社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

映画『ベイビーわるきゅーれ』感想。夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ

多様性の時代、 ライフスタイルが多様化し、トレンドが多様化し、思想が多様化している。その中でもただ1つ、皆が皆、老若男女問わず好きなモノがある。それは

 

明るく楽しい人殺し。

 

今更こんな説明もいらないと思うが、エンタメでは「命の価値が安ければ安いほどいい」「人は沢山死んだほうがいい」とされているのは一般常識である。道徳の教科書にも載っている。

それ故にジャンルとして「ナメてた相手が○○」が人気なのは当然ともいえる。

しかし、映画『ベイビーわるきゅーれ』は別に相手は言うほど主人公達を舐めてくれない。観客が、僕が彼女らを、舐めてかかり、実際にそのアクションを観て驚かされるのだ。

「これはやべーぞ」と。

映画チラシ『ベイビーわるきゅーれ』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚 

あらすじ

 

女子高生殺し屋2人組のちさととまひろは、高校卒業を前に途方に暮れていた・・・。
明日から“オモテの顔”としての“社会人”をしなければならない。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たち。
突然社会に適合しなければならなくなり、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど社会の公的業務や人間関係や理不尽に日々を揉まれていく。
さらに2人は組織からルームシェアを命じられ、コミュ障のまひろは、バイトもそつなくこなすちさとに嫉妬し、2人の仲も徐々に険悪に。
そんな中でも殺し屋の仕事は忙しく、さらにはヤクザから恨みを買って面倒なことに巻き込まれちゃってさあ大変。
そんな日々を送る2人が、「ああ大人になるって、こういうことなのかなあ」とか思ったり、思わなかったりする、成長したり、成長しなかったりする物語である。

 

日常要素

夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ。

というのは野原ひろしのウソ名言。それを相手に対して説教する感じで引用する嫌なリアリティ。いる。こういう人いる。正義の反対は悪なんかじゃないんだ。正義の反対は「また別の正義」なんだよとか言うタイプである。Twitterでそんな事真顔で言ったら笑われるか炎上するが、現実なら中々指摘できない。現実はクソである。クソ。『ジョジョ』知らないって言ってるのに『ジョジョ』のネタを喋ってくるタイプもいる。知らないネタを振られた時ほど面白くないことはない。『ジョジョ』ネタは国民全員知っていると勘違いしているオタクである。これもクソ。世の中はクソだらけ。

僕たちはそんなクソな社会とどうにかこうにか折り合いをつけて生きていかなければならない。

普通の人ならできる。自分の本心を隠し、社会の中で生きていく事が出来る。愛想笑いが出来る。

しかし、世の中でそれが出来ない人種もいる。それは時に社会不適合者や狂人と呼ばれたりする。

 

「ちさと」と「まひろ」

2人とも社会不適合であり、狂人である。

まひろはちさと以外とはまともに喋ることすら出来ないタイプの完全な社会不適合である。本作は本当に「コミュ障」の描き方がうまい。集団のパーティに馴染めない感じなんて僕そのものだったので観ていて共感性羞恥心が凄かった。そして心開いた友達が他の人と仲良くしていると嫉妬心が生まれるのも分かる。分かりみしかない。

反対にちさとは一見、他人とコミュニケーションを取れているように見えるが、自分の中の怒りを制御できずに暴力が出てしまうことがある。

そんなアッパー&ダウナーな性格真逆の女子2人が社会で生きるため共同生活していく。

f:id:Shachiku:20210822220156j:plain(C)2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

その日常が本当にいい。日常系アニメを観ているようなゆる~いほのぼの感。

そんな日常の中に2人とも「死」を覚悟しながら生きているので、冷蔵庫にケーキ入れて帰ったら一緒に食べる約束したりする。

なにより2人の

「これひぐらしの奴じゃん!」
「そう。Amazonで買っちゃった~!魅音が爪剥がしたヤツ」
「それ詩音じゃなかったっけ?」

というサブカルチャーの固有名詞がバンバン引用される掛け合いが最高で、続編があったら、深夜のロイヤルホストでグダグダ喋るだけの内容でもいい。(ちなみに爪剥がしは現在放送中の『ひぐらしのなく頃に卒』で両方ともになったという謎のシンクロ

 

決して百合ではない2人の関係。しかし、殺し屋としての相方だけでなく、日常を共にするパートナーとして大切に想っている関係性は観ていて胸の奥底が熱くなる。いつどちらかが欠けるか分からない。その覚悟も出来ている。それでも相手がいるこの瞬間を全力で生きている。生きている。そんなん好きになるだろ!!!

 

アクション要素

アクション監督の園村健介は、ゲーム『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』や『デビルメイクライ4』などでもアクションコーディネーターを務めた実力派。

現役のスタントマンである伊澤彩織が演じるまひろはとにかく速さと小回りで相手を圧倒する戦い方を魅せてくれる。特にラストのタイマンは絶体絶命ながら見どころ満載だし、最後の頭突きもお見事。

人の命が軽いアクションは最高である。死ぬ時に「うわぁぁぁぁぁぁぁ」って絶叫したり、誰かが泣き叫ぶシーンがないだけで大分気持ち良く見れる。

 

 

それにしても男に「ケツ突き出せ」って言われた時にも、素直に応じるのではなく、言った相手をぶっ殺したのは良かった。ああいう時はちゃんと殺せるようにした方がいい。殺したい時に殺してくれる。

 

最後に

殺し屋の仲介屋みたいな眼鏡も好きだし、敵のヤクザたちも最高で、メイド喫茶で「にゃんにゃん」ってしながら突然ブチ切れるのは予定調和ではあったが、やはり笑ってしまう(映画館でそのシーンを観て笑っているの僕だけで恥ずかしかった

監督、脚本の阪元裕吾はまだ25歳と知って「マジか!!!!」ってなったけど、これからは年下の監督も一杯出てきそうである。覚悟をしなければならない。

 

最後に一言

マシンガン撃った後に「カ・イ・カ・ン!」を言わなかったのは英断!