映画『ONE PIECE FILM RED』が大ヒットしている。
シリーズ最高の興収68.7億円を記録した『ONE PIECE FILM Z』を超え、ワンピース映画の記録を塗り替えることは間違いなく、恐らく興行収入100億円突破という東映の単独配給において歴史上初の事をやり遂げようとしている。
連載開始して25年を超え、最終章に突入するワンピースが今、全盛期を迎えようとしているのだ。
そんなワンピースの作者である尾田栄一郎先生は、少年時代から落語と漫才が好きで、映画ファンであることはよく知られている。特に任侠映画や時代劇、西部劇という今では昔ほど製作されなくなったジャンルの作品をこよなく愛していることが、ワンピースという作品の大事な鍵となっている。
特に時代劇に関しては
今の風潮だと、なるべくリアルに演じようとか、ドキュメントの様な芝居が称賛されがちだですが、僕は芝居は芝居で、決めるところは「どや顔」で、みたいな作品が好きなんですよ。だから、僕の漫画で出てくる「どん!!」という効果音も、もしかしら時代劇のそれに近いかもしれない。「みんなココに注目してくれ!!」という意思表示ですね。
ONE PIECE magazine Vol.2 (ジャンプコミックスDIGITAL)
今回はそんな尾田栄一郎先生に影響を与えてきたり、オススメしている作品をまとめたので紹介していく。
コミッカーズ(1998年10月号)より
『ヤングガン』 クリストファー・ケイン 1988年公開
実在するビリー・ザ・キッドを題材にした映画でリンカーン郡戦争の事件を中心とした物語(かなり脚色されてるが)
牧場主の英国紳士のもとで働くウイリアム・H・ボニーら6人。牧場主が殺されたことから、彼等は復讐のために悪の道へ足を踏み入れていくストーリー。
尾田栄一郎先生曰く「もうあれがトップ1ですね、僕の中の。かっこ良すぎ。初めて観たの高校ぐらいだったと思うんですけれど、だからすぐ『WANTED!』を描いたんです。*1」と語っている。
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『パルプフィクション』 クエンティン・タランティーノ 1994年公開
1930~40年代のアメリカで流行した大衆向け雑誌の犯罪小説(=パルプ・フィクション)をモチーフに、3つのエピソードが交錯する当時では斬新なスタイルで描いたクライムドラマ。尾田栄一郎先生も本作を大好きと。
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『レザボアドッグス』 クエンティン・タランティーノ 1992年公開
宝石店襲撃のために集まった黒スーツの男6人。それぞれを色名で呼びあう彼らは、互いの正体を知らなかった。やがて計画が実行に移されるが、その中に裏切り者がいるのではと疑心暗鬼になっていく……。
尾田栄一郎先生はタランティーノ作品が大好き。その理由は見せ場がカッコイイから。
「あの人(タランティーノ)も色々なところから影響を受けた人じゃないですか。だから色々なかっこよさが凝縮されて面白いですよね」と言っている。
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「なんどめだナウシカ」と言われてから20年は経っているので日本人で知らない人はいないだろうジブリ作品。
尾田栄一郎先生は『風の谷のナウシカ』を観た時に、人を感動させるのはかっこいいなって思ったと答えている。
オレも泣かしてやる!って思って。
だから人を殺さずに感動させたいってのがテーマにありますよね。
殺しちゃうのは安易な感じがしますからね。
でも、ストーリー的にそう流れるなら、それはしょうがないんですけれど。
とりあえず殺さずに、でも感動できるんじゃないかと思うんで。
『小さなバイキング ビッケ』 ルーネル・ヨンソン
スウェーデン出身の作家にしてジャーナリストであるルーネル・ヨンソン原作による児童文学シリーズ。
僕が子供の頃、楽しんで観てたTVアニメで「小さなバイキング ビッケ」というのがありまして、どんな話かというと、力はないけど知恵の働く少年ビッケと、力はあるけどバカばっかりのバイキングの一団の冒険の話なんですけど、彼らの冒険がまた楽しそーで楽しそーでいい雰囲気なんですよ。(中略)たぶんこれが僕の海賊好きの原点なのです。
(コミックス『ONE PIECE』2巻)
尾田栄一郎先生はインタビューなどでたびたび『小さなバイキング ビッケ』の名前を口にしている。また、今でもたまに叩かれる「ルフィたちは海賊なのに略奪などしない。海賊らしくない」といった批判などに対しても尾田栄一郎先生の想いはコミッカーズで書いている。
(海賊が作品のモチーフであることを尋ねられて)僕は昔から(海賊が)好きなんですよね、ビッケに始まり。海賊って多分みんな好きだと思うんですよ。一見ワルな感じと、夢もってそうな感じ。本当は悪いやつなんですけど、それを無視して、結構想像上で出来上がってる勇者たちじゃないですか。僕もその辺好きだし、そういうの利用したらいいなって。だから、詳しい史実とかは無視してやってます。
2020年に原作と異なるオリジナルストーリーでアニメ映画化している。アマプラで見放題対象。
鈴木敏夫と対談した「ジブリ汗まみれ」より
時代劇映画の巨匠・マキノ雅弘が監督したのが全9作からなる伝説的シリーズ東宝版『次郎長三国志』
「オレは海道一の大親分になる!」(意訳)という義理に弱いが喧嘩には強い“東海道の暴れん坊”こと次郎長の元に、男っぷりに惚れた男たちが次々に集まり、子分の杯を交わして次郎長一家となってゆく物語。
完全にワンピースの元になっている作品だが、DVDが未発売で、かつて発売されていたVHSも廃盤となっていた。しかし、尾田栄一郎先生が「ジブリ汗 まみれ」に主演し、そこに居合わせた東宝の高井社長 (当時)に鈴木敏夫と共にDVD化を直談判したことでDVD販売が決定したのである。そのぐらいのファン。
ちなみに鈴木敏夫はワンピースを読んだ最初の感想で
「なんだこれ、ヤクザ映画だな」と思ったんですよ(笑)。 分かったの、あれ。『ワンピース』って凄い日本的。任侠モノだよね、はっきり言うと (笑)
と答えている。
早世の天才映画監督・山中貞雄の現存する3本のうちの1本。それまでチャンバラものとして人気のあった丹下左膳を主人公に、擬似家族が織り成すホームドラマ風人情喜劇が展開していく。
山中氏のユーモアと単純明快な活劇は尾田栄一郎先生他、様々な作家にも受け継がれていった。
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説明不要、黒澤明監督の代表作。ただモノクロ映画で長いので意外と観てない人も多いのかもしれない。あと、字幕がないと聞き取り辛い。
尾田栄一郎先生はONE PIECEの物語の構造は『七人の侍』の影響を受けていると明言している。
たしかに仲間を集めて旅の途中で困ってる人を助けるという流れなんかまさにワンピースである。
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五つの時に別れた母を、探し歩いて二十年。母恋い長脇差を血に濡らし、やっと巡り会ったその時は…。長谷川伸、涙の名作を錦之助の名演と加藤泰の詩情が光る股旅慕情編。
尾田栄一郎は中村錦之助が大好きで『瞼の母』に感動し、「あの演技力!あれは演技力がないと全然成立しない映画ですよ」と絶賛していた。
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『沓掛時次郎 遊侠一匹』 加藤泰 1966年公開
旅をしていた沓掛時次郎と身延の朝吉は、佐原の勘蔵一家に厄介になった際、牛堀の権六一家との出入りに巻き込まれてしまう。
尾田栄一郎先生は次郎長三国志や中村錦之助作品はかなり見てるにもかかわらず、加藤泰、山中貞雄を知らないと答えるほど、監督の名前などに興味がないようだ。
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1962年に勝新太郎主演で大映によって映画化されて以来、26作品というシリーズが公開されている。
尾田先生はほとんどの座頭市を見ていると言うが、座頭市第一作目の『座頭市物語』は見ていないようで、鈴木さんが話し始める座頭市と平手造酒の一騎討ちに大喜び、拍手喝采した。
ちなみに尾田栄一郎先生は座頭市が好きすぎて作中にも登場させている。
2作あるが、1943年版が好きらしい。
「無法松」という愛称を持つ人力車夫の富島松五郎は少年をある日助け、少年の父に気に入られるようになる。しかしその父は病をこじらせ、妻と少年を残してこの世を去った。残された2人は松五郎を頼りにし、松五郎も2人の面倒を見るようになる物語。
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「ONE PIECEぴあ (ぴあMOOK) ムック – 2009/12/4」より
見るたびに傑作だと確信するジブリ映画。
尾田栄一郎先生はルフィの声優にパズーの人がいいと言っていたらしい。「僕は読切の頃から、ルフィの声は真弓さんだと思って描いてました」と。
「COLOR WALK 5」松本大洋 対談より
尾田栄一郎先生は
ぼく、初めて読んだ松本さんの作品が『鉄コン筋クリート』だったんですが、アレは空想バリバリの作品ですよね。主人公の子供たちが鉄パイプを持って暴れまわるのが大好きで。最近自分の作品でも使っちゃいました。彼ら(エース、サボ、ルフィ)が、鉄パイプを手に戦っているのは『鉄コン筋クリート』の影響なんです。「やっぱり子供には鉄パイプだよなー」って
漫画に関しては『キン肉マン』と『ドラゴンボール』が一番好きな漫画だとインタビューなどで答えている。
また、尾田栄一郎先生は漫画に関して流行ものしか読んでないとも。
「AERA」2009年12月号より
尾田栄一郎先生は「アクションスターでたとえるなら、ブルース・リーじゃなくてジャッキー・チェン。どんなにかっこいい理由で敵につっこんでいっても、間抜けっていうのが面白い」と答えている。ただ、尾田栄一郎先生の自宅にInfinity Studio ブルース・リー超リアル胸像(1/1スケール)という等身大フィギュアもあるのでブルース・リーも好きそう
ワンピース64巻より
尾田っちの正義を教えてください。というsbsの質問に
「アンパンマン大好き」と答えている。
これは1049話で
カイドウ「お前が一体どんな世界を作れる!!? 麦わらァ~!!!」
という問いに対してルフィが
「友達が腹いっぱいメシを食える世界!!!!」と答えているのに共通する、
つまり、これはやなせたかし先生がアンパンマンに込めた想い、「本当の正義の味方は、戦うより先に、飢える子供にパンを分け与えて助ける人だろうと。そんなヒーローを作ろうと思った」と同じ。
ワンピース57巻より
やくざ同士の抗争を題材にしながら仲間を裏切り、裏切られることでしか生きられない若者たちが描かれた映画。
「赤犬」のモチーフになった菅原文太氏。『仁義なき戦い』の時の顔を使いたかったと言っているが、本当に使えるのが覇権漫画。
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また、現在の3大将のモデルである田中邦衛と勝新太郎、緑牛の○○○○。この3人が共演を果たした『浪人街』という映画があるので気になる人はそちらも。アマプラではレンタルのみ。
最後に
子供の頃から落語を聞いていた尾田栄一郎先生。特に柳家 権太楼の落語が好きだと。
落語初心者におすすめなのが「火焔太鼓」「文七元結」「転失気」
桂 歌丸8「火焔太鼓」「紙入れ」-「朝日名人会」ライヴシリーズ55 - Album by Utamaru Katsura | Spotify
文七元結(1/2) - song and lyrics by Kumosuke Gokaido | Spotify
転失気 - 〔収録〕平成20年11月8日 三鷹芸術文化センター - song and lyrics by 林家たい平 | Spotify
尾田栄一郎先生は25年以上もワンピースを連載し、その間に色々なインタビューなどにこたえているので、今回紹介した作品以外にもオススメ作品はありそう。少なくとも漏れは必ずあると思う。特に昔の雑誌の奴は入手も難しい。
有志の方々、気づいたら是非教えてください。ここからこの記事を育てていく気持ちで書きました。よろしくお願いします。