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『るろうに剣心 最終章 The Beginning』感想。追憶編のお陰で今までにあったポンコツさが消えている

2012年に第1作が公開された実写映画『るろうに剣心

2作目『るろうに剣心 京都大火編』の興行収入51億円を筆頭に漫画の実写化作品としては破格の成功をおさめた人気シリーズも、2021年6月4日より公開される『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもって、いよいよその長い歴史に幕を閉じる。

長い歴史の間に薫役だった武井咲さんが結婚&妊娠という目出度い事があったり、原作者の和月伸宏さんが「児童ポルノ禁止法違反」で 書類送検されたり、色々なことがあった(映画公開出来てよかった)

 

2部作である完結編は原作でいう「人誅編」がメインに描かれた前作『The Final』。それに対し、本作『The Beginning』が描くのは原作そしてアニメシリーズの方でも、多くのファンがベストエピソードに挙げる「追憶編」。つまり剣心の過去が舞台である。

 

 

幕末の動乱期を背景に 「人斬り抜刀斎」 として恐れられた剣心が、なぜ 「不殺(ころさず)」 の誓いを立てるようになったのか? 左頬の十字傷の理由と原因は? 剣心の原点であり、そして『るろうに剣心』へと至る最初の物語がこの『The Beginning』となっている。

 

大友監督曰く

『The Final』はフィジカルなアクションとエンターテインメントを徹底的に追及し、『The Beginning』は人物の心の機微まで深く掘り下げた人間ドラマを描き切る。

の通り、今までの実写映画シリーズとは毛色が違うノリとなっており、

クレジットに『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』ANIPLEXの名前があるほど、本作に影響を与えたOVA版との違いを解説しながら、ネタバレありで感想を書いていきたい。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』予告編

 

原作、OVA版との違い

  • まず原作とOVA版との違いだが、OVA版は原作のような剣心の回想形式ではなく、剣心が幼少期に野盗に襲われるシーンから抜刀斎としての活躍、そして巴の死までをたどった一つの物語である。そして映画はほぼOVA版を踏襲している。
  • 上記で書いたように映画はOVA版を踏襲しているが、剣心の幼少期のシーンはない。孤児であった心太が戦いに巻き込まれて比古清十郎に助けてもらい、「剣心」という名前を貰い飛天御剣流の弟子として修行していく中で、「山を降りて人助けをしたい」という想いが育ち、実際に人のために剣を振るいたいと宣言し、清十郎の静止を振り切って、街へと行ってしまうシーンはなかった。福山雅治を呼べなかったのかもしれない。
  • 原作にはなく、OVA版にはある剣心vs沖田が映画でもガッツリ描かれており、剣劇が少ない本作では見どころの一つ。幕末時、誰が一番強いのか。子供の頃に妄想した人も多いだろう(まぁ圧倒的に比古清十郎が強いと思うが)

f:id:Shachiku:20210605165701j:plain(C)和月伸宏集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

 

  • 原作では巴が結界の森の奥に捕まったことを縁の手紙で知り、救出に向かう。OVA版と映画では剣心は、長州藩の連絡係でありながら裏では剣心抹殺を目論む「闇乃武」と内通していた飯塚から「巴が剣心の情報を流していた間者だった。巴を殺せ」と告げられ、動揺しながら結界の森へと向かう。より残酷な物語となっている。
  • 原作にはなくOVAと映画には「闇乃武」のボス、辰巳の印象的なセリフがある。「家族を守り、国を守るのが幕府の仕事」「国が安定していなかったら、家族なんて守れないし、好きな女だって幸せにすることができない。だから俺たちは、徳川300年の歴史とこの体制は、命を懸けて守る」これは時代を変える事で平和を求めた剣心とはまた違う信念で「闇」に生きる人間の吟味があってよかった。
  • ラストの巴が死ぬシーン。原作では巴は剣心を救うため、辰巳の懐に入り小刀を奪おうとする。しかし、その瞬間、辰巳もろとも巴は剣心に斬られて死んでしまう。この時に巴の手から離れた小刀が偶然、剣心の頬を切り、十字傷が生まれる。OVA版と映画では辰巳もろとも巴は剣心に斬られた後、死の間際、剣心の頬に切りつけ、十字傷を刻もうとし、剣心もまたその行為を支える。十字傷は決して偶然ではなく、巴は剣心に十字傷を刻むことで剣心に「十字架」を背負わせた。そして背負わされた「十字架」を剣心をきちんと受けとめ、引き受けた。2人の共同作業によって十字傷は生まれたのだ。巴は言う。「ごめん…なさい…あなた」と。

 

 「人斬りの罪を償えるか否か」

るろうに剣心 最終章 The Beginning』が描いた回想、「追憶編」は、過去にあった剣心が背負っている「十字傷(十字架)」が生まれた謎、剣心の原点を描く物語となっている。

桂小五郎から「狂った正義の先鋒」と称され、最も過酷な役割を任された少年が不殺の信念を持ち、逆刃刀で戦い続けているのか、その理由が明らかになる回想となっている。

 

これは原作では「人誅編」という1つの物語であり、「人誅編」のボスである縁が襲来→剣心が薫たちに自分の過去の話をし→剣心がどうすれば贖罪できるのか考え、自分の中で答えを見つけて縁を倒すまでが本来のストーリーとなっている。

ただ、実写映画では「人誅編」が『The Final』と『The Beginning』に分かれて、先に上映した『The Final』は、「追憶編」にあたる内容を丸々カットし(その割には巴が斬られるシーンは3回ぐらい見せられる)、薫殿の死亡シーンがないので緋村剣心が心折れてしまい、答えを見つけて再び立ち上がるシーンはなし。

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(C)和月伸宏集英社

 

大友監督が『The Final』はエンタメに極振りしたって仰っているけど、アクションとメッセージ性って両立できると思うんだよな。

結局、映画では剣心は贖罪の答えを見つけることが出来ずに縁に対して「答えは未だ見つからないが、それでも間違った道に進んでいるお前は止めなくちゃいけない」という解になってしまったのは残念。

ただ、

「このエピソードをやりたかったがために、これまでがある」

佐藤健はインタビューでここまで言うほど、『The Beginning』は今までとは一線を画す傑作映画になっていたと思う。

他の製作陣のインタビューを読んでも『The Beginning』がやりたいけど、興行収入面で不安があるから今までの実写映画の延長線上にある『The Final』を作った感じがある。

 

実写るろうに剣心シリーズはキャストの熱演やアクションに美術は凄いのに演出と脚本、原作を映画の尺にする為の再構築部分で残念になってるシリーズだと思っていたので『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』をまんま再現した本作が綺麗にまとまっているのはある意味当然なのかもしれない。

ただ、その分今までにあった笑い要素がほぼ皆無になっているので、ヘンテコ実写映画ファンは少し悲しいかもしれない。

 

 

細かな所

  • 高橋一世演じる桂小五郎が最高!桂小五郎の外伝作って欲しい。それか桂小五郎大河ドラマどうですか?NHKさん。
  • 2021年は有村架純さんの年と言っても過言ではないほど大活躍している。
  • 「闇乃武」との戦い、全体的に剣心を殺すには微妙に足りない火力の爆弾に少し笑ってしまう。
  • 冒頭の手足が縛られたまま口で刀を抜いて皆殺しにするシーン、今まで不殺の剣心ばかり見ていたからつかみが完璧でしたね。ゾロに見てしまうのが玉に瑕でしたが

最後に

記念すべき1作目だった『るろうに剣心

本格アクション映画として、まさしく実写映画として一つの伝説となった『るろうに剣心 京都大火編』と『るろうに剣心 伝説の最期編』

エンタメお祭り映画の到達点『るろうに剣心 最終章The Final』

今までと一味ちがう静寂さ、エピローグにしてプロローグ『るろうに剣心 最終章 The Beginning』

邦画の実写映画はダメと言われ続けてきた昨今、本シリーズは成功例としてこれからも語り継がれていくだろう。

 

最後に一言。

何だかんだOVAの追憶編が最高!!!!!!!

 

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