社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

映画『イニシェリン島の精霊』を観ての感想というか

パードリック(コリン・ファレル)のことを退屈だと告げるコルム(ブレンダン・グリーソン)。

パードリックのロバの糞の話を延々と聞かされる時間で自分は音楽をやりたい、残された時間を有意義に使いたい。だからこれ以上自分に関わるなと告げるコルム。
しかし、納得できないパードリックはコルムにしつこく関わっていき……絶望的な亀裂が生まれるという物語。

 

 

『イニシェリン島の精霊』で色々な人の感想やレビューを見てみるとパードリック(眉毛で感情を表現する人)のことを「Twitterにいるクソリプ飛ばす人」「馬鹿」「ああはなりたくない」という表現が多くて気分が落ち込んでしまう。多分世の中には孤独を楽しめるコルムや教養のあるパードリックの妹のような人が多いのだろう。

僕は本作を観て、コルムでも、妹でもなく、パードリックに対してどことなくシンパシーを感じてしまう。

 

 

まず、僕には面白エピソードトークなんて出来る自信はない。

最近あった出来事や自分のことを整理しながら喋れる人マ~~~~ジでスゴいと思う。

会社の飲み会とかでも仕事出来る大人はエピソードトークも滅茶苦茶うまくて場を盛り上げるので凄いな~~~と感心するし、僕も話を振られて何か言おうとしてグダグダになってしまってツッコミという名の合いの手で笑いが生まれて早々に僕のターン終わる事が殆どである。何ならトークせず他の人に話を振ってしまう。

もう少し心開けれる、例えば学生時代の友達と会話すると最近の近況とかを山なしオチなしでグダグダ話せるけどロバの糞の話を何時間もするパードリックと同じである。「お前の話つまらん」と言われたら泣いちゃう。 

 

「ゆる言語学ラジオ」のポットキャストを聞いていても「学のない人との会話はツマラナイからしない」みたいな発言は聞いていて笑えるけど、胸に刺さるモノを感じてしまう。僕は学のない側なのである。しかし、学を身につけようと努力することなく今日もTwitterを何時間もスクロールしてしまう。

そして教養ポッドキャストやYouTubeを見たり聞いたりしては知的好奇心が満たされた気持ちになってそれだけで満足してしまう。本当は右から左に聞き流してるだけで何も得ていないのに。体系的に何も学んでいない。何も学んでいないんだ。

 

 

コミュニケーションが下手なら下手で、まぁ1人で生きていけば良いだけなのだが、本当に孤独を愛せる人なんてどれだけいるのだろう。

コロナ渦になり、Twitterで「他人と関わらないと生きていけない人が意外と多い事を知った」みたいなツイートがバズったことあった。僕も基本的に1人でも生きていけるタイプだけど、どうしようもなく人肌を恋しくなる時がある。枕を涙で濡らすことがある。僕には本当の意味でも孤独は無理だ。だからこそTwitterに逃げている側面もある。

↑僕も眉毛動くなら毎日こんな顔になる

 

 

話は飛ぶが、「ぼっちとひとり好きは違う」という『ぼっち・ざ・ろっく!』での後藤ひとりの台詞をご存知だろうか。知らない人は名作アニメなので是非見て欲しい。

www.shachikudayo.com

 

バンドのベース担当で、クールで孤高なキャラの山田リョウが友達少ないと聞きシンパシーを受ける後藤ひとりだが更に「休みの日に1人で廃墟を探索したり、古着屋を回ったりする」という話を聞き、それは「1人でいるのが好きなんだ」「コミュ障は1人で服屋に入れないし」と、後藤ひとりはリョウとの違いを痛感する。

「ぼっちとひとり好きの間には、決して埋めることのできない深く大きな溝がある」と。わかりみが深い。

しかし、そのぼっちの中でも格差はある。

僕は最初、後藤ひとりにシンパシーを感じた。しかし違った。それは限りなく近く、極めて遠い存在だった。後藤ひとりはギターという朝から晩まで熱狂できるモノを持っていた。僕にはそんなモノはない。それはきっとパードリックも同じである。

 

コルムは1人でも音楽と、思慮と共に生きていけるタイプなのだろう。更に周りからも一目置かれているので1人で酒を飲んでいても段々と人の輪が出来てくる。

しかし、パードリックは違う。違うのだ。周りからバカ扱いされており、友達もいない。友達がいなくて別に良いのではなく、いて欲しいのにいないタイプなのである。そして何故出来ないのか自分で理解出来ない。

完全に僕もそうである。特に学生時代なんて周りを見下していたけど何かのきっかけで話す事があるとテンション上がってしまうタイプだった。そして失敗して布団の中で悶絶するタイプ。

成長するにしたがって自分の中で諦めの境地を手に入れ、周囲とのコミュニケーションを取らない自分に麻痺していくことになる。1人が好きだと思い込むようになっていったのだ。

そんな状況の中で、僕なんかと会話してくれる存在が出てくるの……そりゃ……滅茶苦茶嬉しい。パードリックにとってのコルムがそうなのだろう。

しかもコルムはパードリックにとって「ランクの上の人」

そんな人が自分の会話を聞いて友達になってくれる。それはまるで自分のランクも上がるような感覚。

 

それが急に「拒絶」

見捨てないでやってくれよ~~~~~となる。ぼっちちゃんが急に結束バンドから「もう要らないから」と宣告されたような感覚である。

俺にはお前しかいないんだぞ!?お前と違ってこっちは音楽も出来ないし本も読まない。独りで創造を楽しむことも出来ない。孤独を楽しむ事ができず、自分で自分を楽しむ術を知らず、救う方法を知らないんだぞ!?

そんな嗚咽は誰にも届かない……。

 

 

最後に

パードリックが自分より阿保だと思っている人と絡む事が多いのリアル過ぎて辛い。小学生の時の僕やん……。

 

コミュニケーションについてグダグダ書いたけど、そもそもあんな小さな島で毎日顔合わせてたら誰だって会話の内容なくなるのは当たり前では!?そりゃ会話のテクニックが必要ないゴシップや他人の悪口ばかりなる訳である。

 

Twitterで毎日どこかしら炎上する理由が分かりましたね。やっぱりみんな出て行くしかない。