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TV番組『このテープもってないですか?』が問題作過ぎてヤバかった話

今回紹介するのは年末にBSテレ東で3夜連続で放送された『このテープもってないですか?』

概要は公式文を読んで貰うと分かりやすい。

 

今や保存されていない貴重な番組録画テープを視聴者から募集・発掘する当番組!当時の貴重映像をそっくりそのままお届け!サブカルチャーに造詣が深い いとうせいこう、そして、いまドラマにバラエティに引っ張りだこの井桁弘恵(平成9年生まれ)を迎えます!当時を知る方も、全く知らないZ世代の方も、ぜひご覧ください

 

僕は平成生まれなので知っている番組はないが、昭和生まれの人なら知っているかもしれない『武田鉄矢の泣いて笑って武者修行』(1987年)、『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』(1985年)、『アレヤコレヤ博物館』(1981年)、『ジョギングクイズ』(1980年)、『素人勝ちぬき大相撲』(1975年)、『スタンダップニッポン』(1974年)の映像を視聴者から募集しており、今回は『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』を特集している。

古い番組なのでWikipediaにはないが、ニコニコ大百科には『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』の項目があった。

坂谷一郎のミッドナイトパラダイスとは (サカタニイチロウノミッドナイトパラダイスとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 

一見、予算がなくなった現在のテレビ企画でよくある黄金時代のテレビ番組を振り返るという志が低い番組のように思える。

しかし、この番組のプロデューサーが昨年『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を企画した大森時生さんという事なら話が変わってくるのだ。

 

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は多忙を極める奥様のお悩みを解決!という特番が多い年末にわざわざやるような企画じゃないだろ!と言いたくなる番組だが、実は『放送禁止』系統のモキュメンタリーなのである。

この番組は驚く程つまらないドキュメンタリー風バラエティの体裁で進行するが、突然に不穏な映像や発言が飛び出してくる。映像を見ているAマッソのコメントは終始凡庸で、番組内でその不自然さを指摘する場面はないが、視聴者だけは少しずつその不自然さ、不穏さを摂取していく。不自然に感じていた点が徐々に視聴者の中で線になっていく。これを一度体験するともう止まらない。その線が伸びれば伸びるほど、不愉快なのにどこか爽快感を感じてしまう。

番組が終わる頃には取材として訪れた家族の裏に、恐ろしい事実が見えてくる。そして、この確信を裏づける答え合わせが本編とは別でTVerに「ニュース番組」として配信される形式なのだ。

結果として、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は何も知らずに見ていた青ケ島の人口数ぐらいのBSテレ東視聴者を震え上がらせたのである。(2023年1月1日追記、『あたらしいテレビ』でプロデューサーの大森氏とAマッソの対談があったが、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』の視聴率0.0%だったらしい)

tver.jp

 

『放送禁止』シリーズを知らない人は斬新、知っている人でも久しぶりの『放送禁止』系統のモキュメンタリーが楽しく、リアルタイムで見ていた人が少ないだろうが、TVerのお陰で瞬く間に話題になった。

恐らくその第二弾として企画されたのが本作『このテープもってないですか?』なのだろう。


しかし、この『このテープもってないですか?』は『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』みたいなのを期待してたのを斜め上に行く大問題作なのである。

 

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』が1つの家族ごとに話が完結していたが、『このテープもってないですか?』は単話ではなく3話連続モノ。

いとうせいこうと井桁弘恵さんとアナウンサーが貴重映像として特集した昭和のテレビ番組『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』を3夜連続で見ていく。そして僕たちは彼らが壊れていく様を見ていくことになる。

 

『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』という番組は膝丈のスカートを履いた女性たちを無駄に背景に座らせたり、ゲスな質問したり、番組中にタバコを吸ったりいかにも昭和の香りがする番組で、司会者の坂谷さんやゲストが視聴者からの質問に答えたり、投稿された映像を見たりする内容だ。

 

1夜の時はビデオテープなので途中で雑音が入ったり視聴者からの寄せられた映像に「ん?」と不穏に思う事はあったものの番組自体は滞りなく進行していくが、2夜になると「え?なになに!?こわっ!!」となり、そして最終回の3夜になるとブレーキが壊れたように冒頭からノンストップでハチャメチャになって怖いの通り越して途中から笑えてくる。久しぶりにテレビを見ていて狂気を感じてしまった。狂気しかないよ~~~~~~

 

前の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は綺麗過ぎた所が個人的にはホラーとして物足りない所ではあったが、本作は完全に壊れている。ぶっ壊れ。

同時に答えが分かりやすい『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』と比べて本作は非常に分かり辛い。そもそも答えはあるのか!?と思ってしまう。『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』が放送禁止シリーズの系統なら本作は純粋なホラー寄りである。そこが「思ってたのと違う」と思う人もいるかもしれない。

本作では構成に怪談作家で『瘤談』で有名な梨氏がいるのがポイントだろう。

脳が本能的に恐怖と不安を訴える怪談を描きながら視聴者を巻き込んでオチをぶん投げる事に定評がある梨節全開の本作なのである。

爽快感など微塵もなく、モヤモヤした恐怖だけがいつまでの胸の中にある。

それを抱きながら年末年始を迎えるのだ僕たちは。しかし、同時に考察出来る箇所は無数にあるので、このモヤモヤが「なるほど!!!」となる瞬間を期待している。だからこそ1人でも多くの人にこの番組を見てもらい、考察して欲しい。

 

あなたも、この番組を見て呪われてしまえ

 

最後に

多分この番組を一番楽しめたのって前情報なしで見た井桁弘恵さんのファンだろう。同時に可哀想なのが前情報なしに見た井桁弘恵さんのファンでもある。いとうせいこうファンはまぁいいだろう……。

 

 

こういう企画大好きなので年末の恒例になって欲しいと願いながら紹介してみました。

来年も何卒よろしくお願い申し上げます