5年前、大学時代の友人が自殺した。
当時の私は社畜として忙しく、悲しくなる暇も余裕もなく、「死んだ」という事だけズシリと身体に響かせながら目の前の仕事に没頭した。
そして今年、年始の休みの間に時間を合わせて、大学の友達たちと墓参りを実行。
私が仕事が少し落ち着いたのもある。正常になった頭で考えると死んだ友人にお別れの挨拶もしていないというのは異常だなと今更気づいたからだ。
ただ、死んだ友人の墓の前に実際に立って、なんて声をかけたら良いのか分からなかった。
そもそも、未だに友達が死んだ感覚がない。
私は黙祷などをしている友達たちを気にしながら、漠然とお墓を見ていただけだった。
帰りの車の中で、友達の1人から『マイ・ブロークン・マリコ』を勧められる、面白いよと。
私もその漫画の名前は知っていた。第1回が掲載された日にすさまじい勢いでツイッターで拡散されたからだ。
知ってはいたが、私は「ジャンプ至上主義」だったので、自分には関係ない漫画だと思い、スルーを決め込んだ。
ただ、友人からしつこく「今のお前に必要」と勧められたので、1月8日に単行本が発売されたと同時に購入し、あまり期待することなく読むことにした。
それはまさしく「今の私に必要な漫画」だった。
作者平庫ワカ
あらすじ
「女同士の魂の結びつきを描く鮮烈なロマンシスストーリー」という編集部のキャッチコピーは伊達ではない。「ロマンシス」とは、「ブロマンス」という男性同士の友情に対応する形での女性同士の友情についての造語だ。
イカガワマリコ(マリコ)は主人公シイノトモヨ(シイノ)の高校からの友人であり、第一話冒頭、マリコの自殺の報道からこの物語は始まる。
マリコは高校時代で出会った時から既に心を病んでいる。シイノは成人してやさぐれたOLとして働く現在にいたるまで、何度も何度も、親からの虐待や恋人からの暴力から彼女を守ろうとする。しかしシイノがどれほど戦ってもマリコは壊れた人形のように元の場所にもどっていく。
そして、その友情は、物語の最初でマリコの自殺によって断ち切られてしまった。
手紙魔のマリコが、何も残さずに自殺してしまう。いままでに沢山の手紙をシイノに書いていたが、最後だけはシイノにも何も残さずにこの世を去ってしまう。
シイノは父親からマリコの遺骨を奪い取って、逃げ出し、海を目指してあてのない旅に出る。
振り返ってもあの人はいない
海を目指しながらシイノがマリコとの思い出を振り返りながら物語は進んでいく。
ここで重要なのはこの物語は全てシイノ目線で描かれており、マリコの考えは最後まで分からないという事だ。
思い出を振り返る中でシイノは「あんたがどんどん分からなくなった」と話す。
高校時代からあんなにずっと一緒にいたのに、何度も父親や恋人から体を張って助けたのに、なんで私を置いていったのか、一緒に連れて行ってくれなかったのか。故人となった今、何も分からない。そんなどうしようもない感情の赴くままシイノはただ海を目指す。
そしてこの漫画はマリコからの手紙という物語における遺骨の次に重要だと思われるアイテムが中盤でなくなる。
もし、あのまま手紙があったらシイノの中でマリコは可哀想で綺麗なだけの「いい思い出」を振り返る事が出来たのに手紙を無くす事で、マリコとの思い出は薄れていき、マリコの煩わしさ、可哀想なだけではかなったマリコの全てをシイノに思いださせるこのストーリーライン。
だからこそ
「・・・うん」
最後の最後にマリコからの手紙を読んだシイノのこの「うん」は、マリコの言葉への相づちでもあり、シイノ自身が間違っていなかったという肯定の「うん」だと私は信じたい。
死んだ人との思い出は全て主観であり、それが真実であるかどうかも年々分からなくなっていく。死んだ私の友達との思い出も日々忘れていく。
死は突然であり、お別れの挨拶なんてない。
実感なんて湧くわけない。
この漫画は「死んだ人との向き合い方」という普遍的テーマを誠実に描いていると思う。
日常はどんな時もやってくるし、目の前の仕事は終わらない。
私達はそんな美しくない日常の中で、ふとした瞬間に思い出す。
あの笑顔、あの思い出。
そんな些細な存在が今の私を形作っているのだと気づかせてくれる。
だからこそ生きていく。
死んだ人に会えるのは生きてる人だけなのだから
最後に
『マイ・ブロークン・マリコ』はたったの1巻で物語が完結したのは思えない程の疾走感、怒り、鎮魂と救済がある。
シイノはマリコを責めない。
どんだけ迷惑をかけられても、それでもマリコの手を離さない。
「あんたの周りの奴らがこぞってあんたに自分の弱さを押し付けてたんだよ」と。
私は、友達が仕事が苦になって自殺したと墓参りの時に知った。
上司のパワハラが酷く、精神的に疲弊したらしい。
人が人をそこまで追い込むなんて間違っている。
出来ることなら例え気休めでも自己満足でも良い、「お前は悪くない」と言ってあげたかった。
この後悔は私の中でいつまで生き続けるのだろうか。
生きている人が死んだ人にしてやれる事なんてない。
それでも、自分の中で決着をつけて「大丈夫」と言えるその日まで頑張りたい。
そう思える漫画だった。