒りなどをTwitterとかに書く気が知れなくて。漫画にぶつけているんですね。

www.shonenjump.com

 

『ルックバック』の次に何を書くのか。何が求められているのか。それを踏まえてこの漫画でこう答える。

「創作って受け手が抱えている問題に踏み込んで笑わせたり泣かせたりするモンでしょ?」
「作り手も傷つかないとフェアじゃないよね」

 

「創作表現が人を傷つける事について」はしばしば問題になり、議論になる。

僕個人として誰も傷つけずに表現することは無理だと思うし、現に「傷つく読者が悪い」と開き直っている表現者もいるだろう。

しかし、藤本タツキという漫画家は「作り手も傷つかないとフェアじゃないよね」という精神で漫画を描いている事がよく分かる。

 

恐らく想定以上の、あまりにも多くの人に読まれた『ルックバック』は藤本タツキ先生が思っていた以上の反応があって。罵倒があって。糞みそ言われて。それでも「傷つく読者が悪い」と開き直らない。

読者が傷ついた分、そこには反応があり、それを見て作者も傷つく。

その覚悟を感じた漫画だった。

 

その上で、それを表現する展開が、そうはならんやろ→なっとるやろがい!になってるのが漫画家としてうま過ぎる。

 

 

そして、1本目が尖り過ぎて不評だった主人公の作品だが、次回作で観客を感動させ大好評にさせる事が出来た。

しかし、本人は作品に何かが欠けていると納得がいかなかった。彼はようやくラストで自分の爆発(尖り方)を再習得出来た話だとするとコレって、『ファイヤパンチ』が尖り過ぎて不評だったが、週刊少年ジャンプに連載した『チェンソーマン』は自分色を出来るだけ抑えて大ヒットし、続く『ルックバック』は最終的に現実に着地した話だった藤本タツキ先生の事やん!となる。



タツキ先生の次回作はジャンプラで尖りに尖りまくった漫画を描くという意志表明に感じられた。

これを踏まえてチェンソーマン2期待してます!

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↑元ネタが200歳だから200Pの漫画描くってなに。