社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

実写映画『最終兵器彼女』感想。ダラダラギスギスボソボソ

役者「ボソボソ……ボソボソ…」

僕「声が全然聞こえない」音量上げ—

ドデカイ爆撃音「ドゴォアアアアアアア!!!!」

僕「ギャーーーーーーー!”!”!”!”」

最終兵器鼓膜破壊映画

2006年制作 【原作】高橋しん  【監督】須賀大観 【脚本】清水友佳子 【CAST】前田亜季窪塚俊介木村了貫地谷しほり

 

 

「漫画やアニメはネットでは不評なのになぜ次々と実写化されるのか」という疑問には「儲かるから」の答えが一番真理だと思う。作品の評価ではなく、商業的成功。

毎年の興行収入ランキングを見ても邦画の上位に実写化作品が多いのは皆さんもご存知だろう。

どれだけネットで炎上しファンの心を弄んでも、金が全てという拝金主義的発想からこれからも多くの漫画やアニメが実写化されるのは想像に容易い。

 

ファンの心情的に好きな作品にはヒットして欲しいが、人気になればなるほど実写化になる可能性が高まる。そのジレンマ。個人的には「儲かるから」という理由で実写化作品を作るのは納得できる。実写化作品で経済をグルングルンまわして映画業界を支えてくれるから今の邦画界があるといって過言ではない。

 

ただ、大量生産される実写化作品の中でまれに「なんでコレがヒットすると思った!?」という作品も実写化される。映画業界もファンも誰も得しないやつ。

 

その筆頭が今回取り上げる映画『最終兵器彼女』である。

 

決して原作の『最終兵器彼女』が人気なしといいたい訳ではない。ビッグコミックスピリッツで連載し、外伝含めた全8巻で400万本突破の大人気漫画である。

 

ただ、実写化映画にあたって問題なのはこの原作が『新世紀エヴァンゲリオン』以降の作品群の中でもセカイ系の濃度が著しく高く、説明不足の世界観の中で雰囲気を楽しむ作品なので、一般受けしなさそうな作品だからだ。

まずは原作の『最終兵器彼女』について説明したいが、

作品を知らない人でも


実を言うと地球はもうだめです。突然こんなこと言ってごめんね。

でも本当です。2、3日後にものすごく赤い朝焼けがあります。

それが終わりの合図です。程なく大きめの地震が来るので気をつけて。

それがやんだら、少しだけ間をおいて終わりがきます。

 

が有名なのでこの文章だけ知っている人も多いかもしれない。元ネタが『最終兵器彼女』である。

ちなみに実写版ではそのシーンはカットされいる。

 

最終兵器彼女』は、一度聞くと頭から離れない程のインパクトが強すぎるタイトル通り、北海道を舞台に自衛隊の切り札として「最終兵器」として改造されてしまった少女「ちせ」とその彼氏である「シュウジ」の苦悩と悲しみの恋愛物語である。

 

戦争が起きた。少年少女が巻き込まれる。これ自体はよくある展開だが、本作では「なぜ女子高生が最終兵器に改造されたのか」「戦争相手はどこなのか」「そもそもなぜ戦っているのか」といった物語の重要な背景を何も説明しない。自分で考えるしかない。

 

理不尽な環境と不条理な進行。希望のない世界観の中で、最初はシュウジと同じく読者も戸惑うしかないが、恋人の「ちせ」がドンドン人間ではないモノに変わっていく中で、それでも「愛」にできることはまだあるかい。「僕」にできることはまだあるかい*1という重たいテーマに引き込まれていく。

ちせの可愛いらしい雰囲気と、破けた制服から生える機械の羽、禍々しい武器とのギャップ。そしれ何よりも『最終兵器彼女』というタイトル。これは特に中高生に劇薬なので、雰囲気を楽しむことが出来る人には滅茶苦茶刺さる、コアなファンを生む作品だと思う。しかし同時に「なんで女子高生が兵器になってんの?意味わかんない」や「高校生が考えたような恋愛ドラマ」みたいな感想も全然わかる。人を選ぶニッチな作品ということだ。

 

実写版の『ピューと吹く!ジャガー』みたいに初めから低予算で作品を作るなら分かるが、本作では話のスケールが大きく、激しい戦争描写もあり、それなりの予算が必要な実写映画化だと思うのでどう考えても難しいと思ってしまう。

そして実際に本作は興行収入的に爆死している。計測不能の領域である。

古くて記事自体は消えているが、日経新聞東映的に10億円規模の興行収入を見込むという記事もあり、本作の爆死具合がよく分かる。

*うわのそらブログ*最終兵器彼女 実写映画関連*まとめ*&トラックバックエントリー

↑ちせ役の前田亜季。個人的には『学校の怪談2』から彼女が大好きなので、本作でも彼女は完璧。反論は認めない。

 

グダグダ興行収入の話はいいんだよ!映画の出来はどうなんだよ!と痺れを切らす人もいるかもしれないので、中身の話をするが、結論から言うと実写映画『最終兵器彼女』は面白くない。本当に面白くない。そもそもセカイ系を実写でやるの無理じゃない疑惑もある。

 

 

原作7巻分の内容を2時間に収めてるので展開は早く、決してテンポも悪くないはずなのに滅茶苦茶間延びしている感覚になる実写版『デビルマン』みたいな作品である*2

 

本作も実写版『デビルマン』も「実際に見ると意外と悪くない」と評価する人がいる。

しかし、話をよくよく聞くと1.5倍速にしてたとか、主にTwitterを見てちょくちょく映画を見てたとか、酷いケースだとニコニコ動画で面白いポイントを見ただけのような真剣に向き合ってないことが多い。

面白い映画も面白くない映画も時間は等しく流れていく‥等しいハズなのに面白くない映画を見ている時の体感時間の進まなさはエグい。「えっ!まだ20分なの!?」これこそが面白くない映画鑑賞の最大の苦痛ポイント、後悔ポイントであり、そこを何かしらで軽減すると「意外と悪くない」評価になるのも分かる。でも、一度ありのままの作品を見て欲しい。苦痛だから。

 

それでも実写化『デビルマン』はアポカリプスデブとか「皆さん 戦争が始まりました」のボブサップみたいは極限の面白ポイントがちょくちょくある。それに対して本作はやたらおっさんになったテツが「正気か?」といいたくなる棒演技と「えっ何を言っているの?」といいたくなるボソボソ喋りを終始してくる面白ポイントしかない。そもそも面白ポイントと同時にイライラポイントでもあるのが致命的。2時間の内、トータル5分ぐらいはVFXを頑張っていて画面が楽しいのだが、それ以外はダラダラギスギスボソボソの会話劇で展開していき面白くない。マジでずっとダラダラギスギスボソボソ。

 

そして実写『最終兵器彼女』は作品として面白くないのに加えて原作からも改変している。

パンフを読むと監督の須賀大観がこの作品は「原作からインスパイアされた別物」
と語っている。原作者の高橋しんも実写化するにあたって、「きちんと変えて欲しい」と語っているだけあって別物といっていい。1番の改変ポイントはラストである。原作もアニメも人類滅亡エンドだが実写は違う。

 

システムエラーによって制御不能になったちせは、地球を破壊する可能性もあった。脅威に感じた諸外国は核を放つが、ちせは他を巻き込まないように自ら宇宙へ飛び出し、そのまま核が直撃し死亡。かくして人類は生き残ることが出来た。という終わり。*3

最終兵器の割に弱くね!?

なんか核撃てば何でも解決すると思ってるハリウッド映画っぽい。

↑ただ、最終形態のちせはやたらカッコイイ。

 

他にも原作と違う所は沢山あるが、そもそもシュウジが原作とは別物。眼鏡かけて繊細な感じの彼がどう見ても高校生に見えないおっさんになっている。

窪塚洋介の弟。

 

良かった部分は 意外とVFXが良く出来ている。


札幌の空襲場面やら廃墟となった小樽、兵器としてのチセの姿。
どれも映像的に迫力や魅力があって、見応えがあっていい。

ただ、戦車が出てくるところやチセが変形するシーンが夜ばかりで画面が暗く見辛いという残念ポイントもある。VFXは大変。

 

最後に

 大人になれよや『大怪獣のあとしまつ』などSNSで面白くない映画と評価される作品が生まれた時、実写『デビルマン』を引き合いに出す人がいて、それを「令和になって比べるのがデビルマンかよ、いい加減にアップデートしろよ」という揶揄をみかける。

それは正論だが、「語り継ぎたくなる個性、突き抜けた駄作感」こそが実写『デビルマン』の強みだと思う。そのレベルにいかない駄作映画なんて世にどれだけあることか。

この実写『最終兵器彼女』も中途半端で、語りにくい作品。個人的には実写『デビルマン』より実写『最終兵器彼女』の方が面白くないと思うが、駄作実写映画といえば『デビルマン』と答えたくなる。そういうものなのかもしれない。

 

 

(C)2006「最終兵器彼女」製作委員会

 

*1:RADWINPS

*2:駆け足展開ではあるので、ちせが徐々に人間をやめていく事の心情や演出も微妙

*3:そもそも戦争自体、ちせを作ってしまったことが引き金のような描かれ方