社会の独房から

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ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』感想

僕たちは弁護士・古美門研介の帰りを待って何年が経っただろうか。

調べるともうそろそろ10年は経とうしている。

古美門研介とはドラマ『リーガル・ハイ』に登場する弁護士である。

しかし弁護士には見えない傍若無人な態度で気分屋。さらに浪費癖もあり、女好きで軽薄さの塊。しかし、いざ裁判になると敏腕弁護士で、連戦連勝記録を持っている実力派。「正義は金で買える」と公言しており、有利に進めるために汚い手も躊躇なく使っていく鬼才にして型破りな天才弁護士。世間が抱いている違和感やモヤモヤしている事件、スカッとしない正義に対してストレートな毒を吐きまくる。これが実に爽快である。

 

ドラマは最終回を迎え、スペシャル回をやってから続編の音沙汰がない。脚本家・古沢良太氏は来年大河ドラマの脚本をやるし、主演の堺雅人新垣結衣は超売れっ子で多忙。田口淳之介大麻所持で逮捕。残念ながら続編は当分無さそうである。しかし、僕は古美門研介の帰りを待っている。待っているのだ。

 

 

 

そんな中、有村架純中村倫也がW主演するTBS新金曜ドラマ『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』が7月15日からスタートした。

本作は、誰にでも起こりうる珍トラブルに正反対のようでどこか似た者同士の“石羽コンビ”が向き合っていく姿を描いた異色のリーガルエンターテインメント。4回司法試験に落ちた崖っぷち東大卒のパラリーガル・石田硝子(以下石子)を有村架純が、司法試験予備試験と司法試験に1回で合格した高卒の弁護士・羽根岡佳男(以下羽男)を中村倫也が演じる。正反対のようでどこか似た者同士の2人が、様々なトラブルに挑む中で自らのコンプレックスに向き合い成長していく。

プロデューサーに新井順子、演出に塚原あゆ子西田征史のオリジナル脚本。

 

 

僕が本作を見ていて最初に「おっ」と思ったのは冒頭である。

羽男が時間ギリギリまで登場せず、離婚調停では夫の代理人として妻の悪行をズバズバ発言する。その姿は余裕たっぷりでカリスマ的、まるでクールでイケメン版の古美門研介。令和の「型破りな天才弁護士」これが待っていたジェネリック古美門……ではなく、「型破りな天才弁護士に見えるよう自己プロデュースする普通の弁護士」だった。それが開始5分も経たずに判明するのだ。

 

 

写真のように見たモノを記憶する「フォトグラフィックメモリー」の持ち主の羽男。しかし、覚えることが出来てもアドリブに弱く、不測の事態が起きると固まってしまうという弁護士として致命的な弱点を抱えている。

第1話でも慌てて怒鳴る店長に対して臨機応変に対応できず固まったり、ペットボトルの蓋つけたまま飲もうとしたり、車の屋根を無駄にオープンさせたりする。

 

てっきり『リーガル・ハイ』の古美門と黛真知子の関係みたいに真面目で石頭の石子が天才で型破りの羽男に振り回される展開なのかな?と思っていたが、羽男と石子、お互いに足りないものを補い合って事件を解決に導いていくのだ。

何なら石子のほうが口喧嘩強くて羽男がシュンとしちゃうコンビなのである。

羽男は古美門ではなかった。

しかし、古美門のようにスカッと社会を一刀両断するのではなく、普通の人同士が足りない所を補い合い支えながら社会にいる人を助けていくこの2人はどこまでも優しく、いつまでも見ていたい気持ちになってくる。

 

 

社会で声をあげること

生きていると「そんなコトで訴えます?」と思って弁護士に頼ることができないケースが多い。しかし、石子が言う。

 

「なぜ声をあげないんですか?」と。

 

上司からのパワハラに対して救いの声をあげない。なぜなら「誰かに頼ることは間違ってる気がして…」や「情けなくて」から。それに対して石子は更に言う。

 

人間関係を円滑にする為にあるルール、それが法律なんです。そのルールに則り、声をあげる行為は情けなくもないし、少しも間違っていません。

憲法第14条ですべての国民は法のもとに平等であるということが規定されてます。法律を知っていれば守れることを避けられることも、傷を最小限にとどめることもできる。そのお手伝いをするのが我々です。ただ、声を上げていただかなければお手伝いできません。ぜひ法律を上手に活用し、幸せに暮らしていただければと存じます。

 

我々が生きている社会には法律がある。普通に生きているとあまりにも「特別」なことに感じる訴訟も決して「特別」ではない。

特に職場の人間関係は難しく、自分だけがちょっと我慢すればうまくいくことが多いから、辛く不当なことがあっても声をあげないほうがいいんだって考えがちなことに対して「声をあげていいんだ」と解放してくれる。

だからこそ一見邦画あるあるのダサく感じる「そんなコトで訴えます?」というタイトルもそこには「訴えてもいいんです」が含まれているのだろう。

これは僕たち社会人の「解放」の物語。

 

このドラマの良い所は羽男がパワハラ上司にも「あなたも声を上げればいい」と声をかけたところ。パワハラ上司もまた会社から辛いノルマを課せられているのだ。決して一方的な加害者ではない。

 

 

スカッとジャパンから共感の時代へ。

皆を引っ張る天才から、皆と同じ目線の凡人へ。

語り口は違えど、社会にいる弱者の為の物語。

その核となるテーマはリーガルハイも石子と羽男も同じ。

パワハラや親ガチャなど、「今の」僕たちを取り巻く様々な事件、話題に対して、手を伸ばしてくれる。

これが現代の、リーガルハイとはまた違ったリーガルエンターテインメント作品になりそうだ。

「なぜ声をあげないんですか?」

これはこれからも自分の中に刻んでいきたい。

 

 

最後に

ラストでは潮法律事務所でアルバイトを始めることになる赤楚。リーガルハイにおける田口淳之介になるのだろうか。本当に大麻だけには気をつけて欲しい。

 

それにしても有村架純が出るドラマの当たり率ってすごいと思う。新井順子×塚原あゆ子による作品の当たり率も凄いし、このドラマの当たりは決まりきっていたのだろう。あと意外とおいでやす小田が出るドラマも鉄板が多い気がする。

 

しかし、残念なことに金曜10時は大体映画館にいてるか、金ローを見ているのでリアルタイムで見れないのが哀しい。Tverで見れる時代になってよかった。

 

そして、リーガルハイの3期、いつまでも待ってるよ