大昔に『2001年宇宙の旅』という名作SF映画があったのですが、これがまた中々難解な内容と素晴らしい映像美の映画で、後生の作品に多大な影響を与えた。
この『海獣の子供』は『2001年宇宙の旅』をこの令和の時代に全く薄める事をせず原液のままでドーンとコップに注いでいる映画であり、あまりに濃い味にむせそうにもなるが、それが癖になる(洗脳される)そんな映画だと思う。観る前はショタが可愛いとか米津玄師さんの曲楽しみとか色々考えてたけど観終わった後は『海は空、空は海、地球は子宮、人は乳房、我は宇宙……』だけが頭の中でこだまする。
今回はこの映画の感想を書いていく。
圧倒的映像美とスピリチュアルな暴力
原作は五十嵐大介さんの『海獣の子供』今回のアニメ映画版の制作を担当したのが、『鉄コン筋クリート』や『ハーモニー』などでも知られるSTUDIO4℃。監督を務めるのは、ドラえもんシリーズ、アニメ『謎の彼女X』や『恋は雨上がりのように』などでも知られる渡辺歩さん。主題歌は米津玄師さんが担当している。
原作は5巻まで出ているモノを映画版では2時間にギュッと納めているため、元々原作でも難解だった内容は更に難しくなっており、「考えるな、感じろ」である事は間違いない。
ただ、本当にアニメーションのクオリティは素晴らしく、
まさしく「アニメーションに飲み込まれる」
スクリーンに映し出される雄大な海とそこに生きる生き物の描写・映像に感動するし、テンポを犠牲にしてまで何かあるといちいち動物たちのカットを挟んでくる姿勢は制作者の意気込みを感じる。
深海と浅海を描き分け、生き物の躍動感と“生命そのもの”を描き出すような映像だけでも十分な魅力がある作品。
特にラスト近くは『2001年宇宙の旅』のスターゲートよろしく、幻想的で圧倒的なスピリチュアルの暴力的映像美に酔いしれながら眠気を誘う。
確かに映像は凄いのだが、結構冗長で「あ、終わったか。いや、まだあるな」というツッコミを3回ぐらいした。全体的に丁寧だがテンポは良くない。そこにも『2001年宇宙の旅』を感じる。
本作のメインキャラは主役の女の子の他にショタの男の子が二人いるのだが、二人ともタイプが違うが可愛く、主役の女の子も可愛いのでただただ三人の動きを観ているだけでも幸せである。私はショタ好きではないが、本作は本当に可愛い。目覚めそうだし、製作陣は絶対に狙っていると思う。比喩表現が多くて話は分かり辛いが、本筋は少女だった主人公が一夏の冒険を通して成長する。そんなよくある話を生命の誕生から宇宙の秘密、人類の意味などここまでのスケールにさせるのは凄い(素直に褒めている)
また、原作では「波打ち際で生と死が入れ替わる」という台詞がある。これは異界と現世、此岸と彼岸は命を行き来しているということ、それが誕生と死であるという事がわかるのだが、映画では主役の琉花が波打ち際で倒れている海に対して助けるためには水に引き込むか浜に引き上げるか戸惑うシーンで原作の内容を独自に解釈していたり、映画初見でも楽しめるが、原作を知っているとその違いをより楽しめる出来になっていると思う。また、原作では「女の体は彼岸から命を引き込む通路」という内容を理解するためには必要な台詞があるのだが映画では尺の都合かカットされていたりするし、より話を理解するためにも原作は興味を持ったなら1度読んで欲しい。
芦田愛菜さんと稲垣吾郎が凄い
芦田愛菜さん演じる主役の琉花を筆頭にメインキャラはみんな上手い。というか芦田愛菜さんは演技も上手くて勉強も出来て、完全無欠では?この先どれほどの活躍を我々に観させてくれるのか楽しみだ。
また、稲垣吾郎さんなんて本当に稲垣吾郎さんと分からなくてエンドロールで稲垣吾郎さんの名前見つけてビックリしたほど。
稲垣吾郎さん、恐らくシンプルに演技が上手い人なんだなという印象を持った。個人的には稲垣吾郎さんが演じた役は『一三人の刺客』が一番好きだったが、本作はああいう狂人ではなく、普通のお父さん役である。ただ、仕事に逃げて、家庭や妻の問題に直視出来ない所があったが、娘が成長していく中で、父親も父親として成長し、家庭を再び取り戻す。稲垣吾郎さんはそんな父親をそっと優しく演じきっている。
ただ、脇役ではあるが、尼神インターは二人とも酷かったし、アニメは洋画と違って字幕に逃げられないんだから、声優選びは考えて欲しい所。しかし、芦田愛菜さんと稲垣吾郎さんは凄い。
最後に
個人的に『君の名は』以降、単発アニメ映画でも映像だけが凄いのではなくて内容もエンターテイメントしていて面白い作品が劇的に増えたイメージがある。
そんな中、本作はエンターテイメントというより100%のスピリチュアルであり、殆ど宗教である。観た後の感覚は何だか一昔前のアニメ映画を観た感覚で、令和になってもこのような感覚になるとは思っていなかったので新鮮で中々良いモノである。
あなたもスピリチュアルの波に溺れて欲しい。