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【ネタバレ】映画『MEN 同じ顔の男たち』感想と解説。同じ顔の男たちが同じ顔に見えない問題

終盤で「マジ何見させられてんねんコレ」2022年大賞受賞

エクス・マキナ』『アナイアレイション』などの作品で知られるアレックス・ガーランド監督による最新作。

主人公は、夫の飛び降りを目撃してしまった女性ハーパー。

傷心旅行のために自然あふれる美しいイギリスの田舎を訪れたハーパーだったが

そこで待っていたのは豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー(ロリー・キニア)。ハーパーが街へ出かけると少年、牧師、そして警察官など出会う男たちが、管理人のジェフリーと全く同じ顔であることに気づく。街に住む同じ顔の男たち、廃トンネルからついてくる謎の影、木から大量に落ちるりんご、そしてフラッシュバックする夫の死。不穏な出来事が連鎖し、“得体の知れない恐怖”が徐々に正体を現し始めるー。(公式HPより)

 

公式HPのあらすじだとハーパーが田舎町の男が全員同じ顔だと気づくって書いてあるけど、気づいてなくない!?

(C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『007慰めの報酬』からビル・タナー役で出演したロリー・キニアが同じ顔の男たちを演じる。

 

いや、言葉や態度に出してないだけで気づいていたのかもしれないけど、正直観ていて僕は気づかなかった。「同じ顔の男たちってタイトルなのに全然同じ顔の男出てこないな~これはきっと終盤に皆の顔が同じに変わって驚かせるヤツだな!」と思っている内に映画が終わってしまって、椅子から転げ落ちそうになってしまった。 

本当だったら「あれ、もしかしてこの男とあの男同じ顔じゃね、あ!こいつも!なんか知らんが怖いことなってるな〜」となっていたテンションが「有害な男性の博物館や〜」の彦摩呂になってしまっていた。

「他人の顔に対する解像度が低すぎるだけだろ!」と指摘されたらそこまでだが、ロリー・キニアの演技によるディテールが上手すぎて全員別人に見えてしまった。

僕はてっきり漫画『ダンダダン』で客と他の店員が全員夢男になった展開みたいになるとばかり……。子供は違和感あったけど、老けているな~ぐらいだった。

『ダンダダン』83話より

 

この映画で大事なのって男が全員同じ顔というより、男の中身の話だと思う。そもそも原題だと『MEN 』だけだしな。顔が同じなのは男なんてみな同じという意味かもしれないし、傷心した彼女だけにはそう見えるだけかもしれない。観客がどう受け止めても良いように作っている。また、宗教的メタファーは大いにあるが、それを抜きにしてもシュルレアリスティックな不条理劇としても楽しめる。

全編に渡って男性のキモさがクローズアップされており、自分は暴力までふるうのに、口論で傷つけられれば「なぜ」と被害者ヅラ、相談しても太股に手を乗せて「夫に謝る機会を与えましか」と説教してくるし、最終的には「愛が欲しい」と嘆く男たちは男が観ていても「うぉぉぉ登場してくる男がリアルに全員キモイ!!」となる。ハーパーはそんな男たちと向き合うことになる。

そしてそんな男たちと向き合うことは、すなわちキモイ男の集合体のようにキモイ男である死んだ夫と向き合うことを意味する。

はや夫というより、ハーパーに無償の愛を求める姿はまるで子供。図体だけはデカいから応じてくれなかったら暴力も振るってしまう。

「僕は命を絶つ。君が一生、罪への意識を背負うように」と言って自殺したヤンデレ豆腐メンタルDV夫へのハーパーの罪悪感との折り合いをつける映画でもあり、最後にハーパーが「私から何が欲しいの?」の問いに「愛」という死んだ夫。ハーパーはそれに対して「そうね」と答えてほほ笑む。

どんな化物でも求めているモノは単純でありきたり。そんな当たり前を再確認する、相互理解の話だったのかなと最初は思ったけど、ハーパーはあんなに動揺していたのに、おじさんリレー出産辺りから落ち着き、呆れの表情さえ感じるのは、Twitterで#わしらには救えぬものじゃの大喜利見ている時のような感覚になったんじゃないかな。自分より下をまじまじ見るような感覚。

またはおじさんリレー出産は男性間で継承・再生産される家父長制や女性蔑視のメタファーで最初は怖がってたけど次から次へと同じことを繰り返されて阿呆らしくなったのかなと。それで決別できたと僕は思った。

それはそれとして、せっかく斧が登場したんだから、最後はヤンデレ豆腐メンタルDV夫の脳天をよぉ~~~~ザックぅぅぅからのプッシャーを期待するだろぉぉぉぉおょおぉぉぉぉぉ何のための斧だよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!

 

 

最後に

序盤の森や廃墟を探索するシーン大好き。落ち込んだ時とか、ああいう散歩って良いよね。人がいないと思ってはしゃいでいると人がいて「うわぁぁぁぁ」ってなるのも分かる。あと相変わらずカメラワークが抜群に良かったのでホラーじゃなくてもハーパーの冒険映画作ってくれても良いよ。あと、トンネルシーンの画も完璧だし、テンション上がって「ハ↑ハ↓ハ↑ハ↓」と言ってたら、出口の方にうっすらと人影が見えて追いかけてきたり、写真撮ろうとしたら全裸マンがいたり、家の紹介しているところにちょこちょこ中年ハゲ全裸マンが映り込む辺りまでは完璧だったと思う。僕が中年ハゲ全裸マン好きなだけかもしれないが。

 

あと、監督のインタビューで『進撃の巨人』の人体描写に感動して影響を受けたと答えているけど、それがあの出産シーンだと思うと笑える。

 

MENはA24配給あるあるのメタファーという仕掛けに興じるあまりに映画を見失ってしまうという難解映画がハマりがちな罠に引っかかっているようにも思えるし、こういう映画を観て「あーなるほど全部理解した」顔している文化人も好きじゃないんだけど、おじさん出産マトリョーシカの「マジ何見させられてんねんコレ」の感覚は意外と嫌いじゃないのでこれからもA24はマジ何見させられてんねんコレ映画を一杯作ってくれ