社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

『ぼっち・ざ・ろっく!』感想。限りなく近く、極めて遠い"ぼっち”に

何もない人生を送ってきた。

異性との健全な交際、友人といえる存在の少なさ、仕事に対する情熱、肉体の鍛錬など、世間一般で考える人生の有意義な使い方をことごとく外して生きてきたのだ。

 

今更そんな生き方に後悔しないけど、眠る前の布団の中で、出勤中に自転車を漕いでいる中で心がチクチクすることがある。

 

そんな僕を支えてくれるのはいつだって深夜アニメ。とくに"ぼっち”で"コミュ障"モノである。

彼女彼らの人間関係がうまくいかないコミュ障っぷりを見ると「分かるw分かるw」とコカ・コーラ ゼロがよく進む。深夜アニメなんて次の日に支障があるのが分かり切っているのについついリアタイで見てしまう。

しかし、"ぼっち”モノには致命的な欠陥がある。"ぼっち”モノの"ぼっち”のピークは物語の冒頭で終わってしまうことだ。あとは脱"ぼっち”していく様を見ていくことになる。真の"ぼっち”では物語にならないからだ。

僕は友達が少ない』は典型的にそうだったし、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』はいまや関係性を楽しむモノであり、"ぼっち”要素がない。

 

『よふかしのうた』なんて主人公が不登校で"ぼっち”かと思いきや、幼馴染の可愛い友達がいることが後から判明してくる。こんなんコンプラ違反の一歩手前である。

 

"ぼっち”要素のまま突き進むのは人間関係のいらない『鬱ごはん』みたいな人ではなく食事と向き合う作品が多い。

 

ただ、脱"ぼっち”していくので作品を楽しめないといったらそれは違う。我々にはまだ"コミュ障"がある。

主人公は人付き合いは増えていくけどコミュ力自体は全然進展しない。そのコミュ障っぷりを「あるあるある」と楽しめる。

オードリーの若林が

「MCとかやって、おばさんタレントとかのふところに入るの、毎日やってきたんすよ。そりゃ人見知り、直るわ」

と言っていたが、アニメだとその心配も最終回ぐらいまで問題ない。多少の進歩はあっても、コミュ障はコミュ障のままである。ビバ個性。

 

ストーリー自体もコミュ障故に誘われると断れずに付いて行くから展開を作りやすいのだろう。

 

そんな"ぼっち”で"コミュ障"作品の最高峰が今、深夜アニメで放送している。

『ぼっち・ざ・ろっく!』 である。

(C)はまじあき/芳文社アニプレックス

 

まんがタイムきららMAX』で連載している漫画のアニメ化。

極度の人見知りでコミュ障の後藤ひとりは動画投稿サイトで評判のギタリスト「ギターヒーロー」の名で活動しながらも、 バンド活動や文化祭ライブに憧れつつも、友達すら作れないまま中学を卒業する。そんな彼女が加入したガールズバンド「結束バンド」の模様を描く作品だ。

引きこもってYouTubeにギター演奏上げてるだけでもかなり偉いのにそんな「インターネットだけでなく現実の人間と触れ合っていくべき」という後藤ひとりの思想はそんな無理するなと思ってしまうけども、インターネットで承認欲求満たされていくとリアルでもより欲するようになるのは分かる。人は業が深い。

 

僕たちはそんな後藤ひとりのコミュ障っぷりを大いに共感し、笑って楽しんで見る作品だ。ただ、この作品も他の"ぼっち”モノと同じで"ぼっち”成分は初回がピークで、あとはバンドメンバーに認められていったり、ファンが誕生したり、他のバンドにも「彼女は凄い」と「ギターヒーロー」ではなく「後藤ひとり」が称賛されるようになっていく。

また、バンド活動で成功して社畜に生らずチヤホヤされたいという欲望の他にも、後藤ひとりが書く「根暗でどんよりした歌詞」をリア充の申し子(喜多ちゃん)が歌うというバラバラなものが合わさるバンド自体の良さを知っていくようになる。

(C)はまじあき/芳文社アニプレックス

 

あれ、何だか後藤ひとりが遠い所に行ってしまったような気がしてしまう。売れないバンドが売れてしまって、古参ファンが嬉しさと同時に寂しい気持ちになるのと似ている。僕は別に後藤ひとりの昔からのファンでもない、アニメからの新参者なのに……。

 

そもそも僕なんかが後藤ひとりに共感するのがおこがましいのかもしれない。

彼女は勉強も運動も出来ないそんな負の感情を全てギターにぶつけ、毎日6時間ギターを弾き続けた女だ。僕はどうだ。仕事も私生活もうまくいかず、毎日6時間Twitterをぼー---とスクロールしているだけの男だ。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!

 

後藤ひとり、コミュ障のくせして本気だせるのは仲間のためにが多い女。

僕はどうだ。他人の為に行動したことなんて一度もない。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!

 

後藤ひとり、猫背で目のクマは凄いけど、顔はよく胸は大きい女。

僕はどうだ。不細工。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!

 

後藤ひとり、ボトルネック奏法、背ギター、歯ギターとかの特殊技能も身につけてる。

僕はどうだ。AT限定の運転免許証ぐらいしかない。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!

 

後藤ひとり、SNSをやると承認欲求モンスターになるからSNSをやらない自制心が一応ある。

僕はどうだ。承認欲求モンスターだ。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!

 

書いてて非常に虚しくなってきたのでそろそろ終わろうと思う。自傷行為をしてしまった。色々書いたが、これからも僕は現実逃避をしながら後藤ひとりのコミュ障に大いに共感し、笑って楽しんで見るのだろう。

最後に結束バンドで後藤ひとりが書いた歌詞『ギターと孤独と蒼い惑星』を見よう。

眩しい 眩しい そんなに光るなよ
わたしのダサい影が より色濃くなってしまうだろ
なんでこんな熱くなっちゃってんだ 止まんない
馬鹿なわたしは歌うだけ
うるさいんだって 心臓

 

コミュ障だけでは終わらない、後藤ひとりの熱い感情が表現されていて最高の歌詞である。そこが僕にはなかった。

 

それにしても僕も毎日6時間Twitterをぼー---とスクロールして3年ぐらい経つし、Twitterヒーローとしてキャーキャー言われませんかね?いや、Twitterヒーローなんて罵詈雑言と一緒だな……。