社会の独房から

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有吉のサンドリ「1年で一番つまらない回」を聞いて

その訃報を始めて知った僕はGW前から先延ばしにしていた大量の仕事の処理に追われており、そこまで悲しむこともなく「ふーん」程度だった。

しかし、休憩中に胸の辺りがモヤモヤし始めてなんだがTwitterを開く事も出来ず、そのまま3日間ぐらいネット断ちしてしまった。身体が、精神がこれ以上の情報を受け入れない。受け入れられない。

 

 

こういうたまらなく不安な時には、ネットやテレビではなくラジオが良い。ラジオは人間の根源的な孤独のようなモノを慰めてくれるな、と感じる。

ナイナイのANNやマヂラブANN0、東野幸治のホンモノラジオを聞いたり。

そして15日放送のJFN系ラジオ番組『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(以下サンドリ)

サンドリは東京や大阪など都心部では放送していない。聞けば理由が分かる。

土手下にあるプランターをどかしたらワシャワシャ動き出す蟲のような内容というか、このご時世だとTwitterですら言ったら軽く炎上しそうな童貞、糞、闇、毒、借金、不倫、離婚、無職・・・そんなワードとキレのある内容に対して有吉が叱咤激励、時には全乗っかりしているのを聞きながら、今の時代に在り処がない人間にとって「居場所」を感じることが出来るラジオだ。

僕も住んでいる所では放送してないのでほぼほぼこの番組を聞くためにradikoプレミアムに入っている。

僕のような負け犬社畜が思うサンドリの凄い点は10年以上放送している番組なのに昔と比べてもトーク内容、メール内容がそんなに変わってないということ。

どうしても芸人のラジオって芸人として上がっていく瞬間が1番面白くなってしまうと感じる。

芸人として成功し、成長してしまうと最初はうだつの上がらない若者に向けて始まった番組でも段々と話が金のある趣味や家族に変動。意識の高さや世間体への守りのトーク感が強まってしまう。しかし、リスナーはパーソナリティと同じように成長して成功できるわけじゃない。昔のあのどうしようもない下らない話を聞きたい。そこの齟齬の話だと思う。

サンドリはその点、有吉が芸人として大ブレイクし、結婚しても何も変わらない。故にリスナーにとって変わらない居場所になっているのだと思う。

 

 

そしてサンドリの5月15日回。

有吉は冒頭、声を振り絞りながら言う。

「元気出たり、落ち込んだりっていうのを繰り返すね。亡くなった日の夕方に、特別に顔を見せてもらえて。2人…ちょっとなんか悲しいなぁ……」

「年の初めの上島さんが来てくれる放送が1年で一番つまらない回で、そこから面白くなっていって…。まぁーでも今日が一番つまらないだろうな。あの人のせいだしな。みんな気を使ってくれて、亡くなった上島さんと2人きりにしてもらったけど…ちょっと放送事故になっちゃうかな……」

 

「まぁ、でもほんと2人っきりにしてもらった時もお礼の言葉しか、出なかったね。なんか………ちょっとツッコんでやろうかなとか、茶化したりとか、馬鹿だなとか、言おうかなと思ったけど、ダメだねやっぱりお礼しか出なかったね……もう…ほんとにもうありがとうございますってことしかなかったね……」

 

サンドリを聞いていて初めてといっても過言ではないしみじみとした冒頭。結婚報告の時ですら淡々としていた有吉の震える事に僕も動揺を隠せない。しかし、サンドリは感動だけでは終わらない。終わらないのだ。

 

上島さんが有吉からもらったオメガの時計を常に着けて、枕元に置いていた話(これ東野幸治のホンモノラジオに上島さんがゲスト出演した時にその時計をつけていて東野幸治に色々ツッコまれながらも有吉から貰った大事な時計と話していた上島さんを思い出して少し泣く

去年コロナなどで渡せなかった有吉さんへオメガの時計のお返しとしてグラスを買っていた話になり

有吉「損したなぁと思ったなぁ、もらってから死んでればなぁ…」

草薙、酒井「ふふふ(笑)」「はっはっは(笑)」

有吉「欲しかったなぁ。高いグラスか高い時計か。欲しかったけどなぁ、もう本当にもうくれないんだもん。せめてなぁ、プレゼント渡してから死んで欲しかったなぁ(笑)と思うけどねぇ、まあ、でもその気持ちだけでもありがたいし、いや本当にありがとう」

本音と笑いの科学融合。

そしてリスナーから「追悼ラップやって世間から叩かれてくれ!」をお願いされた菊田健太a.k.a.アルコ&ピース酒井健太のレペゼン半蔵門ラップ。

また、「カマキリペニス」や「コーラ1杯飲むとトイレ行きたくなる」といったリスナーからの変わらないメール。いつも通りのバカみたいな内容で笑って、時々思い出して言葉がなくなったり。でも爆笑する。一杯泣いて。一杯笑って。ただただ聴けてよかったと思えた。

そしてエンディング。

 

有吉「色々あるし、まだまだ感謝伝えきれないことも一杯ありますし、えー色々と、まだまだ、上島さんのこと忘れずにですね、色々と、うだうだと、お話ししていこうかなと思いますんで。

まあちょっとしつこいですけどもね、女子高生がオシッコしてたお話と、上島さんの色々ダメな話とか色々と、しつこくしつこくしていくと思いますんで。リスナーの皆さんどうぞ飽きずにお付き合い願えたらなと思っております。というわけでお相手は有吉弘行と」

酒井、草薙「アルコ&ピース酒井と宮下草薙 草薙航基でした」

有吉「また来週」

 

また来週。

何かもうサンドリを聴けないんじゃないかという不安もあったけれど、見事に杞憂だったようだ。

 

 

これからも時々、訃報を思い出す事があって落ち込んで、言葉が出ない時もあるかもしれない。

でも、それと同じぐらい一杯笑って、一杯泣く。

サンドリでこれからもしつこくしつこく思い出トークを何度も繰り返し聞いて、喪失を再生させる。なくしてしまったモノに、記憶の中では何度も再会する事ができる。だから、これからも僕はサンドリを聴き続け、上島さんと再会していきたいなって、そう思ったんだ。

 

たそがれには 彷徨う街に

心は今夜も ホームに佇んでいる

ネオンライトでは 燃やせない

ふるさと行きの乗車券

ネオンライトでは 燃やせない

ふるさと行きの乗車券

中島みゆき「ホームにて」

 

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