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実写映画『嘘喰い』感想。ツインデレヤンキー時々ハーモニカ

イマジナリーハーモニカ商法

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嘘を見破れなければ、即死──。天才ギャンブラー“嘘喰い”こと斑目貘が、日本の政財界そして裏社会をも支配する会員制の闇ギャンブル倶楽部“賭郎”に挑む。待ち受けるのは、賭郎の会員権を所有する一流の権力者にして欲望にまみれた凶悪なイカサマ師たち。嘘 vs 嘘。イカサマも、殺し合いも、なんでもありの≪超危険なデス・ゲーム≫に没入せよ。(公式HPより)

 

 

 

某あとしまつではないが、映画というのは監督の色が出やすいエンタメである。

例えば人間の機微な感情の揺れ動きや徹底的に完成されたプロットの映画で感動したい気分の時にマイケル・ベイ監督の作品を観て「こんなん思ってたのちゃう!!!」とか言い出す奴は阿呆である。血とメカと爆発が大好きな精神年齢9歳に戻りたい時に観るのがマイケル・ベイ作品である。

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↑あの建物爆発させようと指示していると思われるマイケル・ベイ監督

 

 

では今回取り上げる実写映画『嘘喰い』の監督である中田秀夫の色とは何か。

 

それは「40点」である。

 

2002年の名作ホラー『仄暗い水の底から』以後、『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』『クロユリ団地』『MONSTERZ モンスターズ』『劇場霊』『スマホを落としただけなのに』『貞子』『スマホを落としただけなのに2』『事故物件 恐い間取り』など毎年のように映画を作るが、どれもこれも出来として40点。この世の終わりのようなクソさではないけど、間違っても普通の人に勧める気にはなれないレベルの映画を大量生産している。そんな低空飛行を続けているのが中田秀夫となっている。

あまりにも安定した40点映画を作り続けるものだから、ネットの片隅で土手下にあるプランターをどかしたらワシャワシャ動き出す蟲のように生息しているボンクラ映画ファンには地味に愛されたりもしているが、そんな監督に映画化される原作ファンは堪ったものではない。ボングラ映画好きは原作ファンから刺されても文句は言えない。マイケル・ベイ監督が劇中で火薬使うぐらい決まりきった40点なのだから。

 

そんな実写映画『嘘喰い』ここからはネタバレありで書いていきたい。

 

原作との違い

最初にハッキリ書いておきたいのは、漫画やアニメの実写化をする時に単に原作のキャラデザをそのままコスプレすればいいという訳ではない。

原作のキャラがピンク色の髪だからってそんな色のカツラを被る必要はないし2次元特有の変わった制服を着ていたからってそれを忠実に再現する必要はない(ただし、アダルト動画の時は除く。付け加えるなら最後まで服を着ている事。頼む

現実にいても違和感ない程度のリアリティーと映像と役者に馴染みながらも原作へのリスペクトを感じるルックスが何よりも大事だと僕は考える。

 

その点でいえば本作は悪くない。

主人公の斑目 貘を演じる横浜流星は原作同様銀髪ながら決してコスプレではない見た目とたたずまいに仕上げており、原作への愛と、この作品に懸ける魂を感じる。

また夜行さんはじめ立会人の雰囲気も良く、何よりもお屋形様こと切間創一を演じる櫻井海音が完璧。冒頭のルービックキューブカチャカチャするところとか「こいつ頭良いキャラなのに全然ルービックキューブ完成しねーな」と観客に笑いと油断をさせつつ、展開が進むと暇つぶしは終わりだと言わんばかりに一気に完成されて「うぉー-------!!!!」となるあの凄み。喋るとちょっと「うーん」となるけどほとんど喋らないから問題なし!!!

 

ここまで褒めてきたが、問題点もある。白石麻衣が演じる鞍馬蘭子である。全くの別人。オリジナルキャラクターである。

 

確かに原作の『嘘喰い』では明確なヒロインキャラは存在せず、誰がヒロインなのか日々不毛なレスバがある作品*1ではあるが、中田秀夫は鞍馬蘭子というキャラクターを本作のヒロインとして再解釈して創造している。

どういうキャラ変したかというと鞍馬蘭子は口は悪いが斑目 貘の事が好きというツンデレキャラになっているのだ。そこに蛇の牙はない田舎に住んでいるツンデレヤンキーである。

 

斑目 貘に利用され、家に居候されたり、お願い事を言われると嫌々言いつつ助けてあげちゃうのだ!!好きだから!!!誰だお前!!!!!

一方的な勘違いベッドシーンもあるが、パンフレットで白石麻衣はこう言う。

 

あのシーンを撮る時、中田監督がすごくニコニコされていて(笑)どうやら監督はラブシーンがお好きみたいです。「本当は、こういうシーンも一杯撮りたいんだけどね」と仰っていました。

 

キモ!!となってしまった。

そういえば『スマホを落としただけなのに2』でも無駄に白石麻衣が襲われ、衣服がはだけるシーンがあったりしたので

www.shachikudayo.com

中田秀夫白石麻衣に対する歪んだ愛情が作品のクオリティーを下げている説を僕は推したい。

ちなみに白石麻衣中田秀夫の印象を聞かれたインタビュー内容が『スマホを落としただけなのに2』の時と何も変わっていないのが「興味ないんだな」とちょっと面白かったりする。

 

その他

 

  • 冒頭に斑目 貘が屋形越えに失敗して田舎で隠居している所になぜか賭郎のことを知っていて現状にも詳しい情報通の名前のないモブが登場したけど、あいつ結局何だったんだ?斑目 貘の食っていたラーメン横取りするぐらいの関係性だったのにそれ以降出番ないの……何……?
  • 嘘喰いといえば名台詞「食ってやったぜ……あんたの嘘」を連呼することで嘘喰いと呼ばれるようになったのはファンの間では有名ですよね。
  • 本作は佐田国戦まで原作のストーリーラインをなぞっているが全体的になぞっているだけ感が凄い。
  • ロデムになぜか15分の活動限界設定と、マルコが料理上手など色々変わっている。予算がないのも影響してそうだがマルコが仲間になった後、戦闘しないまま終わってしまい、彼の存在意義が分からない。映画『エターナルズ』の最終決戦で「俺はこんな戦いから降りさせてもらう」と言ったキャラがそのまま本当に戦闘に加わることなく終わったの「多様性で素晴らしい!」と一部界隈から褒められていたので、あんまりここを文句言うと差別者扱いされそう。しかし、佐田国戦で斑目 貘と梶ちゃんだけが登場した時は原作同様裏でマルコが活躍すると思いきや登場すらせず、佐田国戦がメインならマルコ丸々カットでも良かったと思う。
  • カイジ』『賭ケグルイ』と違い、暴力パートも嘘喰いの魅力なんだから、もう少しアクション増やして欲しかったが、予算なさそうである。劇中ではあんなに大金が動くのに。
  • 佐田国テロリストから正義の復讐者へ変身!!逆にそこまで良い人にするならハングマンで殺すなよ。原作通りの巨悪だったQ太郎ですら死んだ描写ないのに……。佐田国の側近の女性が最初土屋太鳳に見えて「ここにこんな大物だすの!?」と思ったけど、服装が変わると全然違う。僕は土屋太鳳を服装で認識しているのかもしれない。
  • 女っけなさ過ぎるせいか、古参の立会人会議に割り込んでくる亜面。
  • 佐田国が死ぬ前に斑目 貘に会員権を譲るのはそれまでの設定をぶん投げてておかしくないか!?映画がもう終わるからって何しても良いのか!?

 

最後に

news.dwango.jp

台本にあった貘がハーモニカを吹くシーンが、横浜の「貘の持ち物はカリカリ梅だけ」という原作へのリスペクトでなくなったというエピソードを明かす。「いい意味で近年稀に見る頑固者。実はほかの俳優さんがハーモニカを吹いたんですがそれもカットしたので、彼が正しかった」と、横浜のこだわりように一目置いていた。

なぜそんなに中田秀夫がハーモニカに執念を持っているのか不明だが、それを断った横浜流星は出来る男と言わざるえない。

しかし、このハーモニカのインパクトは強く、僕は映画を観ている時、カリカリ梅が出てくると脳内でハーモニカの音色が流れて笑いを堪えるのが必死だった。

 

出来上がった映画にはハーモニカは出てこない。

しかし、一度没になったという経緯を知ると勝手に脳内でハーモニカが登場してしまう。本当に劇中でハーモニカが出てくると流石に批判轟々だが、イマジナリーハーモニカなら作品のクオリティを下げることなく、観客に笑いを提供する事が出来、更にイマジナリーハーモニカを体験したいと観客の動員に繋がる。そして原作ファンにもハーモニカ出てこない事で無駄に高評価。

 

これが中田秀夫の戦略だったらどうだろう。

役者に断られること前提に提案し、その面白出来事をジャパンプレミアで発言することが思惑通りだったら?

日本人総イマジナリーハーモニカ計画。

 

流石、長年邦画の第一線で活躍している映画監督は集客に繋がるあらゆる術を知っていると驚愕せずにはいられないと言おうか迷ったけど、そもそも前提として少しは60点ぐらいの映画作ってくれ~~~~~~。

 

 

 

*1:僕は梶ちゃん派