社会の独房から

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映画『オオカミの家』を観に行く前に知っていた方がいいかもしれない予備知識

「3匹の子豚」がモチーフかと思ったら全然違うやつ

 

 

チリのストップモーション・アニメーション映画『オオカミの家』が公開された。監督は、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャ。同じくレオン&コシーニャが手掛け、『ヘレディタリー/継承』で有名なアリ・アスターが製作総指揮を務めた短編『骨』も同時上映されている。

 

こういう映画大好き人間として公開日に観に行った。

全編カメラが止まることなく最後までワンシーンワンカットで空間が"変容”し続ける狂気のストップモーション・アニメーションの圧倒的な映像美で吸い込まれそうになるが同時に作品のバックグラウンドを知らないと「何を観せられているんだ…?」から「何を観せられていたんだ…?」で終わる作品だと思う。上映館が少ないといえ満席になっていたり話題になっている本作。話題になっているからぁで本作を鑑賞すると分からないものを分からないまま「う~ん、なるほどなるほど」とアート系を楽しめる人なら良いけどそうじゃないと眠気に襲われるかもしれない。

という訳でここから眠気対策用に解説書いていくよ

 

舞台

美しい山に囲まれたチリ南部で、「助けあって幸せに」をモットーに掲げて暮らすドイツ人集落。動物が大好きな少女マリアは、ブタを逃してしまったために厳しい罰を受け、耐えきれず集落から脱走する。森の中の一軒家に逃げ込んだ彼女は、そこで出会った2匹の子ブタにペドロとアナと名づけて世話をするが、やがて森の奥からマリアを探すオオカミの声が聞こえてくる。マリアがおびえていると子ブタは恐ろしい姿に変わり、家は悪夢のような世界と化す。

 

本作を語る上でチリで実在した「コロニア・ディグニダ」の事件を題材にしているということが最重要である。

コロニア・ディグニダの意味は「尊厳のコロニー」

1960年代初頭、ドイツからチリに渡ったナチス残党によって設立されたコミュニティでカルト教団。表向きは労働・秩序・清廉さといった規範をもとにした、美しい共同体に見えた。しかし、その裏では独裁者パウル・シェーファーによる支配のもと、強制労働、洗脳、密輸、拷問、殺人、性的虐待、児童虐待などが行われていた。最後はコロニアを脱走した子供達の証言によって暴かれることになる。

 

『オオカミの家』では主人公のマリアが「コロニア・ディグニダ」から脱走して隠れ家になりそうな家を探しているという設定を知っているだけで飲み込みやすくなると思う。オオカミとはパウル・シェーファーなのだろう。

そして抑圧の世界しか知らないマリアもまたペドロとアナに対して今度は加害者にまわってしまう。支配されている者が支配する立場になった時、同じ事を繰り返してしまう。抑圧の多重性。相互監視。誰もがオオカミになる。そもそも本作はフェイク・プロパガンダ映画という体裁で製作された映画であるとも知っていた方がいいかもしれない。

こういう大筋の物語だと知っていれば、あとは悪夢的な映像美にハマるだけだ。正直な話、ストーリーはチンプンカンプンでも映像は空間全体を使った表現技法による芸術であり高熱出した時に見る夢のレベル100みたいな奴であり、それだけでも最高!!!!!となる。

 

 

最後に

短編の『骨』に関しては何も分からん!!!