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【ネタバレ】映画『夏へのトンネル、さよならの出口』感想

童貞の妄想ストーリーかと思いきや夢女子の匂い

監督:田口智久 制作 : CLAP

 

「ウラシマトンネルって、知ってる? そのトンネルに入ったら、欲しいものがなんでも手に入るの」
「なんでも?」
「なんでも。でもね、ウラシマトンネルはただでは帰してくれなくて――」
海に面する田舎町・香崎。
夏の日のある朝、高二の塔野カオルは、『ウラシマトンネル』という都市伝説を耳にした。
それは、中に入れば年を取る代わりに欲しいものがなんでも手に入るというお伽噺のようなトンネルだった。
カオルと、転校生の花城あんず。二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが……。これは、とある片田舎で起こる郷愁と疾走の、忘れられないひと夏の物語。

 

ガガガ文庫で出版された八目迷の同名デビュー作小説をアニメ映画化。

八目迷先生、過去のインタビューで映画化が目標と言っていたので本当に良かったねという気持ち。

映画化を目指したいですね。本作を含め、今後発表していくであろう自分の小説で、です。もちろんコミカライズやテレビアニメ化もすさまじく魅力的なんですが、それでも何より、90分や120分の長さに全力を注ぐような映像化に、憧れを感じます。いつか映画館の大スクリーンで、自作小説が原作の映画を観てみたいですね。

独占インタビュー「ラノベの素」 八目迷先生『夏へのトンネル、さよならの出口』 - ラノベニュースオンライン

 

 

原作と映画。

大きな違いとしては、原作で描写されていた川崎小春とのエピソードが丸々カットされていた点だろう。

暗い過去を持つ陰キャ主人公が美少女転校生で「寄れば斬る」スタンスの花城あんずと、クラスで一番可愛いくてボス的存在である川崎小春の2人と親交を深めるというTHE☆ラノベ展開と、孤高を貫いていた花城あんずが川崎小春と友情を深める事で徐々に明るくなっていくというのがとても良かった。


しかし、映画では同じくCLAPが手掛けた『映画大好きポンポさん』でポンポさんが言う所の「90分以上の映画は嫌い」理論に基づいた83分という尺感に見合うようにミニマムな出来になっている。

 

www.shachikudayo.com

 

塔野カオルと花城あんずの2人にしか出番がないと言っていいレベル。

83分という限られた時間の中でやらなくてはならないため、超特急で塔野カオルと花城あんずの関係も近づく。
やたら距離感が近いシーンが多いし、転んで見つめ合うシーンがあったりとかいかにもオタクが喜びそうなシーンもある。ただ、童貞オタクの妄想レベルなら雨の日は花城あんずのブラは透けるし、押し倒した時に胸も揉むし、妹も当然外に連れ出す。それがない。

 

全体的に花城あんずの視点も増えたので、「こいつめっちゃ塔野カオル好きだな……」と開始10分ぐらいで思う。一方で塔野カオルは花城あんずに好意はありつつも1番は妹の事しか考えてない。

それでも花城あんずが過去に描き、黒歴史だと思っていた漫画を読んで褒めてくれるし(足をダンダンする花城あんず可愛い)編集部にみせなよとアドバイスもしてくれる。

勇気を出して出版社に見せると本当に担当編集者がつき、マンガ家になるという自分の夢を叶え、学校を卒業後もそれなりに充実した生活を送っている。彼女は未来へと前進していく。そして学生時代に別れた彼氏を恋焦がれていると13年後に好きだった当時のままの姿で再開するのだ。そんな何年も一途に待ってくれるとか都合の良い女かよと思うと同時に自分が老けた時に初恋の相手が歳も取らないまま好意だけは持ち続けるとか都合の良い男かよとも思うのでwin-winの男女である。

 

それにしても花城あんずは殴りたいと思ったら相手を殴るし、キスしたいと思ったら思いっきりキスする、欲望のままに生きている。おもしれー女。

 

また、原作では教室で塔野カオルと花城あんずは初めて出会うが、映画では駅のホームで出会い、結果的に3回出てくる印象的な場所になっている。駅のシーンを繰り返し登場させる演出は2人の関係がぐっと近付いたという事を表すような印象的なシーンとなっていた。

特に2回目の海を眺めるカットから裏側に回ると一瞬でひまわりに満たされたカットへと切り替わるシーン。青から黄へ。初めて塔野カオルが笑う描写も相まってこの映画で一番印象的だった。こんな青春時代が欲しくて「ウラシマトンネル」に行きたいが、そもそも「ウラシマトンネル」で手に入れられるのは、失ったものだけなので最初から手にしてないものは無理という現実。死にたい。

 

ビニール傘も映画オリジナルだが、映像表現だからこそできる最後の演出もよかった。

 

 

2人の関係

塔野カオルと花城あんず。2人は「共同戦線」の関係でそれぞれにどうしても欲しいものがあるのだが、その方向性は真逆である。一人は失ったもの、一人は持っていないもの。

 

塔野カオルは父親が別の女性と再婚するのを知った時、思わず嘔吐してしまう。

父は、娘が死に母親が出て行った事も受けいれて前に進もうとしているが、塔野カオルは違う。こんな世界にとどまる事は出来ない。妹を取り戻し、過去をやり直すことだけ考えている。故にウラシマトンネルに突入するのだが、妹がウラシマトンネルの中にしか居られないことを知り、何もよりも花城あんずから来たメールだ。

本来なら来ないハズのメールなぜ届いたのか。

「ウラシマトンネル」で手に入れられるのは、失ったものだけなのである。

故に花城あんずのメールとは

 

それは花城あんずと2人で過ごすはずだった時間の象徴。

それは塔野カオルが失ったもの。

 

それに気づいた塔野カオルはもう一度失ったものを手にするために現実に戻るのだ。

 

 

 

最後に

明らかに『君の名は。』を彷彿とさせるシーンやカットがあって笑ってしまうのはご愛敬。サクッと見れて楽しめる青春SF映画になっていると思う。

30代以降には懐かしいガラゲーからラストでスマホになったのも時代の進み方が分かりやすくて良い。何よりも黒髪ロングの表現が素晴らしい。それだけも最高。

 

 

オチも良かったけど、13年間行方不明だった男性が見た目的には年齢も取らず発見されたらそりゃもう大ニュースになったハズ。

しかし、散々2人で言ってたように周りのことや世間などはどうでもよく、2人一緒ならもうなんでもOK。歳の差とかどうでもよい!ハッピーエンドで良かった。12歳差の恋愛となった『言の葉の庭』のハッピーエンド版、というかラーゼフォンである。

 

 

君の名は。』以降こういう青春SFアニメ映画増えたし、僕も好きなので大体見てるけど、若い男女の恋愛、青春という自分が現実という名のウラシマトンネルの中で失ったモノだと考えると辛くなってくる。

 

こうなったらY染色体が減っていた結果、男性は滅亡し、ハーレム世界になっていている1000年後に行きたい。