社会の独房から

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映画『空の青さを知る人よ』感想。異性愛?百合?いいえ姉妹愛です!

想像してみて欲しい。

山々に囲まれたド田舎の人気の少ない寂れたお堂に、小学五年生という多感な年頃の男子が、好意を寄せている可愛く年上でパンツ見せる事にも無頓着な女の子と放課後、夜遅くまで二人きりで過ごすことが多い環境がどれほど天国で地獄なのかを。

私なら毎晩寝れない夜を過ごす事になる。

そんな不憫な小学生であり、私が本作で一番感情移入してしまった大地葉というキャラは主役級ではなく、所謂脇役だ。

メインキャラでなくても、その人柄と無限に想像が出来るバックボーンから1人1人を愛せて、応援して、この映画の話だけでなく、これからの人生を歩む彼らをずっと見ていきたいと思ってしまう。

 

そして、予告では若い男女の恋愛がメインの様に見えて、おっさんおばさんの人達は自分には輝かしすぎて向いていない映画だと思うかも知れないが、それは勘違いだ。この作品は今まさに青春のど真ん中を走っている子供たちに向けてというよりは、青春時代を通り過ぎて大人になって色々なモノを諦めながらも今もなお、もがき続けているおっさんおばさんにこそ響く作品になっている。そこには何よりも美しい姉妹愛がある。

そんな本作『空の青さを知る人よ』の感想をネタバレありで書いていきたい。

 

「空の青さを知る人よ」オリジナルサウンドトラック

 概要

あらすじ

秩父の町に暮らす高校生のあかねは、彼氏である金室慎之介や妹のあおいと共に、充実した青春を謳歌していた。

しかし、彼女の高校卒業間近に両親が交通事故で突然他界してしまい、妹のあおいと2人で生きていくことを迫られる。

彼女は卒業と共に東京の専門学校に行き、慎之介と共に歩んでいきたいという夢を抱いていたが、幼いあおいの存在により、それを断念。妹と共に暮らすことを決意した。

慎之介は彼女が東京に来ないことを嘆きながらも、東京に出て夢を叶えて、彼女を迎えに来ることを胸に誓う。

それから13年後。

 

あおいは高校生になり、自分のせいで姉を故郷に縛り付けてしまい、東京に行くことを諦めさせてしまったことを気に病んでおり、あかねを自分から解放したいという思いもあり、進学せず、バンドメンバーが他に誰もいないのに東京でバンド活動をしようとしていた。

そんなある日、町で音楽祭が開催されることとなる。そのバックミュージシャンの中には、あかねと別れたきり会えなかった慎之介がいるというのだ。

その頃、お堂でベースの練習をしていたあおいの前に13年前のまま、高校生当時の姿をした慎之介(しんの)が現れる。

あおいとあかね、しんのと慎之介、せつなくてふしぎな四角関係…過去と現在をつなぐ、「二度目の初恋」が始まる。

 監督は『とらドラ!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などの長井龍雪さん。

脚本は今やアニメを少し知っている人でその名前を聞かない人は存在しない、キャラクター間のドロドロとした関係に定評がある岡田麿里さん。

キャラデザは新海誠作品でもキャラデザなどを任され、注目されている田中将賀さん。個人的に田中将賀さんが描く絵柄大好きなんだけど、『天気の子』では田中将賀成分が薄まっているのを痛感したので、本作で堪能できたのは嬉しい。

所謂超平和バスターズの3人が関わっている本作。ちなみにアニメ映画だと最近どこでもその名前を目にする川村元気さんも関わっている。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』そして本作『空の青さを知る人よ』が全て埼玉県秩父市が舞台のため、秩父三部作と言われている。ただこの座組の作品は癖が強いのが多く、ニガテな人も多いと思う。そんな中、『空の青さを知る人よ』は見やすい作品になっているのでオススメだ。

 

タイトルの意味とガンダーラの意味

タイトルの『空の青さを知る人よ』

もちろん元ネタは『井の中の蛙、大海を知らず。されど空の青さを知る』ということわざ。

前半部分だけで使われることが多いことわざですが、それもそのはずで後半部分は日本であとからつけ足されたもので、出典の『荘子』にはない言葉だ。

本作における『井の中の蛙(以下略)』はあかねの好きな言葉として登場する。

両親を亡くし、幼い妹のために東京行きを諦めたあかねの身の上に重ね合わせ、山に囲まれた牢獄みたいな町、というあおいの表現を考えるに

井の中の蛙』=『地元から離れられないあかね自身』

と読み解くことが出来る。

そして後半の『されど空の青さを知る』の部分。

あかねは義務感であおいの面倒を見ることを選んだのではなく、自ら望んで、恋人(しんの)との未来を諦めてまであおいと一緒にいることを選ぶ。

なぜならたった1人の大好きな家族だから。

つまり

『あかねにとっての空の青さ』=『あおい』

だからこそ「しんの」の好きなツナマヨではなくあおいの好きな昆布を作る。

前後を繋げると

「あかねは広い世界には出られなかったけれど、本当に大切なあおいと一緒にいられる幸せを知っている」

あかねにとってあおいという妹が一番大切に出来る存在。

18歳から31歳までの13年間をあおいの為に捧げたが、でもそんなあおいと一緒に暮らす井の中から見える空はどんな空よりも青い。

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そして何度も出てくるガンダーラという単語。

これは歌の名前でもあるが、意味は「どんな夢も叶う理想郷」

ド田舎に住む高校生の慎之介はこんな閉塞感ある所ではなく東京こそがこのガンダーラだと思っていたが、隣にあかねが居ないまま東京に行き、知ってしまった現実の厳しさ。辛さ。そんな経験をした上でガンダーラとは場所なんて関係なく、大切なのは人であり、自由だと感じる心だと知る。

 

「しんの」という存在

生霊だと劇中で言われていた「しんの」

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「しんの」の最後の記憶は、あかねに東京行きを断られた日のものだった。

その夜、慎之介は悩んだ末に「ビッグなミュージシャンになってあかねを迎えに来るんだ」と決意し、その証として『あかねスペシャル』をお堂に置いていく。

しかし、同時に慎之介はあかねと離ればなれになる事を拒否し、前に進む事をやめ、今がMUGENになる事を望んだ。なぜなら慎之介の夢の1つはあかねと共いることだから。

その慎之介との強い拒否反応がまるでコピーのように『あかねスペシャル』に焼きついたのだと思う。

 

それは後ろ向きなんだけど決して否定するような事ではなくて、前に進む為にはどうしても自分の大切だった「夢」を置いて行かなくてはいけない時があり、それが大人になるという意味でもある。

もがき続け、捨てた理想や忘れてしまった想い。様々な後悔を抱きながら前に歩んでいく中で、彼はもう1度自分の「夢」に向かい合おうとする。想いを後悔しないために。

そして未来は輝かしいものだと信じて疑ってない頃の自分に、純粋だったあの頃の自分にぶん殴られて、前に進むことを、まだ「夢」を諦めずにいることを決意できた慎之介。

それを気付かせる為に「しんの」は存在したのだと。

終盤のシーンで、「しんの」が車の後部座席でそっと消えていく。『あかねスペシャル』を慎之介に渡すという役目を終え、今まで逃げていた自分の夢を真っすぐに捉え、捨ててきた自分の「過去」をきちんと自分のモノにできたんだなという感慨深さがある。

各キャラ達

相生あおい(CV若山詩音)

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本作の主人公にして太い眉毛が最高な彼女。

「しんの」への恋愛感情と姉への想いに揺られながら、大人になっていく。

若山詩音さんのボイスは普段も良いけど、辛い叫び声になると最高ですね。「泣いてないし」は突き刺さる。姉に対して酷い言葉を投げかける事もあるけど節節からあかね大好きが見えるので、この姉妹尊いってなる。公式は早く、大仏パーカー売って欲しい。

そして太い眉毛は最高。

相生あかね(CV吉岡里帆

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吉岡里帆さんってこんなに声優演技上手いの!?って驚く。

エンドロールで吉岡里帆さんの名前が出てきてビックリ。癒しがありながら芯を感じる姉声をださせたら天下一品ではないだろうか。これからも声優やって欲しい。

そして相生あかねは本作であまり内情が本人から語られる事はないが、それでも圧倒的存在感で、幸せになって欲しいと多くの観客に願われるキャラだと思う。

こんな姉が欲しかったし、ジムニーが欲しくなる。

 

金室慎之介(CV吉沢亮

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吉沢亮ってイケメンなのに声優も上手いなんて反則では!?

本作では吉沢亮のイケイケ高校生演技と大人びた演技で2度楽しめるので吉沢亮ファンは絶対観た方がよい。ますます好きになる。

そして映画観た人は気になるだろうあおいの同級生である大滝千佳とは本当に何もなかったのか問題だが、金室慎之介視点で『空の青さを知る人よ』が語られる小説にその内容は書いてある。読んでみると金室慎之介がクッソ真面目でビビリなのと千佳が想像以上に股ゆるでドン引く内容になっている。

空の青さを知る人よ Alternative Melodies (電撃文庫)
 

 

最後に

交響詩エウレカセブン』の「スタート・イット・アップ」みたいに空中で手をつなぐシーン。先日公開された『天気の子』でやっており、まさかの被りなのだが、個人的にはグランドエスケープ がバックで流れながらの映像リッチだった『天気の子』の方がどうしても感情は動いてしまった。ただ、本作もあいみょんの曲は良かったし、悪い訳ではない。ただちょっと公開日のタイミングがアレだっただけで。

あと、お姉ちゃんが生死不明な中、空中でイチャイチャするのもタイミングが悪いなと思ってしまった。まぁそれを言ったら『となりのトトロ』とかもそうなんですが。

 

しかし、エンドロール入るタイミングが最高。後から振りかえるとここしかないタイミングだった。エンドロールで親切過ぎる未来写真も見せてくれるのも良い。みんな幸せになって欲しい。特に大地葉

少し疲れた大人への応援歌になっている『空の青さを知る人よ』私は大好きですね。


最後に一言

13年前の人に『こち亀』終わるって言っても信じないわな

小説 空の青さを知る人よ (角川文庫)

小説 空の青さを知る人よ (角川文庫)