社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』感想。テロリストには土下座が有効

アマプラで配信している『ジェームズ・ボンドとして』を見て、従来のボンドイメージから大きく異なる「初の金髪ジェームズ・ボンド」だったダニエル・クレイグが当初、マスコミやネットに「不快で醜い顔」「イギリス国民の71%が反対」など滅茶苦茶叩かれて、それでも現実を受け入れようとクレイグはそのバッシングを全て読んだ結果、「クソくらえ」の結論になったエピソードが大好きで、何事にもその精神で生きていきたい。

そんなクレイグ版ボンドの5作目にして完結作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』感想をネタバレありで書いていく。

【Amazon.co.jp限定】007/ノー・タイム・トゥ・ダイ (SHM-CD)(特典:メガジャケ付)

現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドのもとに、CIA出身の旧友フェリックス・ライターが助けを求めにやってきたことから、平穏な日常は終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務に就いたボンドは、その過酷なミッションの中で、世界に脅威をもたらす最新技術を有した黒幕を追うことになるが……

 

クレイグ版ボンドの終わり

それまでの『007』シリーズでは、ボンドは最初から最後まで既に完璧なスパイだったが、クレイグ版ボンドでは違う。

カジノ・ロワイヤル』で未熟なスパイが真に007になる話を描き、『慰めの報酬』では己の中の復讐心を超えスパイとしてより磨きをかける。このように初めの2作では、未熟なルーキーだったボンドが成長していく新しい007を描いた。

 

しかし、続編の『スカイフォール』では時空が歪み、若手ルーキーだったハズのクレイグ版ボンドが一気に時代遅れのスパイ扱いである。ここから少しクレイグ版ボンドのテーマが変わると思う。

 

スカイフォール』で母のような存在だったMの死亡から母離れを経験し、『スペクター』でMI6の愉快な仲間達とマドレーヌという愛する女性を見つけ、公私共々家族を構築する。
そして『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では子供という自分の生きた証、受け継がれる意志を残す(これはヘラクレスという毒をまき散らすことで自分の死後も生きた証拠を残そうとしたサフィンとは対照的だと思う

そういう意味で『スカイフォール』『スペクター』『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はホームドラマ3部作とも言えるかもしれない。

 

ボンドはスパイとしての職業病があるので人を信用することが出来ない。あんなに熱々だったボンドとマドレーヌだが、ブロフェルドによる策略でボンドはマドレーヌを信じられないようになってしまう。

他人を信用しないことは「スパイ」としては重要だが、「人」として本当にダメで、家族を持つことに致命的に向いていない。

それはマドレーヌも知っていて、真実を知っていてもボンドをどうにかこうにか説得しようとせず、子供を自分1人で育てようとしたのは、ボンドの人間性を知っているからだと思う。

それ故に最後、家族を守るために行動するボンドは例え「家族に向いていない人」でも家族の為に出来る事があると見せつけてくれる。

 

あんなに巨大組織だったスペクターがあっさり潰れたのはボンドの死後、マドレーヌと娘マチルドちゃんが安心して過ごす世界にするために必要だったかなと。

 

サフィン

f:id:Shachiku:20211002025233j:plain

最凶の悪というにはあまりにもキャラが薄いと思う。

悪役としてのピークは冒頭の能面付けてのホラー演出だったとは思わなかった。

その直後に幼少期のマドレーヌに普通に撃ち負けたのも「ええ~」ってなるし、予告からドクター・ノオのリメイクを匂わせておいてそんなことはまるでなかったし、そもそもキャラとしての掘り下げが全然出来てないのは2時間43分も上映時間あって何してるの!?って顔になる。

 

家族を殺したスペクターを恨んでて彼らを全滅させたのは作中で説明があった通り。

そして幼少期のマドレーヌが死と生の狭間で揺れる表情を見て、性癖が壊れたことと、

自分が生きた証に全人類を巻き込もうと計画を練る。

ここまでは分かる。

しかし、秘密基地での行動をもう少し練って欲しかった。

ボッシュート決めた後に、マドレーヌの娘を解放して秘密基地の島から脱出したのかと思いきや、普通に戻ってボンドの邪魔をする。

マドレーヌの娘を解放したのは幼少期のマドレーヌを殺さなかったのと同じで、救われたかった子供時代のマフィン自身と重ねてしまう事があるからだろう。子供を自分の手で直接殺す事が出来ないのかもしれない。

そして秘密基地の島から脱出しなかったのは、この秘密基地が彼にとって全てだからだろう。亡くなった家族の生きた証でもある庭園の毒草含めて今まで作り上げた毒もろとも秘密基地が爆破されたら彼の今までの人生が終わるからだからだろうけど、全体的に演出がぶつ切りで観ていて違和感しかない。

 

演じたラミ・マレックが役を引き受けた理由に

イデオロギーや宗教を反映したテロ行為は一切理解できない。それは僕が受け入れることではないから、それが僕を選ぶ理由だったら他を当たってくれと」と言い、フクナガ監督が求めていたのはアラビア語を話すテロリストではなかったそうで、「でも彼はそんなビジョンを明らかに描いていなかった。だから僕が演じるのは全く異なる種のテロリストになるよ」と続けた。

確かにアラブのテロリストではなかったけど、よく分からない日本文化好きのテロリストになってしまった。

 

ただ、畳の上でボンドを土下座させたのは面白かったのでアリ。

せっかく畳ボッシュート用に畳用意したなら、ジャパニーズ土下座もやっちゃおう!と判断したキャリー・フクナガ監督は流石父親が日系アメリカ人三世だけある。畳といえば土下座。『失楽園』にもそう書いている。

 

それにしても特定の遺伝子配列に反応して特定の人物だけを狙って殺害できる兵器はFOXDIEを連想させるし、感染してボロボロになりながらも行動するボンドの姿はMGS4のスネークみたいだったし、全体的にメタルギアみたいな007だった。メタルギアは007に影響を受けた作品だが、今度は007に逆輸入という。

この映画を一番観て欲しいのは間違いなく小島監督だよ。

 

細かな所

  • 自国の為とは言え、あまりにも危険な兵器造らせておいて、まんまとそれをテロ組織に奪われ、その捜索過程で米国の一流エージェントを失い、敵アジト襲撃の中で日露米と英国の間に一触即発の状況に追い込み、遂には自国最強のエージェントを失っておいて、Mは責任とって辞任するかと思いきや、続投なのか。コイツ絶対にまたやらかすぞ。
  • カーチェイス中に娘のマチルドちゃんが「蚊に刺された」と言ったり、2つに増えたみたいなこと言ってるからって何か感染したのかと思いきや何もないとは思わなかった。脚本が二転三転したなごりを感じる。
  • 最後にマチルドちゃんが家に帰ったら、何故かあのぬいぐるみが!みたいなオチも期待したけど、そんな『ダークナイト ライジング』的終わりはないか。
  •  アナ・デ・アルマスが最高にセクシーで可愛くて天然でカッコ良かったけど、想像以上に出番少なかったね。スピンオフ作って欲しい。
  • 次のボンドはノーミで良くないか?「007なんてただの番号だ」を繰り返した来た本作だけど、それ故に007のコードネームがどれだけ重要かがまじまじと分かる。
  • 「かつてジェームズ・ボンドという男がいた」というところで終わったの良いよね

 

最後に

「ここにいる多くのクルーが、僕と一緒に5本の作品を製作してくれました。僕がこれらの作品をどう考えているかといったことについて、いろいろと言われているのは知っています。でも、今までの作品の1秒1秒を大切に思っているし、特に今回の作品は、毎朝起きて皆と仕事ができる機会に恵まれたので大好きなんです。これは僕の人生で最高の名誉です」

これは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影現場で、ジェームズ・ボンド役に別れを告げるダニエル・クレイグのスピーチだが、いいよね。ダニエル・クレイグはこれまでジェームズ・ボンドという役に対して様々な感情を持っているような発言はあるが、共に作り上げてきたスタッフ達に対する感謝の気持ちは本物なんだなって。

 

ダニエル・クレイグ、お疲れ様でした。