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【ネタバレ】映画『NOPE/ノープ』感想。日本のオタクが好きな奴盛り合わせ

空飛ぶサメ映画(サメ映画ではない)

田舎町の牧場に空から異物が降り注ぎ、牧場経営する一家の父が息絶える。現場にいた長男は、謎の飛行物体を目撃していた。やがて、妹と共に動画撮影を試みた彼は、想像を絶する事態に見舞われる。

 

人種差別ネタが多いお笑いコンビ、キー&ピールのジョーダン・ピールがメガホンを取り、人種差別に対する風刺やブラックコメディ、そして一体何なんだコレは!?と言いたくなる展開でアカデミー賞脚本賞を取った『ゲット・アウト』、その後に撮った『アス』の大ヒットに続いての本作『NOPE/ノープ』である。

コメディアンしながら映画の脚本執筆を日本で例えると品川庄司の品川みたいな存在であるジョーダン・ピール。個人的には『アス』が経済格差、移民問題、政治をめぐる分断といった社会問題を描いているのは分かるが、設定に次ぐ設定の連続で煩わしい割には明かされる真実も面白くない感じで『NOPE/ノープ』も期待と不安が半々といった感じだったが、実際に見ると滅茶苦茶面白かった。

 

今までのジョーダン・ピール作品から差別などの社会問題要素が少し減り奇想天外&オタク&シャマラン要素を大盛りにした感じなので、満足度が凄い。

礼儀にうるさい上品な西洋料理店に入ったかと思ったら好物のラーメンとご飯が出てきて炭水化物×炭水化物で「これが幸せか……」の気持ちでお腹が一杯になったような感じである。

これが幸せでなくて何が幸せか。

なぜなら中盤ぐらいまでスリラー系のホラー映画になっていたのに、後半、円盤生物との覚悟を決めての最終決戦のシーンから、突如湧いてくる撮影に命賭けるカメラキチとそれを上回るカメラキチ!真剣な場面からのAKIRAオマージュ!円盤形態からまるで使徒なフルオープン形態への変形!序盤のやり取りが伏線だった兄妹の絆!!!巨大カウボーイくんと使徒の対峙は文字通りの大怪獣空中決戦!!!!!そしてハッピーエンドにカッコよく映る馬と騎手!!!!!!なにもかも最高である。面白いエンタメが全部詰まってる。

 

ただ『アス』みたいな作品だと思った人が「なんだこれ……」となるのも分かる。アメリカでも賛否両論らしい。

エヴァAKIRA好きなジョーダン・ピール監督のオタク気質がよくわかる映画なので日本の怪獣作品好きな人はきっとこれも好きになる。

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チンパンジーのゴーディ

本作の一番怖い存在は人でも円盤生物のGジャンでもなくチンパンジーである。チンパンジー

本作を観ていてこのチンパンジーのゴーディは本筋であるGジャンと関係しないのにやたらと尺を取っていることに疑問を抱くだろう。

なぜチンパンジーに注目したのか、その理由を考えてみた。

 

 

本作は冒頭で旧約聖書の「ナホム書 第3章 6節」というテロップとともに、


  ”私はあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せ物とする”
  

が引用される。

そしてもう笑われるのは勘弁と言わんばかりに人間に暴力を振るうチンパンジーのゴーディ(実際、2009年にトラビスというテレビCMとかに出てたタレントチンパンジーが自宅で飼い主の友人を襲って顔や手首を食いちぎった事件がある。被害者は顔面両目手首を失ったが生きている。ベールのおばちゃんはこの被害者がモデルだと思われる

 

彼は白人こそ襲うもののイエローモンキーであるアジア人のジューブには仲間意識をもったのも印象的だが、自分は助かったという成功意識からかジューブも今度は見世物としてGジャンを消費する側になってしまう。

このゴーディの殺戮シーンで靴が立ってたのがある意味最悪の奇跡である。

靴に自覚なしに気を取られて直接ゴーディの目を見なかった(寄ってきたゴーディとはビニールクロス越しで目が合ってない)ことで、ジュープ的には俺は特別な野生動物と心を通わせられるんだ!と謎の自信が生まれて例のGジャンショーに繋がっていった。

 

序盤でラッキー含めて馬を10頭ぐらい買ってたハズなのにパークにはラッキーしか馬はいなかった。恐らく他の馬たちはジューブが飼育のために餌としてGジャンに食わせたのだろう。

しかし、チンパンジーが暴れたように今度はGジャンが見世物として終わらず反乱する。

本作は相互理解がなかった名もなき見世物たちの逆襲なのである。

そして全てが終わった後、勇ましく佇んでいる主人公のOJは、最初の映画に登場したとされる黒人に重なっていく。最初の映画に出た時される黒人は歴史から名を消されたけど、OJは妹が写真撮影に成功したのもあってこれから妹共々歴史に名を残すのだろう。人類史上初めて未確認生命体を撃破した存在として。そういう意味でも名もなき見世物たちの逆襲なのである。

 

 

最後に

こんな映画に予算バリバリかけれるハリウッドって凄いなぁって素朴な感想になる。日本だともっと直接的で分かりやすい「愛」のテーマとか入ってきてフワッフワッしそうである(偏見

 

ジョーダン・ピール監督は作品ごとにジャンルも色も違って鑑賞前のドキドキ感が堪らないのが本当に好きって本作で改めて思ったのでこれからも趣味全開で変な映画作り続けて欲しい