社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

『クレヨンしんちゃん オラと博士の夏休み〜おわらない七日間の旅〜 』感想。『オラ夏』は実質『ぼくなつ』ではない。

夏が嫌いだ。

人を確実に殺しにくる温度。

玄関開けてむわぁって来る湿度の高さと熱気、それだけで出かける気が失せる。

朝のニュースで「今日は比較的過ごしやすい日ですね!」なんて言われた日でも汗だくである。

暑さに強い人の体質ってどうなってるの!?なんか方法とかあるなら切実に教えて欲しい!!

なんだ!?痩せればいいのか!?

無理だ!この話は終わり!!!!

学生さんは夏休みなのに社畜の僕は休みらしい休みが取れず、仕事で鬱になっている時に見かける夏祭りに向けて楽しそうにしている学生カップルの絶望感。絶望感……

 

ただ、ガンガンにクーラーをつけて熱いコーヒーを飲みながら遊ぶ夏を題材にしたゲームは格別である。

 

都会生まれの都会育ち、田舎とはまったく無縁の生活を送ってきた僕にとっても、何だか懐かしさを覚えるような幻覚を見せてくれる。

蝉の声、風鈴の音、麦茶の中で氷が解ける瞬間、扇風機、畳、汗、白いワンピース。

やはり「夏」は二次元に限る。

 

そして今回、部屋の中で最高に「夏」を感じるゲームが発売された。

クレヨンしんちゃん オラと博士の夏休み〜おわらない七日間の旅〜 』(以下、『オラ夏』)である。

クリアしたので、感想を書いていきたい。

f:id:Shachiku:20210724175450j:image

概要

本作はアニメ『クレヨンしんちゃん』を原作としたゲームタイトルで、開発は『ぼくのなつやすみ』シリーズなどを手掛けてきた綾部 和氏率いる、ミレニアムキッチンが担当しているアドベンチャーゲーム

 

本作では、ひろしの出張に合わせてみさえの古い友人が住んでいる熊本県阿蘇の隣りの隣りにある「アッソー」という町へ一週間の旅行することから物語がはじまる。

しかし、この『オラ夏』はアニメ版ではなく、劇場版クレヨンしんちゃんの趣が強い。つまり、なんでもアリである。

写真がイラストとして現像されるカメラをくれる「あくの博士」がいるし、風間くんやねねちゃんなど「アッソー」にはカスカベに住んでいる友達とそっくりな子供たちがいたり、時間が経つと恐竜まで出てくるようになるし、最終的には“おわらない7日間”というサブタイトル通りタイムリープもする。

そんな日常と非日常が入り混じった世界で、虫採りや魚釣りをしたり、子供新聞記者として社畜したり、あるいは小遣い稼ぎの為に人々の手伝いをしたりしんちゃんは自由気ままに一週間の夏休みを楽しむ。というゲーム。

f:id:Shachiku:20210724175344j:image
f:id:Shachiku:20210724175338j:image
f:id:Shachiku:20210724175341j:image
f:id:Shachiku:20210724175348j:image

社畜が嫌で夏休みに逃避行しているのに、ゲームの中でも仕事をしないといけない、しかも5歳児が。という世知辛さと同時に、幼稚園児が作る新聞で世界最大って何!?ってなる。世界観が独特。

 

しんちゃん要素

本作のグラフィックは2Dと3Dが融合したもの。背景はリアルで温かみのある2Dで描かれており、しんちゃんなどのキャラクターたちは3Dで描写されている。

f:id:Shachiku:20210724174849j:image

背景はアートチーム・コンボイが担当している。この会社は『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』の美術監督をした中村隆によって設立されて、会社としては『クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』などの美術協力をしたりしている。

また、ダッシュが「ケツだけ星人」になっていたりして原作を尊重しつつ、面白い出来になっている。

 

タイムリープという主人公が鬱になりやすい題材ながらも、しんちゃんらしく、前向きで明るい感じになっている。流石しんちゃん。5歳時でありながらSF的な事は殆ど経験しているので精神力の鬼。

f:id:Shachiku:20210724174952j:image

 ↑オネショタ要素があったりなかったり

夏要素

メインストーリーを進めるだけではなく、アッソーにはさまざまな夏休み要素がある。クーラーをガンガンにつけた部屋で、社畜に残された短い余暇の中で最高の夏休みを裸になって体験できる。

たとえば虫図鑑を埋めるために多彩な虫を捕まえたり、川で魚を釣って、魚図鑑を埋めたり、畑で野菜を育てたり、小さいバーではDJ体験ができたり、秘密基地で恐竜バトルというミニゲームを遊んだり。

f:id:Shachiku:20210724174929j:image

この恐竜バトルは良い言い方をすればシンプルであり、悪い言い方をすればクソゲー。じゃんけんをするだけの運ゲーである。メインストーリーを進めるのに遊ぶ必要はないが、大会優勝を目指すとよほどの豪運者以外はそのテンポの悪さも相まってイライラすると思う。僕は2回ぐらいスイッチを布団に投げた。

 

他にも朝や夜にはみんなでごはんを「いただきます」して一人暮らしの寂しさを癒すのもいいし、

f:id:Shachiku:20210724175026j:image

朝には毎日体操をしたりして、物語が進むにつれて参加メンバーがどんどん増えていくのも楽しい。恐竜も参加してくれたりして、条件をクリアしていくと、どんどん豪華になっていく。

 

ただ、同じ1週間を何度も繰り返す系なので夏祭りやら花火大会などの季節イベントがまるでない。夏休みの雰囲気はあるものの、夏休み要素は少し薄い感じである。

 

残念なところ

  • カメラワーク

『オラ夏』が『ぼくなつ』に似ていると思わせるのが、この俯瞰視点だろう。

f:id:Shachiku:20210724181242p:image

ただ、画面外の方に行って場所が切り替わった後、しんちゃんの進行方向が分からず、また元の場所に戻ってきてしまうということが何度かあったのと、やたらカメラが遠くて釣りが視力検査みたいになる場所があるところが難点。

f:id:Shachiku:20210724175057j:image

また中盤以降、恐竜が町を闊歩するが、邪魔である。「お前がどけ」と言いたくなる。

 

  • シーンの繋がり

一番顕著なのが、アッソーにはじめて恐竜が現れた時だろう。

町の人が初めて見る恐竜に驚くのだが、そのままイベントが終了して、町の人は驚いたポーズのまま固まってしまう。

f:id:Shachiku:20210724175216j:image

しんちゃんだけが時が止まったかのような空間を自由に動ける。というようなバグみたいな事が何度かある。バグじゃなかったら逆に怖い。

 

  • ストーリー

劇場版クレヨンしんちゃんだと思うとストーリーはあまりに微妙で「こ、これで解決なのか…お前ほどの男がそういうなら…」ってテンションになる。あと、ひろし、みさえ、ひまわりがイベントに関わる事がほぼなく空気な所。かといって子供5人組の冒険要素も薄い。

 

タイムリープならではの物語展開やゲームギミックが無さすぎて、それが必要あったのかも気になる。夏祭りやら花火大会とかのイベントを入れたくなかったから同じ週の繰り返しになるタイムリープ要素入れたのかなと思ってしまう程。

f:id:Shachiku:20210724175251j:image

あと、いい歳したおっさんが若い娘と付き合う付き合わないイベントがあるのだが、その展開いる!?ってなる。嫉妬ではない。

 

  • 音声

「フルボイス」ではなく「パートボイス」な点も気になるところ。

  • ボリューム

早い人なら8時間ぐらい。普通でも10〜15時間ぐらいでクリアできる。

 

最後に

少し物足りない感じはあるものの、田舎の「夏」を感じられるので、コロナで里帰りが出来ずに寂しいキミとガンガンに冷えた部屋の中で夏を味わいたいキミ、そしてしんちゃんが大好きなキミにオススメ。

逆にあくまでもクレヨンしんちゃんキャラゲーなので、『ぼくなつ』の精神的続編、実質『ぼくなつ』と思ってシリーズのファンがオラ夏を遊ぶと少なからず物足りないかも。

どちらかと言うと、しんちゃんが好きで夏が嫌いでぬるい麦茶が好きな限界中年にオススメな作品だ。