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漫画「姫様”拷問”の時間です」感想。ちょろい姫様がクセになる。

 

「くっ、殺せ!」という展開をご存知だろうか。

美しい姫、王女という身分にありながら、自ら武装して戦場に立つ戦乙女のような存在が敵に捕まり、尊厳を破壊され、人に見せられない顔にされて陥落してしまうという展開のことである。

大体エロ展開になってしまう訳だが、基本的に捕まった女性側が心身共に酷いことになってしまい、私のような「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じているおっさんには見ていて辛くなってしまうことも多い。

 

そんな「くっ、殺せ!」漫画の中で極力「誰も傷つけない」って素敵やん?という精神を元に描き、優しい世界が広がりながらも、よくよく考えると怖くね!?ポイントもある漫画「姫様”拷問”の時間です」の感想を書いていきたい。

姫様“拷問”の時間です 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

原作『戦勇』などで知られる春原ロビンソン先生

漫画『シンマイ新田イズム』のひらけい先生

 

あらすじと概要

国王軍と魔王軍が衝突を始め幾年月。王女にして国王軍第三騎士団“騎士団長”の姫は、魔王軍により囚われの身となっていた。魔王軍は姫様から機密情報を聞き出すために”拷問”を始める。

 

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「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

 

第1話では、最高位拷問官であるトーチャが姫様の目の前でホッカホカパリパリのトーストを目の前で真っ二つにするという世にも恐ろしい拷問が行われる。

 

f:id:Shachiku:20200218222112j:image「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

数々の戦場を生き抜き、多くの成果を上げ、あらゆる帝王学を受けてきた姫様でもたまらずヨダレが出てしまう。

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 「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

 遂に姫様は堕ちてしまい、機密情報を話してしまう。


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「姫様”拷問”の時間です」第一巻

情報を話し、用済みになってしまった姫は思う存分、トーストを食べることが出来て、ハッピー!っな感じで1話が終わる。

はい。

現在40話ほど続いているが、大体こういうフォーマットで毎回毎回進んでいく。

 

ちょろい姫とサイコパスな姫

 

 秘密を話すと「用済み」になり、拷問に使った料理を食べる事が出来る。

読者は姫様の気持ちの良い食いっぷりに見惚れてしまう。

 

このように変わり種のグルメ漫画のような側面もあるのだが

姫様が拷問に屈するまでの駆け引きが滅茶苦茶しょーもない。

しかし、このしょーもなさが本作の売りである。

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「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

 

 そしてこの姫様、国王軍第三騎士団“騎士団長”をフリにして滅茶苦茶ちょろく機密情報を喋る。しかも、回を重ねることにノリがユルユルになっていく。

 

例えば、初めて出来た魔王軍の友達が病気で倒れた時には、お見舞いに行くために拷問を受ける前から機密情報を喋ったことさえある。人として出来ているようで人として最低である。

他にも魔王の娘が出てきた回ではその可愛さから機密情報を喋ったり、もうなんか逆に機密情報を喋るのがライフワークになっている所さえある。

f:id:Shachiku:20200218224303j:image↑注射が嫌いで寝返る姿勢を見せる姫様。騎士道精神とは 

「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

 姫様が話す機密情報はこういうしょーもない奴から

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「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

暗号通信の解読の仕方や、警備の穴など、ガチの奴まで様々だが、こういうガチな情報に関しては魔王様(本作のもう一人の主人公)がこれまたしょーもない理由で不採用にする。

f:id:Shachiku:20200218220951p:image「姫様”拷問”の時間です」第一巻

 

当たり前だが、姫様はその情報が不採用になったということは知らない。

つまり、姫様が漏らした機密情報のせいで数多くの人が死んでいるのかもしれないのに、姫様はそんなこと悩む素振りもなく、今日も機密情報をペラペラ喋ってしまう。

拷問ではユルユルだが、普段の戦闘は意外と命がけであり、姫様も魔物を殺している描写がある(実際には死んでいなかったが)

つまりガチの戦争をしているのであり、姫様の情報一つで多くの犠牲がでる可能性はあるのだ。

読者のメタ視線であれば、人格も良く、子煩悩であり、真面目で、「墓荒らしは良くない」と世界中の勇者に言ってやりたい正論を述べることさえある魔王様がどうせ秘密を不採用にするとわかるが、そういう事情も知らないのにペラペラ機密情報を喋る姫様の「こいつやべー奴」感は段々と増してきている。

おそらく本作一のサイコパスは姫様で間違いない。

 

拷問自体は終わっていないので完全な用済みになっておらず、そこから戦争はまだ終わっていないと推測出来るだろうが、自分のせいで犠牲者を数多く出しているのかもしれないという不安を全く感じさせないこの鉄壁の精神力。

まさに戦乙女なのかもしれない。

 

また、姫様自身がどうしても国王軍にいた時は自分の本性を隠し、王女にして国王軍第三騎士団“騎士団長”として取り繕っていたように見えてしまう。

それが「姫」という立場ではなく、奴隷の身分になって始めて友達が出来たり、次々にやってくる拷問官と仲良くなり、心許したりしていく。剣を握るのではなく、箸を握る。それこそが彼女らしい、自分らしいと思えてしまう。

彼女の居場所。「姫」からの解放。

これが『姫様”拷問”の時間です』のテーマになるのかもしれない。

 

最後に

色々書いたが、本作の見どころは頭空っぽにして楽しめるということである。

私も火曜日の朝の通勤中という考えうる最悪な時間帯にこの漫画と爬虫類の漫画を読んで救われている。ありがとう。

 

やはり、みんな真面目なのが良い。

みんな真面目に拷問をして、真面目に拷問を受け、真面目に機密情報を話す。

でも、全員バカ。

このバランスが良いし、何より姫様の顔芸が素晴らしい。

「くっ、殺せ!」でありながら誰も傷つかない幸せな物語。

是非、一度読んでほしい。