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アニメ映画『HELLO WORLD』(ハローワールド)感想。京都タワーはブン投げる為にある

「この物語はラスト1秒でひっくり返る」は流石に言い過ぎではないかと観る前から不安になり、『海獣の子供』『天気の子』『プロメア』『スパイダーバース』など作画も演出もクオリティが化け物なアニメ映画が続出している2019年のアニメ映画界で「このCGクオリティで大丈夫なのか」と予告映像を観て更に心配になっていたアニメ映画『HELLO WORLD

 

所謂「君の名は。以後」の作品であり、『HELLO WORLD』の公式HPにも『君の名は。』の名前があるし、パンフレットを読んでもプロデューサーの武井さんが『君の名は。』以後、東宝社内で求められる企画が変わり、それまでに脚本家の野崎まど先生と進めていたオリジナル企画が没になったと生々しく語るほどである。昨今、どう考えても『君の名は。』の影響受けたやろこれと思ったアニメ映画でも、インタビューなどを読むと『君の名は。』の前から制作していたし、影響は受けてないと否定される事が多かった中、この映画は潔い。

 

そんな『君の名は。』に影響うけて、エンタメ度が上がり、青春SFデートムービーみたいな顔しているのに、ゴリゴリハードSFアクション全開なのが野崎まど先生!!!!って顔をしてしまう本作の感想をネタバレ全開で書いていきたい。

映画  HELLO WORLD 公式ビジュアルガイド

スタッフとBGM

監督は『時をかける少女』や『サマーウォーズ』の助監督として細田守監督作品に携わった経験を持ち、『世紀末オカルト学院』で監督デビュー。近年は『ソードアートオンライン』シリーズや『僕だけがいない街』の監督に抜擢され、注目を集めているのが伊藤智彦さん。

 

脚本は『[映] アムリタ』などで知られるSF作家の野崎まど先生。

アニメ『正解するカド』で多くのアニメオタクをビックリさせたり、ガッカリさせたり、失望させたり、怒らさせたりしたので、アニメオタクの人達の間ではあんまり良い印象はないのかもしれない。ただ、本作は『正解するカド』で負の感情持った人でも楽しめると思うので期待して欲しい。

 

キャラクターデザインに『けいおん!』や22/7(ナナブンノニジュウニ)などでおなじみの堀口悠紀子さん、音響監督に『ガールズ&パンツァー』シリーズで知られる岩浪美和さんなど豪華スタッフ陣。

また、挿入歌など劇伴音楽の使い方は新海誠の影響を感じられずにはいられない。

新海誠の場合、1つの作品の1人のアーティストに限定されているが多いが

今作の挿入歌、劇伴音楽には以下の3つのアーティストが起用されるという欲張り構成になっている。

参加アーティストは

  • OKAMOTO’S
  • Official髭男dism
  • Nulbarich

また、劇伴音楽の大半を手掛けているのがOKAMOTO’Sである。

ただ、ただである。

正直な所、挿入歌の使い方に関しては新海誠の上手さを実感したというか、本作は突然感があったり、ぶつ切りで終わって残尿感が残ったりなんだかなぁと思ってしまった。本作の数少ない不満点である。

 

ストーリーのあらまし

舞台は2027年の京都。

f:id:Shachiku:20190921020910j:plain(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

内向的な性格の男子高校生である堅書直実は、自分で物事を決めることができず、周りに流されるがままに毎日を過ごしていた。そんなある日、京都の上空から3本足の烏が飛んできて、彼の読んでいた本を咥えて飛び去ってしまう。追いかけるとそこには白いフードを被った男性がいた。彼の名はナオミ。彼は直実の10年後の自分だったのだ。

「ここは記録された過去のセカイ。お前は記録された過去の俺だ」

実は直実が生きている2027年の世界は「京都クロニクル」プロジェクトで作り出された「記録世界」(所謂仮想現実)であるとし、彼は現実世界から記録を改ざんするためにやって来たのだ。

直美はやがて同級生である一行瑠璃と結ばれるが、その直後花火大会の日に命を落とすと言う。そんな過去を幸せな未来で上書きするため過去の自分と未来の自分がバディを組む。

未来の事が書いてある「最強マニュアル」の通りに行動する直美は少しずつ一行瑠璃との距離を縮めいく中で、直美自信、自分の意志で一行瑠璃の事を好きになっていく。

また、悲劇が起こるとされる花火大会で一行瑠璃を守るため生物以外のあらゆるモノを創り出せる「グッドデザイン」という能力を貰い、鍛練を積む。

だが、事件が起きた。本来であれば集めた本が燃え中止になった古本市場の行事。そこでショックを受けた一行瑠璃に優しく接する事で恋人になったハズだったが、「グッドデザイン」能力と一行瑠璃への優しい気持ちが重なり、またナオミの手助けもあって燃えた本を創り出す事に成功し、古本市場は大成功する。

「最強マニュアル」に背き、物語のエキストラでしかなかった存在がヒーローとなり、直美はナオミとは違ったカタチで一行瑠璃と恋人となった。

 

そして一行瑠璃の死という確定した未来を守るためやってきた自己修復システムから無事に一行瑠璃を守る事が出来た瞬間、ナオミの真の目的が判明する。

「『器』と『中身』の同調が必要だった。現実の彼女は死んだんじゃない。脳死になったのさ」

そのままナオミは一行瑠璃を連れ現実社会に戻り、寝たきりだった現実世界の一行瑠璃はついに目を覚ます事になる。

一行瑠璃が現実と同じように「記録世界」でも直美を好きになることで、現実と記録の彼女が同一になったからだ。

しかし、目が醒ました一行瑠璃はナオミとの思い出ではなく、「記録世界」で恋人になった直美の事を「堅書直実」だと認識しており、ナオミを拒絶する。

そんな中、現実社会だと思っていたナオミの世界にも自己修復システムが襲いかかり、一行瑠璃を抹消しようとする。それを守るため3本足の烏の助けもあり、世界を超えやってきた直美。

 

最後は無事、直美は一行瑠璃を守り、彼らは「記録世界」ではなく、誰にも未来が分からない「最強マニュアル」なんて存在しない、自分で自分のページを書いていく「新しい世界」で生きていく事になる。

 

「この物語はラスト1秒でひっくり返る」

この映画の本当のラストは、実は脳死したのは一行瑠璃ではなく、堅書直実であり、一行瑠璃は3本足の烏を介して直美の手助けをしていたという所。

分かりやすく書くと映画『インセプション』の階層のようなもの。

第2階層(アルタラの中にあるアルタラの中の世界。2027年の京都。最初に主人公がいる世界。堅書直実17歳)

          ↓

第1階層(アルタラの中の世界。2037年の京都。ナオミが現実だと誤認している世界。堅書直実27歳)

          ↓

現実世界(2047年。ラストで判明する一行ルリが脳死の堅書直実を助けようとしている。堅書直実37歳)

  • 現実世界では堅書直実は意識不明であり、一行ルリとミスズ達が堅書直実を助けようとしている。意識不明の原因は不明。花火大会の落雷から一行瑠璃を守ったのかも。
  • ミスズは2027年の世界に飛び、三鈴を利用して堅書直実を助けようとする(本編で三鈴が挙動不審だったのは裏で直美と一行瑠璃の為に行動していたため)
  • 2037年世界はルリとミスズが現実世界の堅書直実を救う為のモノ
  • 2037年世界のナオミが2027年世界の一行瑠璃を奪うと現実世界での堅書直実(器)との同調に失敗する(本来の堅書直実は優しく、そういう事をする人間ではないため)失敗する毎にデータをリセットしリトライ。
  • 映画本編での挑戦でナオミの行動に変化の兆し(古本再生に手を貸すなど)があったため、ルリとミスズはリセットせず続行を決断(失敗するとデータ修復出来ないリスクあり)
  • 2037年世界で、ナオミは自分の行動を反省し、本来の人のために行動する優しさを取り戻したため、器と同調し現実世界で目覚める事に成功する。
  • 2027年世界はビックバンで現実世界とは別の新世界となった。

といった感じ。映画本編の補完は小説を読むとよく分かるのでオススメ

 滅茶苦茶分かりやすく書くと27歳のおっさんが17歳の女を拉致しようとすると逆に自分が37歳の女に捕まった話(そんな話ではない)

 

ハローワールド

タイトルにもなっている『HELLO WORLD』というのは、プログラミング言語の入門編でよく使われるプログラムを動かすためのプログラミング言語の基本文法だ。

まずは"Hello World"を表示させるプログラムを書き、実際に表示できたら成功というもの。まさしく、新しいデジタル世界を構築する最初の一歩という事を意味する。本作でも堅書直実と一行瑠璃の二人がアダムとイブの如く、キスをして新しい世界を祝福する。

 

一行瑠璃

f:id:Shachiku:20190921020736j:plain(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

本作の一番の魅力はヒロインである一行瑠璃が滅茶苦茶可愛いという事である。

声優の浜辺美波も最高!

映画を見終わって一行瑠璃の事好きにならない人間なんているのでしょうか、いやいない(断言)

また、中盤あたりから京都の観光名所がシンゴジラよろしく蹂躙されるのも中々爽快。

シンエヴァエッフェル塔がぶん投げられますが、本作では京都タワーがぶん投げられます。タワーは投げられ映え最高ですね!

あと、デザインワークスに藤田和日郎さんが参加されているのだが、あの自己修復システムの擬人化である狐面をデザインされたという事なのだろうか。ここは分かればまた追記していきたい。

 

アニメーション的な部分、特に第二階層崩壊の所など今年は『海獣の子供』という化け物がいたのもあり、物足りなさは残ってしまったが本作はとにかく「新時代」「次世代」「「新機軸」アニメーションを強調しているが、それに負けない新しい何かを感じられるアニメ映画だと思う。

 

最後に一言

取り敢えず本当に切実に一行瑠璃みたいな彼女が欲しい。

HELLO WORLD (集英社文庫)

HELLO WORLD (集英社文庫)