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『Ghostwire: Tokyo』レビュー。井上和彦に軽口叩かれながら行く渋谷オカルト探索

ホラーゲームじゃない!ツンデレおっさん(CV井上和彦)とバディを組む王道少年漫画的アクションゲーム

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いや、そんな事言いつつ、口裂け女みたいな化物おるやん……怖っ……と思うかもしれない。

確かにバイオハザードシリーズの原作者である、三上真司*1によって設立され、『サイコブレイク』シリーズで有名なゲームの開発スタジオTango Gameworksの最新作で幽霊が題材なのでホラー要素は多少ある。

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世界観的にも生きている人間よりも天狗や河童、 鬼などの怪異や幽霊ばかり出てくるし、夜の病院やお墓、お寺や神社、廃墟ビルなど心霊スポットでは怪奇現象はゾクゾク起きるし、お店のシャッターは勝手に開いたり閉まったりするし、きさらぎ駅などのネット発祥の怪談がアレンジされて出てくる。

これだけ言うと「ホラー映画だけど怖くない」って聞いたのに実際に観たら滅茶苦茶怖くて「も゛う゛二゛度゛と゛う゛そ゛を゛つ゛か゛な゛い゛て゛え゛え゛え゛え゛」と号泣する奴じゃんと思うかもしれないが、クリアした僕の感想としては怖さよりも熱さ。自キャラが明らかに幽霊より強いという安心感。ホラーというよりスタイリッシュ退魔アクション。

そして『うしおととら』である。

 

バディもの

冒頭で主人公の暁人が交通事故を起こし、これ幸いに身体を奪おうと霊体で生前は公務員ゴーストハンターだった“KK”(CV井上和彦)が暁人に憑依してしまう。

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1つの身体に暁人とKKの2人がいる状況の中、般若面の人物によって引き起こされた大規模な「霧」が原因で人々が消失した渋谷を舞台に、悪霊と対峙しながら事件の裏に潜む真相に迫っていく。

 

暁人とKKの関係は「取引」しただけで、お互い利害の一致でそれぞれを利用するだけのドライな関係だし、「この体は俺のもんだ!」「僕のだ!」と最初のほんの一瞬はいがみ合った事もあった。

しかし、苦楽を共にし、お互いの過去を知るにつれ、親子のような師弟のような親友のような最高の相棒になっていく。その過程の楽しさ。身体の関係しかなかったおっさんが青年に「行くぜ!相棒」と言いながらこちらを全面的に信頼してくれた時にしか摂取できない栄養素を限界まで得る事が出来る。

 

また、人のいない不気味な夜の渋谷を体に憑依した口が悪いオッサンと仲良く軽口を叩き合うのも遊んでいて楽しい。

 

本作は人が殆ど出てこないので結果的に会話は暁人とKKのやり取りが大部分を占めている。

本来は怖いハズの心霊スポットの探索や心霊現象も、KKが「安心しろ」や「惑わされるな」とか言ってくれると安心するし、暁人がヘマをすればKKがツッコミを入れたり、普段はツンツンしているのに悪霊に苦戦すると「大丈夫か!」と素直に心配してくれて暁人も動揺しちゃうし、うまく悪霊を倒すと「やるじゃねぇか!」と素直に褒めてくれたりする。コンビニで買い物すると「無駄遣いすんなよ」や「タバコが欲しい」と小言を言ったり、暁人のぼやきにKKがぼやきで返すなど、そのやり取りが細かく、バリエーションも多くておもしろい。これが本作のメインと言っても過言ではない。僕にも取り憑いて欲しい。

 

 

犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬猫猫猫狸猫猫猫猫猫猫

 

突如人がいなくなった渋谷が舞台なので、街中には犬と猫と狸とモノノケと悪霊しかいない。

犬は主人が突然に消えて「どこ行っちゃったの…」とか「ご主人さま……」って悲しんだり怖がったりしている中で、頭を撫でたり、力を通して気持ちを読む事が出来たり、ご飯をあげると「ここ掘れわんわん」と恩返しもしてくれる。

というか柴犬は白、黒、茶、ごまの全色登場する上に白紫の鼻がちゃんとピンク色になっているの、開発陣の柴犬に対する本物の愛を感じる。

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それに対して猫は何も助けてくれないし、プライドがあるからか撫でる事もできない。何なら人間が消えた世界を謳歌している。

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しかし、そんな中である猫だけが撫でることができ、心にグッとくるので是非、そこまで遊んで欲しい。

 

 

戦闘は単調

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日本が舞台なので銃は使わず、本作は連射ができる風属性、近距離戦に強い水属性、高威力で爆発性の炎属性の3つのエーテルショットと呼ばれる中距離の属性攻撃やステルス用途の弓矢、敵の動きを一時的に止める補助的役割の御札などを使い分けて敵を倒していく。

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しかし、敵の種類やモーションが少ないのもあって、自分の中で試行錯誤が終われば飽きは早い。基本的に弓矢や御札を使わなくてもガードしつつ、アイテムで回復しながら脳死エーテルショットを撃つだけで余裕だ。そこに深みはない。スタイリッシュ退魔バトルにいい感じにノレるかどうか。

あと、敵を倒す事で得る経験値より街中で彷徨ってる幽霊を救う方が経験値貰えるので戦うメリットが少ない。そもそも難易度的に易しいのでレベル上げするメリットも少ない。

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↑女子高生やOLなど少しエロティシズムも感じる敵もいる

 

スキルツリーは一応あるが、バリエーションは最低限の一応あるだけだし、中盤ぐらいからお金は余るし、回復アイテムも余る。

ただキャラのモーションは凝っていて、楽しい。印結ぶのも敵のコア引っ張るのも格好良かった。そういう中二病心溢れる演出がカッコイイと思うか、毎回毎回テンポ悪いかと思うかでも評価は分かれそうだ。

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↑手の動きは本当にカッコイイ

 

オープンワールド

僕は関西圏にいる人間なので渋谷の街並みは知らないが、調べると現実の渋谷を忠実に再現しているのではなく、あくまでゲーム的にチューニングされているらしい。

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アベンジャーズエンドゲーム』などハリウッド映画に出てくるちょっとおかしな日本描写が話題になりがちで、時代遅れの「ハラキリ」、「フジヤマ」、「ゲイシャガール」、「サムライ」、「スシ」の大きなトンデモから、看板の文字が明らかに日本語として不自然など、細かな所までツッコミは多い。

どうしても今の日本の街並みは「宣伝」に溢れており、タイアップでもしない限り企業名を出せないので、「それっぽさ」が大事になってくる訳だが、その「それっぽさ」のさじ加減が難しい。少しでも間違えると一気にトンデモ日本になってしまう。

しかし、本作は日本の企業が制作し、日本人が制作の中枢にいる為かリアリティが凄い。

渋谷の作り込みは見事で、リアルとフィクションが丁度良く融合している。

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109が429になっていたりヒカリエがカゲリエになっている建物や、スクランブル交差点を通ったと思ったら裏にひっそりとお地蔵さんがあったり、屋上に社があったり、高層ビルに囲まれた所にお墓があったり、日常の中にある非日常、様々な東京が混じったカオス感、今までのゲームではありそうでなかった唯一無二の都市探索ゲーになっている。

ディティールへのこだわりも抜かりなく、各所にパロディに溢れ、じっくり探索するだけでも楽しい。

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問題もある。

各エリアは霧で囲まれており、そこに入るとダメージを受けてしまうので実質的に行けない。

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↑モヤモヤしている所は全部いけない

 

そして、各地にある鳥居の封印を解放すると少しずつ行ける範囲が広がるのだが移動範囲の制限がデカい。渋谷の街のオープンワールドゲームだと勘違いしてしまうとダメ。三上さんのインタビュー読んでも本作を「箱庭型のアクションアドベンチャーゲーム」だと説明しているため、そもそもオープンワールドゲームではないのかもしれない。

 

 

また、何よりも街中にいる天狗が滅茶苦茶自己主張してきて煩い。「ギェーーーーーー」とまるで敵のような鳴き声を発していて不快だ。そもそもスキルツリーを進めていくと何もない所に天狗を召喚できるようになるため、街中にいる天狗が必要でなくなるのだが、「ギェーーーーーー」と煩い。もう少し可愛く例えば「くるるん」みたいな可愛らしい鳴き声ならまだアリだが「ギェーーーーーー」である。初代ポケモンに登場するフシギバナの汚い鳴き声である。

本作では様々な妖怪などが出てくる中で天狗だけの好感度が下がり続けるので、開発スタジオTango Gameworksの中に強烈な天狗アンチがいるのだろうと僕は考察している。

 

総評

メインストーリーだけを進めていくと10時間もいらないぐらいでクリアできる。正直ストーリーも王道少年漫画的なのはいいが、今時の人気漫画ならもう少し捻るので、本作ももう少し何かが欲しかった。

 

あと3D酔いしやすい僕にはFPSはキツかった。階段ぐるぐる上っていく所とかラスボスより強かった。せっかく主人公の見た目とか細かく変えれるゲームなんだからTPSで遊びたかった気持ちがある。

 

また、サイドミッションもあるが、基本的にバリエーションが少なく単調なのが残念。

 

時間制限モノあるミッションでも時間制限をなくすオプションがあったりして遊びやすく、誰でも楽しみやすいようで出来ているのは好印象だが、全体的にもう少し、もう少し欲しかった。そんなゲーム。

 

最後に一言、これだけはアプデで直して欲しい。

フォトモード中は時間停止して!!!!!

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↑心霊現象は絶好の映えポイント

 

 

*1:『Ghostwire: Tokyo』はほぼ三上自身は関わっておらず、木村雅人プロデューサー&木村憲司ディレクターである