社会の独房から

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【ネタバレ】ジブリ映画『君たちはどう生きるか』感想。これは糞映画である。間違いない

蓋を開けてみると

宮崎駿の説教1性癖99ぐらいの割合

 

「えっ!!ジブリ映画もう公開したの!!??」ってなっているあなた。そうです。2023年7月14日、本日公開されました。

映画『君たちはどう生きるか』は宣伝自体をやってないのだから、映画に対してアンテナが高い人以外は「えっ!!!今週公開するの!!??」となっていてもおかしくない。正気とは思えない。その割にはあまりにも説教臭いタイトルのせいでネットの評判は良くない。

 

映画館での予告、テレビCMや新聞広告も公開前には出さないことをスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが明言しており、パンフレットすら公開日には販売しない徹底ぶり。公開日になって主題歌を米津玄師がやりま~~すとか、 カヘッカヘッカヘッとか鳴いているだけ。

内容を伏せるのは最近でも『THE FIRST SLAM DUNK』があったが、これは内容を伏せていただけで、映画をやることの宣伝自体は普通に力をいれてやっていたので『君たちはどう生きるか』と似ているようで全然違う。

タイトルが『君たちはどう生きるか』なのに吉野源三郎氏の小説『君たちはどう生きるか』のアニメ化ではなく、物語は宮崎監督による完全オリジナルな時点で吉野源三郎氏は地獄から怒っていい。

 

 

このなにも知らない状態で映画を鑑賞するという体験に僕はあまりにもワクワクし過ぎて公開日に有給を取って観に行ったのでここからはネタバレありで感想を書いていきたい!!!

 

 

物語の完成度は決して高くはないが、好き

事前に内容が伏せられていたのでどんな変化球が飛んでくるのか、宮崎駿の実写による説教タイムはあるのかワクワクしていたが、監督の趣味は全開だけど話はほんとお手本のような児童文学って感じで悪く言えば今時凡庸である。現実で辛いことがあり、異世界に迷い込んで成長して戻るという王道。

 

宮崎駿といえば戦車とか飛行機のイメージが強い人も多いと思うが、児童文学もこよなく愛している。

著書で児童文学の持つ意味について以下のように語っている

何かうまくないことが起こっても、それを超えてもう一度やり直しがきくんだよ、と。たとえいま貧窮に苦しんでいても、君の努力で目の前がひらける、君を助けてくれる人間があらわれるよ、と、子どもたちにそういうことを伝えようと書かれたものが多かったと思うんです。(『本へのとびら』p162)

 

要するに児童文学というのは「どうにもならない、これが人間という存在だ」という、人間の存在に対する厳格で批判的な文学とはちがって、「生まれてきてよかったんだ」というものなんです。生きててよかったんだ、生きていいんだ、というふうなことを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学が生まれた基本的なきっかけだと思います。(『本へのとびら』p163)

 

まさしく映画『君たちはどう生きるか』のテーマ性だと思うし、僕も小さな時から図書館で児童文学読むのが好きだったから最高級のアニメーションで児童文学の世界やってくれて幸せしかなかった。

本作の主人公である眞人は母親の死や、父親の再婚、その相手が母親の妹であること、周囲と違う裕福な自分などで現実が辛くなり、学校に行くのが嫌で自分で自分を傷つけたり、新しい母親である夏子を避けたり、森の中に入っていくのを見たのにそのままスルーしたり、小さな小さな罪悪感を持ち続けてますます現実が、自分が嫌いになっていく。それでも異世界の冒険を通して、友達を持つことの楽しさや、母親のことなどを知り、悪意のない世界よりも悪意や罪悪感に苦しんで、でもその苦しみこそがこれからの自分の背中を押してくれる。そんな現実を生きていこうとするの……良いよね。

眞人が夏子を助けに行く行動原理。それは森に行くところを見たのにスルーしてしまった罪悪感と、今度こそ正しいことをしようとする意思だと思う。

 

 

そんな児童文学の良さに加えて本作が稀有なのは、やはりあのラストだろう。

 

 

宮崎駿「おれはこう生きた」「君たちはどう生きるか」

やっぱりどうしても大叔父様と塔に宮崎駿とジブリのメタファーを感じてしまう。今までのジブリ過去作をふんだんに取り込んだ世界の冒険や、大叔父様=宮崎駿は自分で作った積み木の世界が壊れるのが嫌だから吾朗に後継者になることを望むけども、吾朗をそれを望まず、宮崎駿もそれを受け入れ感謝の言葉を述べながら退場し、最後はジブリ全部倒壊させるの最高に宮崎駿って感じで解放感のある良い終わり方だったと思う。これが最後なんだな……ってなる。それはそれで宮崎駿の次回作はいつですか!!??

 

 

細かな好き

  • 前情報なしでいきなり戦争シーンはかなりワクワクしたからこれこそが見たもん勝ちってやつ
  • 最初の火災シーンの作画だけ別の凄味に溢れすぎていて、その後が淡泊に感じてしまう奴。あそこは大平晋也さんパートなんかな
  • 「廊下の奥でなんかうごめいてる…?」って不気味に思ってたらカバンに群がるババァたちだった。ババァが出てきた瞬間あれ?もうファンタジー入った?ってなるぐらい初登場時のババァたちの田舎のお屋敷に住み着いたお手伝い妖精っぽさすごいし、しかし、ただのババァである
  • 最初の方の不気味なシーンは眞人の不安を反映してあんな感じになってたのかな。マジでしばらく眞人まともに喋らないし、ババァたちもすごい不気味で子供の頃見たら怖かっただろうなって思う。タバコのわいろ渡して弓矢作るシーン当たりからあのババァたちもいい人に見えてきたしそのへんの見る側と眞人の気持ちがリンクしてる感じが気持ちよかった
  • 本作のヒロイン四天王。実の母親、ババァのキリコさん、アオサギのハゲ鳥、残り6人のババァ、インコたち
  • 本作のマスコットは精子くん。グッズ化されて女性に人気出そう。精子なのに……
  • 包丁を隠し持ったり、包丁を研いだり、感動して泣いたり、本作一番不気味で可愛いのはインコ
  • 本作、糞映画でもある。父親に糞を!義母に糞を!眞人に糞を!
  • お父さんはダットサンで送り迎えするし怪我させられたらダットサンでダッシュで帰るしババァ達には敬語を使うし碌な教育もしない学校に300円寄付して妻と息子が神かくしにあえば武器と明治チョコレート持って勇猛果敢に挑み糞まみれになっても再び来てくれるエネルギッシュで素敵なお父さんなのに滅茶苦茶観客から嫌われそうである。確かに奥さんが死んだらその妹に手を出すの、現代価値観で言ったら気持ち悪いけども、昔は普通に死んだ親族の姉妹が後妻に入るのよくあるらしい
  • ただ父親が再婚して相手は母そっくりの妹で妊娠中とか思春期の少年には感情の処理できねえよ!
  • 眞人はなかなか覚悟ガン決まりで好きなタイプの主人公ではあった。自分の周りうろつく気持ち悪いアオサギいるな→始末してやるって思考は大人しそうな風貌から予想できない鋭さがあって好き
  • それにしても、夏子さん。眞人のお見舞いにくる所で夏子さんの左手の薬指見せつけながら傷撫でるのだいぶスケベぇだった
  • 夏子さんは眞人に嫌われたのを知って自ら異世界に行って、眞人を帰らせるためにあんな「嫌い!」みたいなこと言ったんだろうなぁ
  • 『君たちはどう生きるか』のタイトル回収する原作本、せめて最後まで読もう!!!
  • エンドクレジット

菅田将暉!?

柴咲コウ!!??

あいみょん!!!!?????

木村拓哉!!!!!!????????

ってなった。というか木村拓哉、声優としても池田 秀一の後釜いけそう

 

 

 

最後に

全体的に千と千尋で一番好きなシーンは電車のとこ!って人にオススメできる映画。

あと、こんな世界継がねえよって話とかダークソウルに通じるものあって興奮する。

限界のきてる世界を継ぐ灰の人

エンチャントファイヤ母ちゃん

 

 

鑑賞中は確かに退屈に感じる時もあったけれども、鑑賞後に自分の中で咀嚼していく内に好きって気持ちが強くなっていっている。鑑賞中は面白!ってなっても時間が経てば冷めやすい僕に取って珍しい映画というか、自分の中でうまく咀嚼出来ない「変さ」が僕の好きな出汁を出している気がする。それは愛嬌、思い入れと言っても良いのかもしれない。

 

本作を全然面白くないって意見も分かるし、完成度が高いとも思わないけども、宮崎駿が好きにやった感じが良いよねってなる。現代ではジブリよりジブリに影響を受けた世代のクリエイターが創造した作品の時代になっていて、宮崎駿の時代は終わってしまった感はどうしてもあるけれども、それでも、同じ時代に少しでも生きることが出来たのは幸せだったとしみじみ嚙み締めるような、宮崎駿のエンドロールのような映画だった。