解釈違いもあるけど、これはこれでアリな実写化作品2023年大賞
多くの漫画アニメ好きは自分の好きな作品が実写化すると聞くと嬉しいより不安になるだろう。僕もワンピースがハリウッドで実写化するという話を最初に聞いていた時は正直、不安で一杯。同時に原作者の尾田先生が漫画の実写化についてずっと否定的だったのは知っていたのでそんな尾田先生が心変わりするほどの「何か」があったのだと思うと興味もあった。
尾田先生は今回の実写版について「妥協はなかった」とコメントしている。番組の制作チームはプロフェッショナルであり、『ONE PIECE』のファンであると語った。「撮影が終わってからも、世界に配信するには不十分だと僕が感じたため、非常にたくさんのシーンを撮り直してもらいました。その一方で、脚本を読んだときにルフィらしくないと思ったセリフが、イニャキ（・ゴドイ）が口にすると上手く作用していることもありました」と振り返っている。
実写版「ONE PIECE」本予告。尾田栄一郎「一切の妥協はありません!!」。Netflixで8月31日 - AV Watch
最近、ディズニーで実写化が進められている『白雪姫』の主演レイチェル・ゼグラー氏が「オリジナルのアニメ版は嫌い」的な発言をして炎上したことを思うとワンピースの実写版は俳優陣の原作愛を感じられて微笑ましい。作品の出来と作品愛はどこまで関係しているかその因果関係は不明だが、原作のファンとしては原作に対して最低限の敬意を持ってほしいなとは思う。
今回はそんな実写版『ONE PIECE』の感想をネタバレありで書いていくよ。
今のワンピースから逆算されて作られたイーストブルー編
原作のワンピースは週刊連載というライブ感の元、キャラクター造形と世界観を練り上げていったが、実写版は1000話を超える原作から再びイーストブルー編を語り直しているので、ロジャーの処刑場にシャンクスやミホークやドラゴンがいたり、ゾロに襲い掛かるMr.7だったり、シャンクスがゴムゴムの実を大事に扱う描写があったり、覇気を明確に使う描写があったり、バギーがルフィに「俺たちシャンクスに裏切られた者同士だろ」的発言があったり、魚人差別だったり、アーロンパークが遊園地みたいな場所だったり、ルフィがガープの孫とすぐ判明したり、コビーが最初から美少年だったりする。そういう要素は原作を知っているとニヤニヤ出来て楽しい。
また、ロジャーの処刑場にクロコダイルと思わしき人物も登場するが、何とそれが「女性」なのである。「クロコダイル元女性」説はイワンコフがクロコダイルの弱みを握っているという事から、クロコダイルの「弱み」＝「元女性」であるのではないか、という説が10年以上前から存在している。それが、与太話じゃなくてマジなのか…？とここに来て急に予想外の所からの情報にクロコダイルジェンダー学会が大荒れしているのだ。実写版『ONE PIECE』のスタッフの中にいるクロコダイルを女性だと信じて疑わない狂信者の勝手な行動な可能性もあるし、そもそも彼女はクロコダイルではない可能性も大いにあるが、シーズン２が制作されたら本格的に登場するであろうクロコダイルが注目されそうだ。
ネトフリ用に再構築されたワンピース
本作の特徴の１つに尾田先生の価値観が大きく反映した原作から、実写版は多くの大人達が話し合い調整してチェックした価値観を元に制作していることだろう。これによって原作にある思想や描写に苦い顔をする人たちにも見やすい出来になっているのは間違いない。ここら辺が編集があるとはいえ個人制作である漫画と多くのスタッフが関わる大規模映像作品の媒体の差だろう。これはどちらが上という話ではないし原作が古いという話でもない。
代表的なことを取り上げる明らかに不細工として描かれているアルビダが「お前たち！この海で一番美しいものは何だい ！？」→「レディーアルビダ様です！」から実写では「強いのは誰だい！？」に変更になっている。
他にもサンジが女性好きなのは変わらないけどそれ以上にルフィのことを好きなことが強調されている。ゾロもルフィのことが大好きだし。そんなサンジとゾロが「俺の方がルフィのことをよく知っている」とマウント取りあったりする微笑ましい場面が戦闘中にある。なんだアレ。
また、本作はイースブルー編を全８話の１本の作品にするべく話の縦軸としてルフィとガープの関係性を中心に親子の話になっているのが特徴だ。
子供の頃から立派な海軍にするべく特訓をルフィに行うガープだが、ルフィの夢は海賊王。
ガープは海軍としては英雄だが、親としては全然ダメということをガープといつも一緒にいるコビー視点から描かれるので新鮮である。そう本作のもう１人の主人公といえる存在にコビーがなっているのだ。
海軍になった後のコビーはグイグイ成長していくしヘルメッポはバカ息子から脱却しながら２人の友情を育んでいくのが原作だと扉絵連載で描かれるが、実写版は原作要素を再構築しながらじっくり描いている。
そんなコビーはガープのルフィ育成話を聞いて「えぇ…それって虐待じゃん…」と察するし、ヘルメッポもそんな話を聞いて子供が親の思い通りにならないことを「塗り絵に失敗する」と表現する。そんなヘルメッポも実は父親のモーガンから虐待されていた事をコビーは察する。また、コビー自身も元々はアルビダに支配されておりルフィに助けられた事がある。
ダメな親ばかりではない。サンジには自分のことは気にせず自由になってもらいたいゼフはガープと対照的に描かれているし、だからこそ原作にはないガープとゼフが子育ての大変さを語らう所は本作の名シーンになっているのだろう。
親に縛られ続けた子供たちが仲間であり友達であり居場所であり血の繋がらない家族であるクルー達と何者にも縛られず自分を夢を自由に追いかけられるようになるまでの話としてイーストブルー編を再構築しているのが1つの作品として成功していると言わざる得ない。
本作は原作をただなぞる映像化ではなく実写化するにあたってフィクションを現実に置き換える匙加減が絶妙でワンピース愛を感じられながらも１本の作品としてよく出来ている。ゴムゴムのアクションがもう少し洗練されたらもっと良くなりそうなのでそこら辺はシーズン2以降に期待したい。
細かなところ
- ウソップ大好きな僕としてはウソップの活躍具合がカットされ過ぎは明確に不満。シロップ村周辺のシナリオが原作から改変され過ぎているのは仕方ないとしてウソップ海賊団が存在しないので「今日限りをもって ウソップ海賊団を!!! 解散する!!!!」がないのは仕方ないとしてチュウ戦での一回死んだフリしてやり過ごそうとしたけどそんな自分の不甲斐なさを恥じて「今ここで全力で戦わなかったおれにあいつらと同じ船に乗る資格なんてあるはずねェ！！！あいつらと本気で笑いあっていいはずがねェ！！！！」と奮起するシーンがかなり駆け足になっていたのが残念。ただジェイコブ・ロメロ・ギブソンが演じる実写ウソップは凄いウソップだった。トレードマークの長っ鼻じゃないのにウソップなんだぜ…！？信じられない……！！！
- シャンクスがルフィ救う名シーン、あの袖が…！！！シーンではルフィを右腕で抱きながら必死に海の中で足バタバタしているコラを見てしまって頭から離れないので実写では船の上になっていて助かった。
- くいなの死因が階段からの落下事故から「事故」だけになっていたのは今のワンピース世界住民の強度具合からいって必然の改変。
- ドンクリークがミホークに殺されたのでギンがただピラフ食べさせてもらった人になっているの好き。
- 存在がカットされたジャンゴ。まぁリアリティ的に催眠術ってね。
- 存在がカットされた鉄壁のパール。まぁ別にいらないしね。
- イニャキ・ゴドイ氏が演じるルフィさんはクレバーで空気読めて人の心読む能力が高けており飄々としている大物感があるが繊細な一面もあるように見える奥行のあるキャラクターになっている。尾田先生の任侠成分が抜けているとこういうキャラクターになるんだぁという面白さがある。
- ゾロとナミのルフィを１歩引いたところから見守るコンビ好き。というかゾロ×ナミの距離感本当に好き。
- バギーが普通に怖い……
実写版ワンピース、帽子の男ことボガードがガープの右腕として活躍するわ、何より滅茶苦茶イケメンなの、これだけで価値ある実写過ぎる…… pic.twitter.com/Y3Qw4nFQ3B
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2023年8月31日
実写ワンピース、一瞬だけサンジ役タズ・スカイラーさんの上半身裸シーンあるけど腹筋がバキバキでインパクトが凄かったな…… pic.twitter.com/4QIObfyr5u
— 社畜のよーだ (@no_shachiku_no) 2023年9月4日
最後に
ネットフリックスの日本作品の実写化といえば『カウボーイビバップ』のように失敗して早々に打ち切りが決まったり残念なことが多いが
本作は配信が開始された2023年8月28日から9月3日までで、1,850万回の視聴回数、1億4,010万時間の視聴時間数を記録。46カ国でNo.1を獲得したほか、93カ国でトップ10入りを果たし、Netflix共同CEOのグレッグ・ピーターズが本作を「成功」と太鼓判を押したのは、ようやく漫画実写化の文脈において成功できた嬉しさがある。
正直、原作好きとしては尾田先生が明らかに実写化に関与したせいで連載休止が増えたのは複雑だが、このヒットを受けて他の漫画の実写化計画も動き出してくれると本当に嬉しい。同じくネトフリで実写化される『幽遊白書』はヤバそうだが…。
ワンピースも完結に向けて動きだしている中で、 FILM REDといい実写版といい、連載開始して26年経っている作品で今までのファン以外にも人気が広がって盛り上がっているのが凄いと思うし、ここから一層世界中で盛り上がって欲しい。
そして実写版。シーズン2あるとすればアラバスタ編だろう。
電伝虫をリアル過ぎて気持ち悪さすらあるクオリティで再現する本作でチョッパーをどう実写化するのか滅茶苦茶興味あるからシーズン２もよろしくお願いします。
