大量殺人、悪魔のせいなら、無罪
ある日を境に、目の前で恐ろしい殺人を目撃するという「悪夢体験」に苛まれはじめるマディソン。予測不能な素早い動きと超人的能力で、人々を殺していく漆黒の殺人鬼。彼女が夢の中で見た殺人の数々は、現実世界でも起きてしまう――。 殺人が起きる度、マディソンはリアルな幻覚かのように殺人現場を疑似体験し、少しずつ自身の秘められた過去に導かれていく。そして、ついにその邪悪な手がマディソンの元へ届くとき、その“狂暴な悪夢”の正体＝G が明らかに…!?
・ジェームズ・ワン監督と言えば抜群のカメラワーク演出だろう。本作でもカメラワークとアクションの組み合わせでここまで観ていて気持ち良くなれるのかと驚くばかりだ。
特に序盤のマディソンが家の中を走りまわるシーン。
このシーンは、部屋から部屋へと次々に移動していくにもかかわらず、彼女の背中からだけでなく、天井からのショットで切れ目なく彼女の動きを捉え続ける。他にも洗濯機からババァ博士の殺人現場へと切り替わる大胆さだったり、警察署内での大量殺人シーンの見やすさだったり、ああ～このカメラワーク気持ちいいってなる。
『G.I.ジョー：漆黒のスネークアイズ』観て実感するが、意図が分からないカメラワーク演出は観ていて苦痛。せっかくの盛り上がるアクションでも強烈なデバフがかかってしまう。
黒澤明監督もこう言っていた。
「キャメラは止まるべきところで止まって、動くべきところで動くのが正解だろ？」
ジェームズ・ワン監督のカメラワーク演出はまず見やすく。そしてアクションが強調される計算された角度。何よりもこちらの予想を超える演出。それらが当たり前のように観客に目の前で繰り広げられるのだ。BGMの良さも相まって、ずっと観ていたい気持ちになってくる。
・イケメンの刑事が犯人を追うチェイスシーン。こんなイケメンでキャラ立ちしている刑事さんでも、サスペンススリラーモノで犯人を1人で追いかけるもんだから、 「馬鹿野郎！！なんで一人で追いかけた！こんなん絶対に死ぬや奴！死亡フラグが凄い！」からの死なない。あの刑事、最後の最後まで強過ぎる。
また、妹がマディソンの出世の秘密を知るために1人で怪しい病院に行くシーン。「馬鹿野郎！！なんで一人で行くんだ！！絶対に襲われる奴～～～～～～～～～」からの特に何もなく無事生還。あと、崖ギリギリで車を止めるあの妹さん、肝っ玉が凄い。
・開幕から何度もギアチェンジしている本作だが、留置所での脳みそガブリエル覚醒シーンからのフルスロットルさが、本当に最高である。ガブリエルのビジュアルは脳が顔なので、人体の前後が逆になっててロングコート着てるだけの逆さま怪人のアクションがこんなにカッコイイの嘘でしょ！？ってなるけど、本当にカッコイイ。
キレキレのカメラワークによる殺戮アクションに勝るエンタメってあるのだろうか、否ない。つまり、本作は最高のエンタメ作品なのである。
・ガブリエル
本作はガブリエルの復讐モノとしての側面もある。
レイプによって生まれ、父親は不明で、母には「育てきれない」と捨てられ、双子で同一のマディソンには悪魔と言われ、医者たちからは寄生性双子児の中の悪性腫瘍、つまり人間ではない扱いされ、排除されたガブリエルの復讐である。
ガブリエルだって自分も死にたくないという生物の本能からマディソンから栄養吸収するしか方法が無かっただろうし、自分の見た目が他とは違うのも悩んでた時期だって絶対あっただろうけど、それで自分を悪性腫瘍呼ばわりされて封印されたらたまったもんじゃないだろうよ。脳みそに押し込む雑さは何だよ。
ここら辺の心情は萩尾望都先生の傑作短編である『半神』を読めばより解像度上がると思う。
ガブリエルは母親を殺そうとするけど、母親が「あなたを愛せば良かった」と言った後のガブリエルの、あの間。あの間こそ、ガブリエルの人間味を感じて良かった。
しかし、一番の巨悪はレイプ犯の父親である。次回作があればマディソンとガブリエルが手を組んで父親と戦う話が観たいな。
それにしてもこのガブリエル、DVされて目が覚めたと思ったら無駄にミキサー操ったり、冷蔵庫開けたりしてビビらせるのお茶目さん。
・元の人格が「乗っ取られる」という展開は、『アップグレード』に似てるし、やはりワン監督、元相方のリー・ワネル意識してそう。
・最後、ハッピーエンド風の終わったけど、あんなに大量に人を殺しておいてマディソン死刑じゃね？という疑惑。それこそ、精神的病気で攻めるか、腫瘍のせいなら、無罪でいくしかない。『死霊館』コラボしてウォーレン夫妻の子供が出たりする続編。
わーわー書きましたが、以上です。
