露伴先生が好奇心で怪異に首を突っ込んで酷い目にあう実家に帰ったような安心感のある映画
【原作】荒木飛呂彦【監督】渡辺一貴 【脚本】小林靖子
「日本の漫画・アニメを実写化した際の成功例は?」と問われたら、『孤独のグルメ』か『岸辺露伴は動かない』を挙げる人は多いだろう。
良い意味でも悪い意味でもSNSが盛り上がる「実写化」の中でもここまで多くのオタクたちの信頼を勝ち得ている作品は稀有だ。
それだけ原作ファンを納得させる実写化は難しい。そもそも原作ファンと言っても十人十色。世の中には実写化という言葉の意味が原作を忠実に再現する事だと思い込んでる人や、「こんなの〇〇じゃない!」とヤジる事に快感を覚えている人まで多種多様だ。
原作キャラクターの奇抜でカラフルな髪の色や服装まで真似ると「コスプレ大会じゃん!」と揶揄され、実写向きに全体の色を現実調にすると「ピンク色の髪こそがこのキャラの命なんだよ!!!」「こんなのは○○じゃないわ!!!」と揶揄される。原作通りのストーリーにすると「知った展開すぎて実写化した意味あったか」と言われ、原作から色々足したり引いたりすると「原作を改変するな!!!」と言われる。「解釈」とはファンの数だけあり「解釈一致」と「解釈違い」は人それぞれなのだ。
つまり、原作ファン全員が納得する実写化なんて不可能なのである。
特に『ジョジョの奇妙な冒険』の実写映像化には、2017年公開の映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章にして最終章』がある。SNSでは叩かれがちだが個人的には真面目な実写化な作りをしていると思う。ただ、続編で吉良吉影を出す気満々だったのに興収が10億を割っていたり、メインキャストの逮捕だったりで、続編が望み薄な状況になっている。1度でも失敗すると世の中の偏見具合が増していき「いや、見るまでもなく実写化なんて絶対厭…」とますます鑑賞しなくなっていく。
そんな逆風がある中での『岸辺露伴は動かない』の成功は快挙だろう。
『岸辺露伴は動かない』が多くの原作ファンの信頼を勝ち得たの、まず第一に実写化発表時のビジュアルで一気に引き込まれたのが大きい。僕も過去のツイート見返すと褒めてた。
高橋一生さんが演じる実写ジョジョの岸辺露伴、ありがちなコスプレにしか見えない実写って感じがしなくて良いな pic.twitter.com/xvElHhaMuR
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2020年10月14日
『ゴールデンカムイ』みたいに監督も俳優も何も発表せず「実写化やります!!」だけでは原作ファンは疑心暗鬼になってしまうのも無理はない。そこまで実写化に、邦画に対して信頼関係を築けていないのだから。
また、『岸辺露伴は動かない』は脚本がアニメ版のジョジョシリーズの脚本もやっていて昨今の『ジョジョ』人気の功労者である小林靖子さんなのも大いに関係しているだろう。原作ファンからの信頼もAHEADシリーズ 終わりのクロニクル⑦並に厚い。
何よりも、何よりもドラマで放送したシーズン1の出来で、多くの喝采を浴びた事が何よりも大きい。ロケハンした画の豪華性、実写にあたってそこまで浮かないファッション、高橋一生や飯豊まりえのビジュアル、下手にスタンド本体を描かないのも良い。
やはり日本の実写化で大切なのは「無理しない」ことだと思う。
比較的日本で受け入れられている実写化って『銀魂』みたいな出来が悪いのも含めて笑いになるギャグ作品を除いて『孤独のグルメ』『るろうに剣心』『デスノート』『ちはやふる』『JIN』『ゆるキャン△』『テルマエ・ロマエ』『ミスミソウ』などあるが、VFXやCGなんて日本の技術と予算で受け入れられるの不可能だと割り切り、極力生身で頑張っている。
岸辺露伴シリーズの土橋圭介プロデューサーは、インタビューで「NHKでVFXバリバリでスタンドを表現する予算は組めない」と語っている。
「自分の隣に露伴がいたら、どんな世界になるのか?」プロデューサー・土橋圭介に聞く『岸辺露伴は動かない』実写ドラマ化のきっかけ | 超!アニメディア
そして何よりも原作の「ビジュアル」に似せるのではなく、原作の「雰囲気」に似せる。
「原作への理解度が高い」とは、つまり上っ面だけを似せるのではなく、その作品の根源、または魂と呼ばれる所を三次元に落とし込む行為なのだと思う。土橋圭介プロデューサーも上記のインタビューで「アニメのように原作を忠実に映像化しようとしても、実写の場合は苦労が多いだけで満足のいくものにするのは難しいと考えておりました。マンガの世界を実写に置き換えるのではなく、今いる我々の現実世界に露伴が実在したらどうだろう? 自分の隣に露伴がいたら、どんな世界になるのか? という発想で考えてきました」と語っており、この視点こそが日本の実写化映像において大事な気がしてならない。
そして僕か思うジョジョの根源こそ、後で詳しく書くサスペンス・ホラー要素なのだと思っている。
あとは、いきなり映画化ではなく、テレビ放送で参入しやすくするのも良いかもしれない。いきなり映画化だと、残念ながら観てないのに叩く層が増える。
そうはいっても、上記でも書いたように原作ファンと言っても十人十色なので「なんでスタンド再現しないねん!!」と怒る人もいる。それは全然悪い事ではないが、岸辺露伴シリーズがネット全体で賛否の賛が多く見える状況を作りだせるパワーがあるのも事実だろう。
ジョジョ
『ジョジョの奇妙な冒険』はきわめて映画的な漫画である。作者の荒木先生は本を何冊か出すぐらいの映画好きでも有名だが
映画のサスペンス・ホラーを漫画というメディアに置き換えた革新性こそが『ジョジョ』の真骨頂だと僕は考えている。特に田舎町を舞台にしたミステリでもある第4部なんて一番顕著。故にすでに映画的サスペンスを漫画でやっている『ジョジョ』を再びそのまま映画にしてしまうと、よほどうまく映像化しない限り「原作漫画の方が映画っぽい」という歪な現象になってしまうと2017年公開の映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』を鑑賞して感じた。
漫画をそのまま忠実に映像化するのでは原作に負けてしまう。故に映像として再解釈して語り直す。
『岸辺露伴は動かない』はそれが成功したからこそ
「あの原作を実写でどうやって再現するのか」ではなく
「あの原作のあのシーンを今度は実写でどのように解釈・アレンジするのだろう」になってるのだと思う。
岸辺露伴 ルーヴルへ行く
最後になってしまったが、映画について少しだけ。
映画化というよりは、あくまでもTVドラマの延長線上である。そもそもTVドラマの完成度が非常に高かったので、あれを期待していくと楽しめると思う。注目ポイントは本筋に全く関係ないのにやたら印象に残る露伴先生ファンの外国人と、やたら再現度が高い露伴先生のばあちゃん。そしてそんなおばあちゃんのお下がりサングラスしている露伴先生。何よりも、ぬるい麦茶の情緒がある露伴先生の過去編。大河ドラマ『おんな城主直虎』好きは必見のあのシーンとか2時間見どころ沢山である。
最後に一言
泉京香が一番怖いってことでいいんですか?