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【ネタバレ】映画『オカルトの森へようこそ』感想。白石ユニバースの総決算

吐き気の向こう側へようこそ

ホラー映画監督の黒石光司は実録映画の撮影のため、助監督の市川美保を連れて山奥の家を訪れる。そこには、黒石の映画の内容と全く同じ体験をしたと訴える美女・三好麻里亜がいた。やがて黒石のカメラは奇妙な現象を次々と捉え、思わぬ恐怖が彼らを襲い、カメラはその恐ろしい出来事の数々を記録していくが……。

 

 

2022年の夏は気温が高かったが、ホラーも熱かった。

『哭悲/THE SADNESS』から始まり、配信の『呪詛』に映画では『ブラック・フォン』『X エックス』『女神の継承』『NOPE/ノープ』

中田秀夫監督作品『“それ”がいる森』の公開がこれから控えているがあれはまぁ置いておいて。

 

超常現象、都市伝説、土着文化、青春、未確認生物などホラーと一口に言っても多様な語り口があり、どの語り口が好きでも満足できる映画が立て続けに公開されたのだ。恐らく今年の夏、一番ニコニコしたのはホラー好きの人達だろう。

そんなある意味異常だった2022年の夏のホラー作品の締め括りとして公開されたのが『オカルトの森へようこそ』

本作は「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズや『オカルト』『貞子vs伽椰子』など手掛けてきて、今の日本で一番ホラー作りとビビる演技がうまいヒゲ眼鏡こと白石晃士がWOWOWと協力し監督・脚本・撮影を務めるオリジナルPOV(ポイント・オブ・ビュー=主観視点)ホラーである。

映画館でも公開されたが、アマゾンでも配信開始した。料金は劇場料金と同じく1900円。

www.amazon.co.jp

 

 

この『オカルトの森へようこそ』はまさしく『ノロイ』で『カルト』で『ある優しき殺人者の記録』で「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズで『オカルト』という白石ユニバースの総決算である。

こんなんファンからしたら面白いのは当然である。

化物描写とか相変わらず明らかに低予算のCGで安っぽいけど「カメラの前で起きているから本当」という謎の真実味がある。

よくよく考えてみると現実で起きている事もそんな作りこまれていないし、安っぽかったりする。何よりも白石作品は撮影者も出演者も目の前で起きている事に鬼気迫る表情で真剣に挑んでいるからこそ滲み出てくる真実味なのだろう。

 

また登場人物は皆「変」だけど、どこかしら会ったことあるような本物さがある。例えばカルト教団に迎え入れて貰う時の「こんなおばさんおるわ」という質感、ディディールの良さでリアルに感じられる。

 

 

そこに「傑作を撮るぞ!」という分かりやすい縦軸のおかげで迷わずにグイグイと物語に入り込める。カメラに刃物をつけたら人を殺しながら撮影できるぞ!って工作をするシーンなんて狂気なんだけど、「傑作を撮る為なら仕方ない!」となる。

 

また、白石作品といえばアクの強い登場人物たちも印象的だが、本作は白石ユニバースの総決算といえる魅力的なキャラが存在する。

例えば、NEOの再来のような圧倒的強さを持つナナシ(最初「NEO」と名乗ったと思ってテンション上がったけど、どうやら「ねーよ(名前はないの意味)」って言ったらしい。監督曰く「ねーよ」がNEOに聞こえるのは偶然らしいが、ホンマか

急に口が悪くなったり、決断力も尋常ではない市川。鎌倉殿の13人でその表情でその決断で視聴者を釘付けにした堀田真由が今度はその行動力で観客を釘付けにする。

彼らのキャラの良さ、行動、選択に感動してしまうし、エキストラBって感じで工藤がいるの笑う。脇役なのに出てきた時の存在感よ。

 

 

存在感といえば江野洋平も負けてはない。

Ⓒ2022WOWOW・KADOKAWA・ひかり TV

 

自称「スーパーボランティア」とかいう滅茶苦茶胡散臭い肩書のおっさんが本当に掛け値なしで「正義の味方」なの本作で一番好き。

最後、ほぼ一人でカルトと殲滅し、やる必然性はない上でこれから同じく死に生きかえる少女を安心させる&少女を殺す事へのケジメのため「死」を選ぶの完全に正義の味方である。あと手作り手裏剣も最高。

また、カルト教団に身を寄せる信者には過去に性暴力の被害や虐待を受けたのでは?という共通点があることを示唆されたのだけど、そうすると器として拉致された赤い服の女児も実は……という疑念も生まれる。それなのに少女も救ってめでたしめでたし、親元にかえそうとするのが本当に正しいのか?という話になる。

しかし、江野洋平ならもし本当に虐待の親でも「そんなことやと思ったわ」と撃ち殺してくれるだろうという確信に満ちた信頼感がある。彼は「正義の味方」だからな!!!そしてなによりあの世界、THE ENDになったから問題なし!!!!

 

 

そんなホラー映画というより「ドキドキワクワクハラハラ感涙笑い」全てある白石作品って感じで『オカルトの森へようこそ』は大満足なのと同時に

 

本作はデッカイ画面で観ると

 

滅茶苦茶酔う。

 

という問題がある。

 

 

気を付けよう

『女神の継承』観た時、こんなんPOVじゃねーわと憤ったけど、純度100%のPOVを大画面で観ると酔う。これが三半規管の弱いホラー映画好きのジレンマである。

思い返してみると白石作品のPOVを映画館で鑑賞したの今回が初めてだったので油断してたのもある。「何とかなるだろう」と。

結果、何とかならなかった。

僕は本当に酔い易く三半規管クソザコオスオトナなので、一人称ゲームの『バイオハザード7』を遊んだ時も気分が最悪になったら即布団にダイブして寝るという攻略法でギリギリクリアできたぐらいだ

www.shachikudayo.com

 

今回

自作範馬刃牙の家→山の中→笑ってはいけないバス→山の中→カルト施設

の合計5ステージあるのだけど、自作範馬刃牙の家をクリアしてから怪異に襲われ続けるので走り回ることになる。

Q.それでどうなる?

A.画面が滅茶苦茶揺れる。結果酔う。

 

途中で「歩こうか」と提案してくれる江野洋平は本当の正義の味方である。僕は涙した。カルト施設で「一旦引こう」と階段をダッシュで降りていく江野洋平は鬼である。僕は殺意を抱いた。

 

そんな気分最悪の状況で、帰りの電車が淀川花火大会組の浴衣姿の人達とバッテングして、吐き気の中での満員電車で僕の人生は終わってしまった。ありがとうございました。

三半規管の弱い人は映画館で見るより配信で観た方がいい。

これが僕の最後のアドバイスです……